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2015年 パプアニューギニア
もうあと何日か寝ればクリスマスと2016年が待っている頃。ミッドウェーから出撃した国際連合艦隊は、マレー半島から南下しつつ敵軍を捜索する。
大海原に浮かぶゴミとそこに群れる魚と海鳥を見てレッドがぼやく。
「中国軍の特徴がなきゃ先行されてるのに気づかなかったかもな」
「特徴? 何かあるの?」
「通った後にゴミを捨てて行くからそこに魚と海鳥が群れるんだ」
「ふーん。ダメダメだね。そんなのじゃ敵にばれちゃうよ。わたしはここにいるよって」
「元日本軍の隊長ならともかく、元米軍所属のレッドが知ってるとは」
「俺は元々在韓米軍だったからな」
赤城は三十五ノットで風上に向かって進んでいる。加賀などの別の空母からも多数の戦闘機が出撃している。車止め外せの合図とともにカタパルトにF-2とF-15が乗る。少し離れたところにJAS-39とSu-27が待機する。そして二機が発艦。
『ブルーバード3・4、発艦位置へ進んでください』
「「Rader(了解)」」
発艦士官の声がヘルメットのイヤーピースに聞こえたので短く答える。
「ブルーバード3、発艦カタパルトにつきました」
「ブルーバード4、待機位置で待機する」
『了解。ブルーバード3は発艦せよ』
「Rader。ブルーバード3発艦します!」
アフターバーナーを点火したJAS-39が飛び立つ。その後ろで待機している Su-27が進みだす。
「ブルーバード4、発艦カタパルト到着」
『了解。発艦してください。その後直ちに要撃管制官にコンタクト願います』
「了解」
合図を送ると、オレンジ色のヘルメットをつけた発艦士官の手が上がる。飛行甲板脇のコントロールモジュールのカタパルト管制士官が蒸気圧力をチェックし、射出スイッチに手をかけて合図する。ブラックはスロットルをミリタリー・パワーに。アフターバーナーが自動点火する。発艦士官が手を振り下ろした。ぐんっ、と加速する。それと同時にブラックの男性としては小柄な体に強大なGが衝撃となって襲いかかる。
甲板を出て操縦桿で水平を維持しながら車輪を格納。百四十ノットで徐々に上昇。二百ノットに達したあたりでフラップを上げてアフターバーナーを切る。
『こちら赤城要撃管制。編隊集合ポイントへ誘導する。右旋回して機種方位を二十度、高度五百フィート(百五十メートル)に』
「了解」
青色の鶴は先行している有翼獅子を追って三百ノットで編隊集合ポイントを目指す。
日の丸を主翼に描いた洋上迷彩と雲のような白と灰色を織り交ぜた塗装、日本軍伝統の新緑塗装の戦闘機の編隊の中に主翼にUNMAF(United Nation Mercenary Air Force:国連傭兵航空部隊)とシンプルに書かれた傭兵たちが混ざる。
敵艦隊は空母遼寧を旗艦とし、中華イージスと呼ばれる蘭州級駆逐艦を始め、鹵獲したものであろうグレゴリオ・デル・ピラール級フリゲートなど、やたらと豪華な布陣となっている。だが、なぜか艦載機が上がってこない。
《我们精良强大的中国军应该输给作为我们的劣等种族日本人等没有。因而,无需使用舰载机!(我々の劣等種族である日本人如きに我ら精強なる中国軍が負けるはずなどない。よって、艦載機を使うまでもない!)》
「こちらクローバー2。敵軍の通信周波数を確認。繰り返す。敵軍の通信周波数を確認。これで奴らの通信は俺たちに丸聞こえだ」
通信不良のために偶然周波数をいじっていたF-15のパイロットが中国軍の通信とコンタクトした。
対艦攻撃を行うブルーバード、F-2、F/A-18、F-35のうち、青い洋上迷彩を施した機体に乗るパイロットたちは対空砲火を警戒するために身構える。
「こちら海軍F-18攻撃隊。空軍、援護頼む!」
「こちら空軍F-15要撃隊。今からあんたたちの護衛に入る。どれだ?」
「こちら陸軍Su-27要撃隊。俺たちに守って欲しい奴はいるか? 可愛い女の子のいる部隊だけならその頼みを聞いてやるぞ」
『空海軍飛行隊に女がいると思うなよ! いるんなら俺たちが守ってるわ!』
「こちらブルーバード。なら自分たちを守ってくれるかな?」
「そういうノリ好きだぜ、青い鳥! 結婚してくれ!」
「悩みどころだけど、気持ちだけ受け取っておくよ。自分には許嫁がいるのでね」
「マジかよ……」
「こちらホークアイ。戦闘空域だ、私語は慎め特に陸軍。敵戦闘機の数はおよそ七十。もしかしたら垂直離着陸機もいるかもしれないから気をつけろ」
「こちら対潜哨戒中のシーイーグル。潜水艦がいる。気をつけろ」
AWACSやP-3哨戒機、他の空軍機から無線でいろいろな情報が入ってくる。
先制下したのは日本軍。高機動性を活かしてF-2部隊が対艦ミサイルを放つ。白い軌跡を描いた青色の槍が敵巡洋艦に直撃。中国軍も負けじと高射砲やVLSで日本軍機を襲う。白い軌跡が大空を舞い、爆発という名の花火が上がる。後に残るのは落下傘と黒煙、血飛沫を上げるパイロットだったもの。
そんな中でブルーバード隊に近づいてくる獰猛そうな動物のノーズアートを描いた五機のSu-27がいた。陸軍のエースたちだ。
「こちら大日本帝国陸軍戦略教導飛行隊のコブラ1。これより青い鳥の護衛につく。よろしく頼むぜハウンド1」
「おいこら俺はもう猟犬じゃねえ。今は希望の青い鳥、ブルーバード4だ」
「似合わねー。あんたが俺たちに与えたのは絶望だってのに。今では希望を与えるってか? どっちかっつーと白い死神ならぬ青い死神だろ」
「ふふふ。まあそうかもしれないね。では、ブルーバード隊、対艦攻撃に移る。皆、自分を守ってくれ」
「「「了解」」」
「こちらハウンド2。ブルーバード護衛に入ります。お久しぶりです隊長。私のこと、覚えてますか?」
「こちらコブラ1。ブルーバード護衛に入る」
「コブラ2護衛に移行」
「コブラ3同じく」
「ハウンド3も護衛に移行」
対艦ミサイル四発をぶら下げたF-2がやけに軽快な動作で敵艦の周りを飛び回る。護衛についている戦闘機がついてこれないような機動で敵を翻弄する。
「おいおい、これが双発F-2の本領か。恐ろしいな」
「ブルーバード1、FOX2!」
四本の対艦ミサイルが蘭州級駆逐艦の至近距離で放たれる。その距離およそ数マイル。イージス艦とはいえ、この距離で放たれれば迎撃はできない。そう見越しての射撃だった。放った直後にF-2は離脱。その直後に蘭州級駆逐艦が爆発して艦橋、艦首、艦尾の三つに折れ、沈む。
「オーバーキルだったかな?」
一番の強敵になるであろうと思われた蘭州級駆逐艦二隻のうち一隻が轟沈し、脅威がひとつ消えた日本軍攻撃隊は、敵艦めがけて対艦ミサイルを放つ。空母の周辺を攻撃するのは難しいが、周りの護衛を減らせば海軍の艦砲射撃が首を長くして待っている。
《做着什么。快速说服敌人!赶快丢落!(何をしているんだ。早く敵を墜とせ! さっさと墜とせ!)》
《CIC,掛上ECM。別這邊使之做敵人瞄準!(CIC、ECMをかけろ。敵をこちらに照準させるな!)》
「くそっ、レーダーに何も映らない!」
「落ち着け! 俺たちはこんな時のためにレーダーなしでの対艦攻撃訓練を積んできただろうが!」
「そうだな。オーガー3、FOX---」
「オーガー3! 逃げ---、ぐああっ!」
急に五機のF-15が爆発した。続いてF-35とF-18、F-2の編隊も爆発してしまう。ECMをかけられて何もわからない日本軍パイロットたちは恐慌状態に陥った。どこかでパイロットの一人が叫ぶ。
「クソッ、どこから攻撃が来てるんだ!」
「潜水艦か!?」
『こちら連合艦隊旗艦大和。全機帰投せよ、全機帰投せよ。大変なことになった』
「なんだと? どういうことだ」
『敵は中国軍だけではないようだ。どうやら奴らに何者かが加担している。お前たちの下に潜水艦がいる。ただの潜水艦じゃない。潜水空母、いや、もっと大きな、一体、なんなんだ。とにかく、わからないが何かが海上に向けて急上昇しているんだ!』
「なら、ベイルアウトした奴らはどうするんだ!」
『今は放っておくしかない! 彼らを失ってしまうのは我々だって辛い! だが、これ以上戦力を失うわけには行かないんだ! 急いで戻るんだ。我々が時間を稼ぐためにこれから敵艦に向けて主砲を発射する』
「畜生!」
大和からの交信に合わせるように海中から出てきたのは見たこともない巨大な潜水艦。潜水艦のハッチが開き、煙とともにミサイルが発射された。ホークアイが叫ぶ。
『全機、退避しろ! 急げ!』
『うあああっ!!』
戦闘機が鉄の雨に飲み込まれる。次々に落ちていく戦闘機。そこにはベイルアウトもなにも関係ない。飲み込まれたら死という選択肢しかなく、それ以外を選ぶこともできない。ただなすすべなく飲み込まれていくしかなかった。
生き残った機体がよたよたと北へ向けて飛び去る。最初は六十機近い数だったのに、いつの間にか半分ほどにまで数が減っていた。
2015年 戦艦大和
「各砲塔、レーダー照準システムに連動。風速修正試射用意」
艦首砲塔群のすぐ後ろに位置する主砲射撃指揮所では、砲撃管制士官たちが防音ヘッドセットを耳に当て、主砲照準レーダーが送ってくる目標敵艦隊のポジションや速度、そして気象衛星などから送られてくる風向きや風速などの情報を射撃照準コンピュータに入力する。
「試射行います」
戦艦大和の後部飛行甲板ではシーハリアーが着弾観測のために飛び立った。
「撃て」
その言葉と同時に管制士官が発射シークエンスの実行キーを押した。衝撃が大和を襲い、その後に着弾観測機からのデータが送られ、修正を行う。主砲コントロール席のコンソールで各砲塔の自動追尾ランプが緑に点灯する。
「各砲塔オールグリーン。目標敵艦隊。砲撃準備よし」
「撃て!」
「発射!」
再び管制士官が発射シークエンスの実行キーを押す。先ほどの何倍も大きい衝撃波が大和を襲い、二百六十メートルを超える巨体が大きく揺れる。それから数秒、艦橋にいた男たちは腹を思い切り殴られたような顔をし、初めて主砲の一撃を食らったものはその場で今日の朝食べたものを吐き出してしまう。
大和の主砲から放たれた九つの砲弾は帰投する戦闘機とすれ違い、敵艦隊に向かってマッハ三で飛ぶ。だが、敵潜水艦は既に潜行し、敵空母も既に去ったあと。九つの巨大な砲弾は航行不能となり、誰もいなくなった巡洋艦に当たるか、何もない海中に落ちた。
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2027年 日本 大日本帝国陸軍朝霞駐屯地
「連合軍はこの南洋諸島沖海戦で大敗を喫した。赤城に戻ってきたのはたったの十機だけだった」
「加賀や、信濃の機体はどうなったんですか?」
「私にも詳しいことはわからない。だが、相当少なくなっていたよ。なにせ当時の第一航戦の兵力が半減したのだから」
山田中佐はそこまで語るとふう、一息ついた。
「だが、大敗北を喫したのは日本だけじゃない。アメリカも、ドイツも、フランスもイギリスも。みな負けてしまったのだ。今でもよくわからない謎の兵器に」
「謎の、兵器」
「日本軍の相手は巨大潜水艦。アメリカ軍は巨大な航空機。航空戦艦と言っていたかな? イギリスとフランス、ドイツは連合でまた別の巨大航空機と戦ったが、それぞれ攻略方法が見つからず、または勝負にすらならずに敗北を喫した」
「けど、その兵器は中国の技術で作られたものではないんですよね?」
「ああ。奴らにそんな技術力があるとは思えない。アメリカですらあんなものを作るのは不可能だったのだから。後からわかったことだが、あの兵器の一部にはレールガンを積んでいるものがあった」
レールガン。物体を電磁誘導により加速して撃ち出す装置。電磁投射砲やEML (ElectroMagnetic Launcher) などとよばれている昔から知られている兵器。一部の艦船には積まれているが、航空兵器に搭載するというのは聞いたことがなかった。
「そんなこと、可能なんですか?」
「普通に考えて不可能だ。その技術を誰がもたらしたのかもわからない上、今では海の藻屑となっていて引き上げようにもどこに沈んでいるのかさえ全くわからない。製造基地らしいところも国連軍が容赦なく燃やし尽くしてしまったからね」
「では、その兵器の名称はわかりませんか?」
「名称か。たしか、飛行戦艦天空と飛行要塞天界、巨大潜水艦海王だった。我々日本軍の中での名称はね。あれらには正式名称なんてなかった。捕虜にした兵士から情報を聞き出した時も一号、二号、三号だったからな」
「では、ベイルアウトしたパイロットたちはどうなったんですか?」
「彼らは大和の他にソマリア方面のPKOから戦力一本化のために帰還途中だった五航戦や第六艦隊が救助した」
山田中佐はアタッシュケースからノートPCを取り出し、私たちに三つの超兵器を見せてくれた。
「これがその三つだ」
飛行戦艦天空。羽のある戦艦大和のような形状をしているが、ハリネズミの体毛のように対空砲が顔をのぞかせている。飛行要塞天界は複葉の巨大な爆撃機のような形をしている。下にはUAVと思われるものが飛び回っており、空母としての役割も果たしていると思われた。そして巨大潜水艦海王。全長は三百メートルほどで潜水艦としての機能だけだなく、攻撃空母としての機能を備えているようだ。
「これらが出現したおかげで我々は日本まで後退せざるを得なくなった。だが、その間に奴らはオーストラリア、東南アジアだけでなく、中東を占領し、アフリカへと手を伸ばしていた。その後、資源を手に入れた中国はついに我が大日本帝国に向けて侵攻してきた。今度はその話をしよう」
辞書で引いただけなので、中国語間違ってるかもしれません。もし間違っている場合は許してください。というか、教えてくださると嬉しいです。
次回は2/12更新予定です。