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名もなきエースたちの戦記  作者: 飛桜京
本編 戦争前半
4/19

2-2

クルクルとロールし、錐揉落下のような降下をしながらSu-27が落ちてくる。これを見た兵士たちは止めを刺すためにSu-27に照準を合わせた。


「「何をやってるんだ、ブラック!?」」


グリーンとレッドが叫ぶ。その時。


「ブルーバード4、FOX2、FOX3!」


三十ミリ機関砲と空対空ミサイルが敵陣地で炸裂した。そのまま地を這うような低空飛行で機関砲を乱射する。通ったあとには爆発するSAMや対空機関砲が残される。ブラックの現在の高度は十フィート(約三メートル)。技量に自信がなければまず出来ない芸当だ。無線から敵兵士の声が聞こえる。どうやら混線しているようだ。


《敵は一機だ! 何をやっている!》

《む、無理です! 速すぎます!》

《我が軍は世界最強の軍だ! あんなでかい的、簡単に墜とせるだろう! 無理でも気合でなんとかしろ!》


 敵の指揮官が随分な無茶を言っているので、ブラックは苦笑する。


「よお、ならさっさと撃墜してみろよ。混線してるから話が丸聞こえなんだよ、馬鹿」

「あと、一機じゃねえよ。四機だ」


 レッドが割り込んできた。ブラックの乗るフランカーの少し上後方に洋上迷彩のイーグルが、その少し離れたところにグリペンとバイパーゼロが飛んでいる。おそらく高度は二十フィートほどだろう。イーグルの最低限界高度は五十フィートだったように思うが、どう見てもレッドは二十フィート付近を飛んでいる。なんという技量だ。と思った途端に、「怖っ!」と叫んで高度を上げた。


「レッド君、無理しなくても構わないんだよ?」

「いや、フランカーにできるならイーグルにだってできると思ってたんすけどね」

「いや、あれはただ単にブラック君の技量が異常なだけだから、気にしなくても構わないさ」

「どこで練習したんだろうねー」


 前方の爆発していく大地を見ながらレッドは歯噛みする。


「クソッ、ブルーバード2、制空戦闘に移る。ブラック、俺の分までやっといてくれ」

「了解。できる限り早く追いつくようにしよう」


 要塞の壁が迫ってきた。扉が開いている。大きさとしては縦横二十メートルほどか。


「全機、ブレイク!」

「はい!」

「ウィルコ!」


ブルーが機首を上げて右へ抜ける。ホワイトも同じように左へ。だが、ブラックが動かない。


「ブラック、どうしたの?」

「…………」


ホワイトの呼びかけにブラックは反応しない。いや、上を見て親指を立てた。


「まさか、門をくぐり抜けるつもりか?」


そのまさかだった。門をくぐってインメルマンターン。一気に城壁を飛び越えてそのまま上昇し、近くを飛んでいたJ-11に襲いかかる。


「よお」

《!?》

「出会い頭に悪いが、墜ちろ! FOX3!」


ヘッドオンでコックピットを撃ち抜く。だが、寸前でベイルアウトしたようだ。


「逃げられたか」


主のいなくなったJ-11は黒煙を噴きながら城壁に激突、周囲を巻き込む大爆発を起こした。どちらにしろもう飛ぶことは不可能だろう。


「次だ」

「こちらグリーン。ブルーバード4、やるじゃないか。対空兵器の全滅を確認。今から陸軍が南北から制圧戦に入る。……東に敵編隊発見! 超低空だ、陸軍を援護しろ!」


四機のMig-29編隊が要塞内に突入した。ブラックと同じように門をくぐって。


「あれか。まさかブラックみたいな奴が他にもいるとはな。しかも知り合いで」

「レッド君、呑気なことを呟いている余裕はないぞ」


 ブルーの無線に割り込んできたのは、ロシア語。


《Привет, вы "Bluebird". Я имел воздушную битву люблю показанный пункт. Это не делает легко? (こんにちは、「青い鳥」。先ほどの空戦は見せてもらったよ、なかなかやるじゃないか)》

「燕、か」


燕部隊。燕を模した塗装されたMig-29OVTの四機編隊。かつてはロシア空軍のアグレッサー部隊にいたエリート部隊なのだそうだ。ブルーバードとはわりと親交のある傭兵部隊で、何度か戦線を共にしたことがあるのだとか。


《Хотя это плохое, в этой битве, он враг. Начиная с мы задействуемся как армия Китая. Не могли бы ли вы отойти что в сторону говоря? Мы сказаны размельчаем армию союза.(悪いが、今回は敵だ。我々は中国軍に雇われているのでね。ということで、そこをどいてくれないか? 我々は連合陸軍を潰すように言われているんだ)》

「それは残念、出来ない相談というものだよ。自分たちは連合軍に雇われているのでね。敵となった以上は仕方がない。全力で自分たちが相手をしよう」

「ブルーバード隊、交戦を許可する! 全力で暴れてきな!」

「「「「了解!」」」」

《1 поглощают, враждебность!(燕1、交戦!)》

《2,враждебность.(2、交戦)》

《3 поглощают, враждебность!(燕3、交戦!)》

《4 поглощают, враждебность.(燕4、交戦)》


青と黒の戦闘機の群れが大空にヴェイパートレイルをぐえぐねと幼子がクレヨンで適当に何本か持って描いてみた落書きのように描く。


互いに高速で動き回り、立ち位置がめまぐるしく入れ替わる。そんな中、燕の一機が輪を抜けた。ブルーの合図を受けたブラックがそれに追随する。


《Вы нагнулись пройти под воротами некоторое время тому назад? Журавлик. Я это Tsubame взвод Номер. 4 возможности. Вновь прибывшие, как сделают друзей.(さっき門をくぐり抜けたのは君だな? 鶴君。私は燕小隊の四番機。新入り同士仲良くしようじゃないか)》

「Поглотите Взвод. Это спрашивает слух. На вид он прежняя Россия воздух элита силы. Я Синяя Птица4. Я используюсь почетный получить к партнеру. Это поедет!(燕小隊。噂には聞いているぞ。元ロシア空軍のエリートらしいな。俺はブルーバード4。相手になれて光栄だ。行くぞ!)」


ブラックが流暢なロシア語を話し、操縦桿を握り直す。目を閉じてマスクから送られてくる酸素を深く吸い込み、ゆっくり目を開ける。


エンジン・スロットルレバーを通常出力最大、さらにその奥へ。ガチっ、という音とともに青色の鶴は翼で空を切り裂くようにして加速する。アフターバーナー点火。ジェットの炎がエンジンノズルから伸びる。


点のようだったMig-29との距離は一気に縮まり、影が大きくなったと思った途端にゴウッ、という轟音とともに空気が唸って左後方へと消える。背後に消えた燕を首を曲げて目で追いつつ、操縦桿を左斜め手前に。強いGがブラックを襲うと同時に鶴は蒼い身体に白い水蒸気のドレスを纏い、翼端が白い糸を引く。腹筋に力を込めて肺からなかなか出ようとしない息を強引に放出し、急反転。正面に捉えることができた。だが。


Mig-29はくるりと反転。こちらにヘッドオン状態でその名の通り飛燕のごとく襲いかかってきた。ヘッドオン状態での彼我の距離はおよそ百メートルあるかないか。ミサイルは不可能。残されているのは、機銃。


「《FOX3!!》」


赤い火の玉が何発も後方へ抜ける。被弾はしていない。


「《Не сделайте легко!(なかなかやるな!)》」


Mig-29が再びくるりと反転して背後から襲いかかる。


《Назад совершенно пустой.(背後がガラ空きだ)FOX―--!?》

「面白い戦いをさせてくれた礼にフランカーのお家芸を見せてやるよ」


ブラックがやってみせたのはコブラ機動。1989年にSu-27テストパイロットのヴィクトル・プガチョフの手によって初めてパリの航空ショーで初公開されたため、「プガチョフ・コブラ(Pugachev's Cobra)」の名で呼ばれる機動で、実戦で用いられるものではなく、失速領域での飛行特性の良好さを訴えるデモンストレーションの意味合いが強いが、それをブラックは実戦中にやってみせた。


真下を抜けてしまったMig-29はSu-27のジェット気流に当てられて大きく揺れる。そしてそのままSu-27は背後に回る。


「ブルーバード4、FOX3!」


トリガーを引いて十発の弾丸が射出される。エンジンノズル、エルロン、フラップに直撃。


《Поглощают 4, ejection! (燕4、イジェクト!)》

「ヒャッホーーーッ!! ブラックが敵エースを撃墜だ!」


グリーンが叫ぶその下、墜落していくMig-29の上空、パラシュートが開いた。


《Поглощают 4 был поврежден. Вещи пути стенд, это не может выиграть. Это возвратится. Это ожидает на поглощают 4 и основу. Убедитесь чтобы возвратиться.(燕4がやられた。このままでは勝てない。帰るぞ。燕4、基地で待っている。必ず帰って来い)》


三機の燕が北に進路をとって帰投する。


「よくやったぞ、ブラック君。自分たちも帰投する。まあ、進路は彼らと途中まで同じ北。日本だが」

「「「了解」」」


北へ向けて飛んでいく八機の戦闘機とAWACSに地上の連合軍の兵士たちは大きく手を振って彼らを見送った。




「ヘイ、ブラック。さっきの空戦見てたぜ。すげえな」

「隊長、俺らにもあんな動きできねえかな?」

「馬鹿、ブラックウィドウがステルス性にだけ特化した機体だってこと忘れてるだろ。ラプターならまだしも、俺らじゃ無理無理」

「隊長、俺らもラプターに乗り換えようぜー?」

「もう金ねえよ! ブラックウィドウのローン、まだ返済終わってねえんだぞ!」


尾翼に大きく「忍」と日本語で書かれたYF-23が一機づつにぴったり寄り添うように飛んでいる。ホワイトがYF-23の機銃口付近が黒く煤けているのを発見して、質問した。


「結局何機撃墜したんですか?」

「全員で二十近くは撃墜したんじゃないか?」

「一人五機計算じゃねえか。俺四機撃墜だし、まだまだだな。ブラックが二機と対空兵器が?」

「さあな。途中から数えてなかったからなあ。三十くらいまでは覚えてるんだが」

「「ま、負けた。制空戦闘機に、対地攻撃で負けるなんて」」


このあとブルーとホワイトはしばらく不機嫌なままで日本につくギリギリまでそのままだった。


■■■


2027年 街


「……すごいですね。そんなことがあったんですか」

「ああ。もう、すごかったぜ?」

「そのあとは日本に行ったんですか?」

「おう。ニホンのギフで四人の機体を艦載機仕様に改造して海軍の第一航空戦隊の空母アカギに積んだんだ。そこから先はあんま知らねえな。俺たちはシャドウシーカーについていったからな。俺の話はここまでだ。こっから先を知りたいならニホンに行くこったな」

「あ、お話、ありがとうございました。また連絡して大丈夫ですか?」

「いつでも来な。あんたみたいな奴は大歓迎だ」


その後お代を払わされることになるとは思わなかったが。奢ると言われていたのに。


□□□


シンガポール要塞攻防戦

戦果:ブルーバード1―--対空・・・0

            対地・・・25

    ブルーバード2―--対空・・・4

            対地・・・1

    ブルーバード3―--対空・・・0

            対地・・・20

    ブルーバード4―--対空・・・2

            対地・・・30~???


   シャドウシーカー1―--対空・・・5

    シャドウシーカー2―--対空・・・5

    シャドウシーカー3―--対空・・・5

    シャドウシーカー4―--対空・・・5

ロシア語、めんどくさいです。なんでこんな設定にしたんだろう。ちょこちょこ間違ってる可能性があるので、もし分かる人はご指摘ください。よろしくお願いします。


次回は29日更新の予定です。

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