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名もなきエースたちの戦記  作者: 飛桜京
本編 戦争前半
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1

2015年 洋上



開戦から一週間。洋上迷彩を施した三機の戦闘機の異種編隊がインドネシア国境付近を飛んでいる。


先頭にF-2、右後方に翼の一部を赤く塗ったF-15、左後方には翼の一部を白く塗ったJAS-39だ。主翼には正規軍でないことを示すために剣と銃が交差されたエンブレムと、尾翼に青い鳥が描かれている。


「隊長、今日は俺らの隊に新入りがくるそうで」

「よく知ってるじゃないか。レッド君。その通りだよ。さあ、出てきたまえ、新入り君」


すると、すうっとどこからともなく一番後方に三機と同じような塗装で翼端を黒く塗ったSu-27が現れた。


「「!!」」

「やあ新入り君。待たせて悪かったね」


Su-27に乗った新入りは少したどたどしい口調の英語で隊長の言葉に反応した。


「本当ですよ。超低空で二人の死角をつきながらついて来いとか無茶言わないでくださいよ。どれだけ疲れたことか」

「まあまあ、けどそれをやってのけた君も君だと自分は思うんだが?」

「まあ、そうなんスけどね。おっと、俺はブラックです。本名を名乗る気はありません。先輩方、よろしくお願いします」

「俺は二番機のレッドだ。よろしく頼むぜ、新入り」

「わたしは三番機のホワイト。よろしくね」

「自分は隊長のブルーという。これからよろしく頼むよ、新入り君」

「一つだけ質問してもいいスかね?」

「もしかして隊長のF-2のこと?」

「その通りっす。あんな機体でしたっけ」


あんな、とは単発機であるはずのF-2が、双発のカナード翼を装備した、どう見ても塗装以外F-2とは言えない機体なのだ。


「あれはXF-2って機体らしい。日米共同でF-2を開発する前の日帝空軍が計画していた機体らしいぜ? コスパがヤバくなってあの形にしたらしいが。俺はこの形の方が好きだがね。しかもよく見てみろよ。あれ、かなりカスタムされてるんだぜ?」

「なかなかかっこいいだろう?」

「まあ確かに」


誇らしそうに隊長が鼻を鳴らしたらしい。ふふんというような音が無線で聞こえた。


ちなみに、日帝空軍とは大日本帝国空軍の略称だ。


「隊長隊長、ゆっくりしてられませんよー。早くしないとわたしたちがつくまでに終わっちゃいますよ?」

「ああそうだね。少し速度を上げよう。その間に説明するよ」


◼︎◼︎◼︎


2027年 街



「何故第三次世界大戦が勃発していたか知っているだろう?」

「ええ。中華人民共和国の政権交代を機に秘密裏に行われた富国強兵軍備増強政策で増強された軍備を用いてかつての大戦の勝利国、大日本帝国を始め、周辺国家に宣戦布告を行った。それも、皮肉なことに日本がアメリカに対して真珠湾攻撃を行った日に騙し討ちとも取れる作戦で沖縄や台湾に侵攻し、占領。それが引き金となって朝鮮戦争が再び勃発し、米露の対立も激化した。それが始まりですよね?」


私の解答に彼は百点をくれた。


「その通り。私のいたインドネシアでも戦火に最初に巻き込まれた国の一つでね。私たちはその中でもフィリピンに程近い基地を守っていたんだ。一週間でタイ、シンガポールなどの東南アジアを占領した中国軍はインドネシアへ侵攻して来たんだ」

「この時に国連軍とPMCで編成された連合軍が動き出したんですよね?」

「その通り。彼らはその傭兵軍の中にいた。おっと、話がそれてしまったようだ。元に戻そう」


◼︎◼︎◼︎


2015年 スオンド基地


敵機襲来の警報から数分後にインドネシア領海で空戦が始まった。敵は三十機のMig-21、巡洋艦などの艦船がが多数。それに対してインドネシア空軍は四機のF-16と四機のSu-30が出撃した。海軍からもシグマ級などの艦艇が出撃した。


「おい見ろよ、何が来たのかと思えばMig-21だぜ。こりゃあ楽勝だな」

「だが油断するなよ」

「そういや上層部は傭兵にも依頼したらしいな。傭兵が来る前に終わらしちまおうぜ」

「あんなオンボロ機なんか、数分あれば全滅できるさ」


誰もがそう思っていた。だから殆どが対艦戦をほったらかしにしていた。それが仇になった。


敵機を深追いし過ぎた 一機のF-16が敵艦の艦砲射撃などによって撃墜されたのだ。それを起点として他の機体も次々撃墜され、僚艦も撃沈されてしまった。


「ECMだ! 電子戦機がいるぞ!」

「レーダーにノイズが......。グッ、くそっ、被弾した! 離脱する!」

「ぎゃあああっ!」

「馬鹿な、残機二だと?」

「なぜ、こんな......。たかだかベトナム戦争時代の旧式戦闘機に我々の新鋭戦闘機が敗れた、だと?」


残機はF-16とSu-30が一機づつ。残存艦艇もシグマ型コルベット一隻とチャクラ級潜水艦が二隻のみ。減り過ぎていた。


もうインドネシアに希望は潰えたかと思った時だった。


「救援に来たぞ。自分たちが来たからにはもう安全だ」


その声とともに四機のMig-21が爆発、四散した。


「「!!??」」

「貴軍らはインドネシア国軍で間違いないな?」

「あ、ああ。君たちは?」

「自分たちは501飛行隊。傭兵隊だよ。インドネシア国軍上層部から依頼されてはるばる日本からやって来たのさ」

「501の『青い鳥』。噂には聞いている。救援、心強い!」


傭兵たちはF-2とJAS-39に、F-15とSu-27に分かれ、前者は低空、対艦戦に移行。後者は二機を上空で援護する戦法のようだ。


「ブルー、交戦」

「レッド、エンゲイジ!」

「ホワイト、戦闘に移ります!」

「ブラック、交戦」


先手を取ったのはSu-27。Mig-21ほどではないが、高い機動性を発揮し、急旋回で背後をとって30mm機関砲を二発発射。胴体と主翼の付け根に着弾。それだけで博物館に展示されているような機体は空中分解を起こした。


「ブルーバード4、FOX3」

ダダダッ

「随分いい腕をしてるじゃねえか。ブルーバード2、FOX2!!」

シュバーッ

「どうもです。ただ、どうやらこの空域のどこかに電子戦機がいるようっすね。ノイズが入ったり、弾が当たらない機体があります」

「てこたぁ、あれか。インドネシア軍のこの損耗率はそいつらが元凶だったわけだ」

「恐らく複数ですね。急がねーと」


彼らは冷静に判断し、自分の尻尾を捕らえようとする猫のように敵機の背後を狙う。機銃射程内なら敵を少しの火の玉が襲い、ミサイル射程内ならサイドワインダーミサイルや、R-73ミサイルが襲った。


「おい、ブービー! ドッグファイトの経験は?」

「ないっすね。模擬空戦だけですよ」

「それでその技術かよ。どんな天才だ......」

「いやあ、それほどでも」


何度もハイGターンなどで体に負荷をかけ続けていたにも関わらず、二人はそんなことは些細なことだとでも言うかのように会話し、相手を次々撃墜していた。


一方のF-2とJAS-39は、海面すれすれを飛び、一隻のフォーミダブル級フリゲートに狙いを定めた。恐らくシンガポールで拿捕したものであろう。


「ブルーバード3、FOX1!」

シュパーッ


対艦ミサイルが発射された。青色の世界一精密な槍は白い尾を引きながら海面すれすれをフォーミダブル級目がけて一直線に飛んで行く。


「ブルーバード1、FOX1!」

シュパーッ


艦隊から少し離れたところにいた052B型駆逐艦をF-2から放たれた対艦ミサイルがその横っ腹を狙って襲いかかる。


052B型駆逐艦はどうやら旗艦だったらしく、艦隊全体の指揮系統が狂い、士気が著しく低下したのが分かった。


「隊長、手伝いますぜ!」

「我々もやるぞ! 正規軍が傭兵に負けるな!海軍にもそう伝えろ!」

「敵航空戦力殲滅完了っす」


そこから先は一方的な戦いだった。対艦・対空ミサイルが群を成して敵艦に襲いかかり、相手の対空砲火も意味をなさなくなっていた。そして、インドネシア海戦は国連・傭兵連合軍が初の勝利をおさめた。(国連軍は特に何もしてないが)


◼︎◼︎◼︎


2027年 街


「もうこの時点で公式な歴史とは違うのですね」

「うむ。連合軍としてもあまり彼らに世間的な勇名を与えたくなかったんだろう。なにせ、彼らは元前科者の集まりだったらしいのだから。だから私も歴史の教師にはなれなかったからね」

「そうなんですか。その、前科者と言うにはそんな印象には見えませんよ?」

「私も初めて会った時もそう思った。レッドはガキ大将のような元気のいい男で、ホワイトは可愛らしい皆のアイドル。ブルーは隊長として女性ながらも腕っ節の強い肝っ玉母さんという感じだった。ブラックは、ブラックは、......。分からないな。顔も思い出せない。ただ、あんなに爽やかな顔ではなかったな。彼はデータも何も残ってない上に、そこにいるのに、いない。そんな感じだ。いや、羊や兎みたいな無害そうな見た目と虎の如き力強さを備えていたね」

「全然、違うじゃないですか」


そう呟いた私に彼は胸ポケットから一枚の色褪せた写真を取り出した。


「それは?」

「これは彼らと共にとった写真だよ。君にあげよう。予備はあるから気にしなくていい。この、ええと、彼に会えば私よりも詳しく話を聞けるかもしれない」


F-22、Su-35などの世界の戦闘機と共に写真を撮ったらしく、十五人ほどのパイロットがその中にいた。記入されたのは「"Blue"」「"Red"」「"White"」「"Black"」「Chopper"Green"Folk」だ。


このチョッパーという男は彼らと共に行動していたことのあるAWACSの搭乗員だったそうだ。彼は現在この街に滞在しているらしく、明日会って下さるらしい。


明日は特に予定もなかったので、ちょうどよかった。ジョージ氏は今日インドネシアに帰国するらしく、何人かの情報を渡してくれた。私は彼を空港までおくり、そこで別れてホテルへと帰った。

次回は一月十五日の予定です。


この物語は第二次世界大戦で日本は早期講話に持ち込めた設定です。

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