12-2
海面が山のように盛り上がる。現れた巨大潜水空母ことunknown3、海神は日本軍の最大最強の切り札、大和と対峙していた。
「何をぼうっとしている! 目標unknown3、主砲撃ち方始め!」
「了解! 撃ち方始め!」
ほんの少しの時間差をおいて大和から九つの砲弾が海神めがけて飛ぶ。
海神もこれを予測していたのか、迎撃のためにVLSのハッチが開き、ミサイルが射出される。
大和の砲弾と海神のミサイルは空中で衝突、ぶつからなかった砲弾やミサイルを巻き込む、大爆発を引き起こした。これが北海海戦の引き金になった。実に七十年以上ぶりの巨大艦同士の戦いとなった。
「本当にあれ空母なのか!? VLSなんて装備できねえだろ!」
「だから言っていただろう巨大潜水空母ってな。あのデカさを見る限り、艦載機は信濃以上に搭載できて、それでも余るくらいだろう。だからそこにVLSを装備した、ってことだ」
レッドが叫んでいるが、なぜか興奮している気がする。派手なものを好むアメリカ人らしいと言えばらしいが。
かつて大和型戦艦と対峙した米軍はその存在を知らなかったが故に長門型と勘違いしてしまい、長門型を金剛型や重巡洋艦と勘違いしてしまったのだとか。
「ぼさっとするな! もう一度主砲撃ち方始め!」
「了解!」
大和がもう一度吼える。先程は迎撃されてしまったが、今度は一発が右舷に直撃、相手を潜行不能に陥れることに成功した。
「よし! 直撃だ!」
潜水空母である海神は潜行している時は静粛性に富んでいるおかげであんなに巨大な図体をしているのに、潜行中に探り当てるのはほぼ不可能に近い。日本軍の誇る第六艦隊の潜水艦よりも静かかもしれない。しかし、艦載機離着艦のために浮上して航行しなければならない。この時はさすがの潜水空母も隙だらけだ。
甲板上の戦闘機が衝撃で海に搭乗員を乗せたまま落っこちる。
『こちら大和CIC! 大分削れたんじゃないか?』
「こちら上空の第三航空隊だ! 削ったって言われても飛び立てなくなっただけじゃねえか! 対艦攻撃をしかけるから援護してくれ!」
「こちら401! ウチの四から八番機をプレゼントしてやるよ!」
「さすがはファントムじいさん! 気前がいいこって!」
「今は飛燕兄さんだ馬鹿野郎!」
『こちら大和CIC。ところでウチの着弾観測員見てないか?』
「「それは知らねえ!」」
「こちら大和着弾観測員の森井です。ちゃんと生きてますよー。いま二機撃墜したところですー」
『青い鳥の援護してやりな! 陸軍の妹さんが関係者なんだろ?』
「砲雷長! 今の間だけ愛してます!」
『「「今の間だけ!?」」』
洋上塗装を施したF-35は飛ぶ。今も壮絶な戦いを繰り広げる愛する妹の騎士に助太刀するために。自分の機体だったハリアーを大和飛行甲板上に放置し、元々のF-35搭乗員とハリアー後部座席の相棒の苦悩も知らずに。
「クソッ、多すぎだろう」
ブラックは急激なGに耐えながら呟く。
『フフッ。これだけの相手をするのは久しぶりかしら?』
『今度は逃がさんぞ』
後ろからF-22・F-35とF-15の混合八機編隊が迫る。
「これならどうだ!」
ドッグファイト中ということもあって普段よりゆっくりと飛んでいることを利用して少しだけ水平飛行。釣られた相手をコブラで後ろを取る。
『『しまった!』』
急加速してF-15の三・四番機を狙う。
「In gun range. Fire!」
三番機の左垂直尾翼に直撃。砕けた破片が四番機の右エアインテークに吸い込まれる。その間にF-22を撃ち落とし、同じように破片を吸い込んだF-35が冷たい北の海に墜ちていく。
『『ブレイク! ブレイク!』』
「遅い!」
両方の二番機が落とされる。残るは雪の妖精と桜の一番機のみ。そして、日の丸をつけた青いF-35が近くに来る。
「援護に来ましたー。ブルーバード4」
「あんたは?」
「森井深雪の姉、森井真雪です。妹がお世話になってますー」
「ということは、大和の着弾観測員か。大和の着弾観測員に凄い奴がいるってのは風の噂で聞いてたが、いいのか?」
「フッ、愚問ですよ愚問。始末書なんてもう優に東京タワーを超えてます。今更増えたところで変わりませんよー」
「............そうか。なら桜は任せたぞ」
F-35はF-15を追う。ステルス性能はF-35の方が上だが、基本的にはF-5と変わらないスペックしかないため、完全に追いすがるのは不可能だ。だが、
「垂直離着陸機(勝手に改造済み)を、舐めないでくださいー」
『こいつ!』
推力偏向エンジンを利用してゆらゆらと飛ぶF-35は桜1を翻弄し、イライラとさせる。
『このっ!』
「ふふふー。いまですよー」
『何!?』
「アグレッサーが敵に後ろを見せてどうするんだ馬鹿」
『しまった!』
「今回は落ちてもらうぞ。FOX2!」
側面ウェポンベイからミサイルが飛ぶ。桜1はその光景をゆっくりとした速度であくまでも他人事のように見ていた。
『そんな、馬鹿な---』
日本最強のF-15乗りのあっけない最期だった。
「助かった森井姉。ウチの仲間たちを助けてやってくれ。残ったラプターは俺がやる。肥え太った猛禽と孤高の猛禽。どっちが上か、試してやろうじゃねえか」
『クスッ、いいでしょう。ラプターがただの肥え太ったボンボンじゃないことを教えてあげるわ』
「『Fight's on!!』」
直感的に感じた。このF-22に乗る女は強い。おそらく今まで戦ってきた誰よりも。真っ向からマッハ2ですれ違う。ミラーの奥で左旋回するのが見えた。
「いいだろう。食らいついてやる」
素早い動作で反転、相手の尻を捉える。しかし、相手も馬鹿ではない。ロックオンされないように急旋回を繰り返す。
『この機体に追いすがるなんて、なかなかやるじゃない、坊や』
「肥え太った猛禽とは違うって言っただろ」
『フフッ。確かに優秀なようだけど、栄養失調の猛禽に本気の私が倒せるかしら?』
やってやるさ、と心の中で呟く。
相手の機動がより鋭く、より速くなる。雪の妖精の追撃、インメルマン・ターン、スプリットSなどの初歩で避けれる代物ではない。
『フフッ。さっきまでの、威勢はどうしたのかしら?』
「ちっ」
妖精は重力をものともせず、ブラックの後ろをとる。ブラックも彼女に負けないくらいのGに耐えながら攻撃を避け続ける。
ブラックはとある考えに出る。アグレッサーになる前、空軍アグレッサーのF-15との模擬戦で、西部方面航空隊のベテランパイロットと戦った時、"アレ"を使って勝利したが当時の上官には散々怒られたし、身体はともかく、始末書も大変だった。元々様々な戦闘機動が得意なブラックだが、その中でも一対一の一騎討ちのために、大胆であり繊細な、それでいて鋭利なナイフのように鋭い一撃離脱方式を更に鋭くさせる行動。
「使うか......」
ここは日本ではなく、北海。自分は今も日本軍の中にいるとはいえ、今は陸軍戦略教導飛行隊のハウンド1ではなく、501傭兵部隊のブルーバード4。やってはならないわけではないのだ。
『フフッ、ちょこまかと逃げるだけでは勝てないわよ?』
「ふん。今から反撃に移るところだったさ」
右手で操縦桿を操作しながらコンソールを左手で操作する。改造してもらった際に、F-35と同じレベルの電子機器を取り付けてもらった。この期待が持つ膨大な量のデータの中から、ひとつの切り札を呼び出す。ラプターの右側面ウェポンベイが開き、ミサイルが飛ぶ。ミサイルアラート。
「制限解除。高機動モード、オン」
ふっと操縦桿の効きがさらに良くなる。ちょっとした指の動きだけでもそれに反応する。コブラではないがコブラのように急上昇。ミサイルが標的を見失ってあさっての方向へと飛ぶ。
『何っ!?』
「さあ、行くぞ」
HUDに白い猛禽の全体が捉えられた。
零戦の高機動モードみたいなのってありましたよね。あれってなんて言いましたっけ?
これは、長くなりそうなので、もう少し伸びそうですね。三話構成か四話構成くらいになりそうです。