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今回は筆者個人の都合でかなり短めです。申し訳ありません。来週のお話はより長くしておこうと思っています。
2016年 東シナ海 大日本帝国海軍空母信濃
「ええっ、逃がしちゃったの!?」
「奴らは桜だ。桜前線は日本列島を北上してそのまま消える。傭兵であるあいつらを止めるのは無理だ。風を捕まえても何も残らねえのと同じさ」
「むー、でも」
「おいおいホワイト。ブラックにゃブラックの考えがあってのことだったんだろうぜ。何かしらの目的があって逃がしたかもしれねえだろ? なあ隊長」
「ん、ああ、そうだね。彼らが何を目論んでいるのかを考えると逃がしておいて正解だったかもしれないね」
まだ不満そうに頬を膨らましているホワイト。拗ねているような様子を見て子供のようだと思い、ブラックが提案する。
「まあまあ、いいじゃねえか。なんなら昼に最上級お子様ステーキ奢ってやるから」
「最上級なのは嬉しいけどわたしは子供じゃないよ! そんなこと言ったらブラックだって身長そう変わらないでしょ!」
「お前の頭半分くらいは高い。ほら行くぞ」
「あ、ふ、服引っ張らないでぇ」
そのまま廊下の先の食堂へ消えていく二人を見ながらブルーが言う。
「やはりあの二人を見ていると気分が癒されるね。まるで姉になった気分だ。そうは思わないかい? お父さん」
「いや、それならあんたはお母さんだろ。実際しばらくしたら嫁に行くんだろ? あの二人で疑似体験でもどうだ? 今なら産みの痛みと授乳以外なら体験できるぞ?」
「む、そう返ってくるとはね」
「............」
「どうかしたかい?」
「んにゃ、なんでもない。さて隊長、昼飯でもどうです? エスコートしますぜ」
「そうだね。そうしようか」
彼女は自分の言動を気にしていないようだったが、レッドは疑念を抱いていた。彼女は偽物なのではないか、と。
前回の戦闘中の時もそうだ。彼女は基本自分だけでは戦おうとしない。仲間との共同撃破に重きを置いている。だが、この前彼女は自分だけで敵と戦っていた。そして今回の言動。あの様に話を振れば彼女はニヤリと笑って「なら自分と実体験してみるかい?」とでもいうはずだった。だが彼女は「む、そう返ってくるとはね」と言った。そのうえ、ブラックがスホーイを愛しているように、「F-2は自分の嫁だから」と豪語するほどのF-2好きの彼女がそう簡単にMig-1.44に乗り換えるだろうか。
「---君、レッド君。どうかしたのかい?」
「いや、なんでもありません。さ、行きましょうや」
今度ブラックに頼ってみよう。レッドは内心で決意した。
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2027年 青森県八戸市
「このスクランブルの後、敵の極東侵攻が無くなったので、日本軍はEU連合軍と一緒に中東へ派遣されました。アフリカ侵攻をさせないために」
「アメリカ軍は動かなかったのですか?」
「ええ。アメリカ軍は日本軍の残存戦力と共に極東の護りに徹すると言っていたようです」
違和感があった。自らの力を誇示してやまない戦闘狂とも言えるアメリカ軍が自ら動かないことに。
「ふむん。やはり君も違和感を感じたようだね。我々も感じたんだが、上からの指示でそのまま動かされたのだよ」
「これって、まさか何かの伏線になってます?」
「その通り。だが、それは後々話そう。今は中東の話だ」
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2016年 アラビア半島
空母信濃を発艦した戦闘機の群れはオマーンのスムライト空軍基地で整備員たちを乗せたC-130輸送機と合流。そこから二度の空中給油のを行い、サウジアラビアのプリンス・スルタン空軍基地、キングファイサル空軍基地で一夜を過ごすことになった。
「なあブラック。ニホン人なら知ってるだろ? あの漫画。あれってこの辺が舞台なのか?」
「あの漫画? わかんねえな。コブラ1、分かるか?」
「〈エ○ア88〉のことか? あれなら多分この辺りだぜ? しかしレッド、お前あの名作を知ってるとはな」
「当たり前だろ? 俺はあれを読んでファイターパイロット目指したんだぜ? まさかお前もか?」
「そりゃそうさ。ありゃ男のロマンだ。〈急降○爆撃〉や〈大空○サムライ〉に並ぶ男の必読書だな日本にF-5とA-10がないと知った時はマジで泣いたぜ」
「そうか......。俺は一時期F-5に乗ってたが、やっぱF-15の方がいい。なんたって世界最強なんだからな」
「今はラプターとPAK_FAじゃねえのか? それにウチのフランカーも負けてねえぞ」
「実戦に参加したことのねえラプターと初飛行が最近のPAK_FAや他の実験機じゃ話にもならねえよ」
「今のは聞き捨てならねえな。レッド。ビェールクトを忘れないでもらおうか」
「ファルクラムが最強に決まってる!」
「F-16だろ!」
「グリペンはとても便利なんだよっ!」
「Mig-21お買い得っ!!」
「ファントムこそ男のロマンだ」
「ホーネット万能!」
「たかがスズメバチ。トムキャットこそが空のスターだ!」
「所属は海だろーが!」
自らの機体を愛する熱き男たちの闘いが始まる。