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梅雨時雨に咲く青い花

 今回から場面切り替えを※にしてみました。



 6月といえば梅雨……梅雨といえば雨……雨といえば紫陽花……紫陽花といえば花……花といえばブーケ……ブーケといえば結婚式……結婚式といえばジューンブライド……ジューンブライドといえば6月…………全ては一筆書きのように繋がっている。

 男の俺からして見れば、6月なんて休みも何も無い、ただジメジメした嫌な月でしか無いが、女から見ればそうでも無いらしい。


「うわぁ〜……このウェディングドレス、綺麗〜! 一回で良いから着てみたいなぁ〜」


 俺の前の席で雑誌を眺めながら、そう呟くのは三浦柑奈ことミカン。

 本来は隣のクラスで俺のクラスの者では無いが、今が放課後という事もあり、こうして現在ここに居る。


「…………何でお前がここに居る…今日は何も無いだろう? もう帰れ」


「冷たいなぁ〜、確かに今日は何も無いけど………というかリンゴは一体何をしているの?」


「見れば分かるだろう、勉強だ」


「勉強という名の補習?」


「勉強という名の課題学習だ」


 少し失礼な事を言われた気もするが、そんな事には興味は無い。とは言いつつ、興味がある事に取り組んでいる訳でも無いが……。 俺こと水林大檎は現在、昨日の授業で課題として出されたプリントに取り組んでいる。

 課題の内容は…入学してから現在までの学校生活について、というものだ。

 入学してから現在までの学校生活と言われても俺がピンと来るのはミカンとの出会いから、天文部の謎、鍵転送事件……など学校行事からはほど遠いものばかり、実際のところ俺は興味の無い事には関わらない生活を送っているので仕方が無いと言われたら仕方が無いのだが……。


「これって確か……今日までだっけ? プリントの内容を作文にして出すだけだから簡単だと思うけど……」


「行事に参加しているお前なら簡単だろうが……俺からしてみれば簡単じゃない」


「なんで?」


「……興味が無いから、行事は全てサボったんだ」


「ありゃりゃ……それじゃあ、難しいね」


 ミカンは苦笑いを浮かべながら言った後、再び雑誌の方へ目を向ける。

 一方の俺はどうしようか、と考えながらぼんやりと窓の外を見た。

 外は梅雨時期とあってか雨が勢いよく降りしきり、学校に残っている者達の帰るという意欲をことごとく洗い流している。

 こんな天気だからこそこの課題も雨がやむまで学校の中に居るという口実の元、のんびりと取り組む事が出来るが、流石にそろそろ飽きてきた。

 それに雨もやむ気配が無いので、これ以上の長居は時間の無駄だろう。

 俺は少しやる気を出して、シャーペンを作文用紙の上に走らせた。


「お、ようやく興味を持ったね」


「興味は無いがな……」


「そういえば、知ってる? 今、ウチのクラスでは小山田さんの噂で持ちきりなんだよ」


 ………小山田? あぁ、天文部のか……思い出した。


「そうか……俺のクラスはまだだが、多分もう少し経ったら噂になるだろう……」


 正直、アレにはもう興味は無い。興味が無い事には関わらない………それが俺だ。……今は関わっているというか、取り組んでいるが……。


「それだけ?」


「それだけって……他に何かあるのか?」


「だって……リンゴの推理が正しいって事が証明されたんだよ? 嬉しくないの?」


「生憎……過ぎた事にも興味は無くてな……」


 俺はミカンにそう言ってからシャーペンを机に置く。なんとか、終わる事が出来た。


「早いね!? もう書いたの?」


「あぁ、お前が何回も横槍を入れてくれたお陰で飽きずに取り組む事が出来たよ。ありがとう」


「………それは褒めてくれてるの? 貶しているの? ……どっちなの?」


「捉え方は人それぞれだ」


「う~ん……う~ん……………じゃあ、一応……お礼を言われたから褒め言葉として貰っておく!」


 ミカンは複雑な表情をし、暫く考え込んだ後、笑顔を見せながら俺にそう言う。

 俺は課題の作文用紙を持って、立ち上がりながらミカンにあることを尋ねた。


「………ところで、さっきも聞いたが…どうしてお前はここに居るんだ?」


「……あ、そういえば言って無かったっけ? 実はあたし、傘忘れちゃって………モモちゃんも先に帰っちゃったから雨に濡れながら帰ろうかと思った矢先………」


「課題で教室に残っていた俺を見つけた……と」


「うん……時間も余ってたから、この際リンゴの傘に入れて貰おうかなって…………ダメ?」


 俺に対し拝むようにして手を合わせてからウィンクをするミカン。

 なるほど……変な相談事じゃないみたいだな。


「お前……俺も傘を忘れているかもしれないって事を考慮しなかったのか?」


「あっ、そんな事思って無かった! もしかして、リンゴも傘を忘れたの!?」


 やっぱり考えて無かったか……。

 目に見える程、狼狽えているミカンを見て溜め息を落とした後、俺は安心させるようにこう言った。


「安心しろ、今回は持ってきている。今から職員室に行ってくるから少し待ってくれ」


 流石の俺でもこんな雨の中、女の子を濡らすようなマネはしない。

 俺は職員室に向かう為、少し急ぎながら教室を出ていった。




※※※※※※※※※※※※※




 課題を提出した後、俺はミカンを連れ、正面玄関へと続く廊下を歩いていく。

 理由は勿論、帰る為だ。


「そういえば、リンゴってどうして部活に入らないの? 内申点上がるよ?」


「興味が無いからだ。第一、部活に入ったからといって内申点が必ず上がるという訳じゃ無いだろ…」


 分かりきった言葉を吐きながら俺は窓の外にあるグランドを眺める。

 こんな土砂降りの雨でも野球部やサッカー部の連中は健気に部活動に励んでいる。その源が、学生という期間にしか生まれない“青春”という名の特殊なエネルギーによるものなのか、はたまた厳しいコーチによる指導によるものなのかは俺の知る所では無いが………、もし将来の自分への投資というのなら止めた方が良い、と俺は思う。

 部活を三年間やって内申点が付くという事はほとんど無い……内申点が付くのは優勝や全国大会出場といった表だった成績を残した連中だけだ。それ以外の者は根気しか付かない………ましてや、帰宅部寸前或いは帰宅部になっている部活じゃそれも望めないだろう。


「そうかな? でも、就職には有利だよ?」


「そりゃあ、働き手を雇う側から見ればそうだろう……実際の所、会社に入社しても若い奴の場合はすぐに辞めるのが大半だからな。だが、それはやる気の問題だ。内申点でどうにかなる問題じゃない」


 根気があるのと優秀だという事は全く違う。社会に出れば、過程よりも結果を優先するのだから……。

 つまり、学校で根気よく頑張ったとしても将来、役に立つ可能性は極めて低い………だから俺は部活動に興味は無い。とはいえ、別に頑張っている者が嫌いという訳じゃない…寧ろ、興味を持った事をとことん極めようとするその姿勢に敬礼をしたい位、尊敬している。

 人は憧れからその人物に対し尊敬の念を抱くというが、俺の場合はどちらかというと性格上絶対になる事が出来ないという理由からの尊敬の念だ。


「リンゴって意外と分別出来てるよね……謎を解く時は関連付けてるのに……」


 そんな他愛の無い話しをしながら正面玄関に着いた後、俺達はそれぞれ自分の靴を取り出し、履き替える。

 玄関を出ると外の雨は中で見るのと違い、一層激しさを増していた。

 確実に靴下は雨に濡れるだろう―――。

 そんな事を覚悟しながら折り畳み傘を取り出していると靴を履き替えたミカンが歌いながら俺に近付いてきた。


「ぴっち、ぴっち、ちゃっぷ、ちゃっぷ、ランランラン」


「…懐かしいな」


「えへへ……久し振りにね!」


 久し振りって、前までやってたのか?

 俺は幼稚園までしか歌わなかったが……。


「今じゃ、雨に濡れる事が嫌になったな………昔は雨が好きだったのに…」


「リンゴにもそんな時期があったんだ」


 傘の中にミカンを入れ、俺はゆっくりと歩き出す。

 傘が小さいからミカンを濡らさないように気を付けなければならない………俺が少し濡れてしまうが、この際仕方がないだろう。


「俺だって人の子だ。あの頃はよく、てるてる坊主を逆さ吊りの刑にして雨を降らせていたもんだ」


「それ、人の子がやる事じゃないよ! 人道に外れてるよ!」


「とか言って……お前も遠足の日に雨だったら、てるてる坊主を容赦無く打ち首の刑にしていただろう?」


「そんな事してないよ! お役御免にはしたけど……」


「……違う表現で首は切ってるんだな…」


 冗談で言ったんだが、まさかミカンも首切りをやっていたとはな……。

 まぁ、人間であれ…てるてる坊主であれ……やはり結果が出なければ用無しという事は変わらないらしい……もしや、てるてる坊主の風習は子供の頃から人を使うという事を勉強させる為に出来たのでは無いか?


「あ、そうだ! ねぇ、リンゴ。ちょっと寄り道していかない? 雨の日にしか見られない絶景があるんだ〜」


 俺がてるてる坊主について興味を持ち始めた時、ミカンが唐突にそんな事を提案してきた。

 雨の日の絶景か……ふむ、興味あるな。


「絶景、か………そこはここから近いのか?」


「うん! 歩いて五分位……行く?」


「俺は興味がある事に関してはアクティブになるんだ」


「決まりだね! いや〜、リンゴってこういう時は乗り気だね。普通の男の子だったらこんな雨降りの中、絶対に行きたがらないよ?」


「だろうな……俺とてただの景色なら行かないだろうさ………だが、こんな土砂降りの雨の中での絶景となれば……興味がある。ミカン、その場所に案内してくれ」


「勿論! こっちだよ!」


 俺はミカンに先導されるまま、傘を持ってその方向に向かうのであった。




※※※※※※※※※※※※※※




 ミカンに連れられ、やって来たのは学校からほど近い場所にある公園だ。

 名前は………俺達の通う学校が槝原高校なので、槝原公園……とでも呼べば良いのか…実際の所は公園に名前が無いのではっきりしないが、今はそう呼ぼう。

 だが、無名といえども広さは中々のもので、園内にはアスレチックがある小高い丘に噴水、林といったものがある。これで、もう少し木々に囲まれていたら森林公園になっていただろう。

 まぁ、そんな公園の基準なんてものには興味が無い。


「……流石に人は居ない、か……絶景ならば人ぐらい居る筈だが……」


 ぐるり、と園内を見渡しながら俺はミカンにそう尋ねる。


「絶景は遊歩道にあるんだよ」


 疑惑ありげな俺の目を見てミカンは笑い、先を指差す。

 指を差した先には林を迂回するようにひっそりと道がある。

 どうやら、あれが遊歩道らしい。


「どれ………行ってみるか…」


 雨の中なのに迂回して行くとは……ここの部分を踏まえると俺達は物好きかもしれないな。

 そう思いながら、一歩踏み出し、遊歩道に入った俺達を待ち受けていたものは………。


「…これは………」


「ねっ! 凄いでしょ!」


 遊歩道の両脇に咲く赤い紫陽花……しかも入り口だけじゃなく道に沿って咲いている。

 これは……圧巻の一言に尽きる。


「こんな隠れた名所があったんだな」


 呟きながら、林と住宅地の間にあるアジサイロードを進んでいく。

 都会の中のオアシスとはこういう事を言うのだろう………都会ではなく町の中だが……。


「この公園は町の中にあるからね……普通なら山近い場所か、お寺とかだろうけど………珍しいでしょ?」


「あぁ……ん? なんだ、あの紫陽花は?」


「え? なに?」


 俺はアジサイロードを歩いている最中、妙な紫陽花を見つけた。

 赤い色の紫陽花が咲いている中、一つだけ青い紫陽花が咲いているのだ。


「………青いのはここだけか……」


「うん。毎年、この紫陽花だけ青くなるの………他は赤いのに……」


 周りを見渡すとどの紫陽花も赤色……つまり青いのは、この紫陽花だけだ。

 だが、もう少し進めば他にもまだあるかも知れない。


「一応、最後まで進んでみるか………他にもまだあるかもしれない」


「そうだね。もしかしたら、今年はまだあるかもね」


 青い紫陽花が一つだけあるのは気になるが、たまたまという事もあるだろう。

 俺達はこの紫陽花の件を一時保留にし、最後まで行く事にした。




※※※※※※※※※※※※※




「結局、青い紫陽花はあそこだけだったね」


「あぁ」


 最後まで行ったにも関わらず、青い紫陽花はさっきのものだけだった。

 なので、俺とミカンは今、青い紫陽花を目指して同じ遊歩道を歩いている。


「どう? リンゴ、興味持った?」


「あぁ、かなり…………ん? ………まさか、お前…」


 俺はある事を思い、ミカンを見る。

 ミカンはそんな俺を見ながら「えへへへ……」と笑い、手を後ろで組む。

 よく考えたら、コイツは交友関係が広い……天文部の時が良い例だ。

 俺に言った「モモちゃん」なる人物以外にも友達は居る。

 つまり、この雨の中で俺の課題が終わるのを待つ必要は無い。他の奴の傘に入れば良いのだから………。

 これらの事から考えられる事は即ち……。


「嵌めたな……」


「あちゃ〜、バレちゃったか……でも、残念! リンゴはもう、この件からは逃れられないよ!」


 自信満々に俺に向かって指を差すミカン。

 普通ならば、俺が傘を持っているのでこのまま帰っても良いのだが……青い紫陽花に興味を持ってしまった今の俺には、そんな事は出来ない。

 要するに、俺に残された選択肢は「ミカンと共に謎を解く」という事しかない。

 シミュレーションゲームならイベントが発生するだろうし、ホラーシミュレーションゲームなら確実に詰むパターンだが、現実にはそれが無い。あるのは、俺がずぶ濡れになるのが早いか遅いかだ。


「………お前とは絶対、将棋やチェスはやりたくない……」


「まぁまぁ、そう言わずに………あれ? 誰か居るよ?」


 俺の愚痴に近い呟きを逸らしながら、ミカンがそう言う。

 見ると、確かにビニール傘を差した誰かが青い紫陽花の前に立っている。

 長い栗色の髪……女か?


「もしかして……モモちゃん!?」


「え………ミカンちゃんですか?」


 驚いた……まさか、ミカンの知り合い…しかも、例の「モモちゃん」とはな……案外、現実はゲームのような事が起こりやすいのかも知れない。


「リンゴ、この子はモモちゃんこと鈴木桃香ちゃんだよ。モモちゃん、この人がリンゴだよ」


「なんだ、そのザックリした説明は……………水林大檎だ」


「あなたがリンゴさん……いえ、水林さんですね。噂はミカンちゃんから聞いています」


 鈴木はそう言うと、軽くお辞儀をしてきた。

 ミカンと違って、礼儀正しいな…。


「ところで、モモちゃんはどうしてここに?」


 ミカンが言う事も、もっともだ。

 こんな土砂降りの雨の中、女の子が一人で出歩くのは町の中だけだろう……。一方でここは公園、雨の散歩には……正直向かない。


「幸運の青い紫陽花があると聞いて、見に来たんです」


 幸運の青い紫陽花……青い鳥に掛けたのか?


「その幸運とは一体なんだ?」


「詳しくは分からないんですが……なんでも見ると、恋愛とか結婚がどうとか……」


 ジューンブライド関係か……なんか、怪しい気もするが…ここは言わない方が得策だろう。それに、そんなものに興味は無い。


「ミカンちゃん達もこの青い紫陽花を見に来たんですか?」


「あたし達はこの紫陽花の謎を解きに来たの」


 ……そんな事を今、この場で言って良いのか?

 だが、そんな俺の疑問を余所に鈴木は手を合わせて笑顔を見せた。


「そうなんですか~。……あの……それならば私も同行させて頂けないでしょうか?」


「うん、良いよ! モモちゃんも見たいって言ってたしね」


 やれやれ、面倒な事になったな……。

 俺はそう思いつつ、青い紫陽花の前に立ち、周りを見渡す。

 林側に咲いている紫陽花は全て赤色というのは確認済みだ。一方の青い紫陽花があるのは住宅地側……しかも、何処かの家の裏庭と公園の境目……その裏庭には綺麗な井戸がある。


「家に井戸があるなんて珍しいな……」


「そういえば……そうだね」


「最近はあまり見ませんからね」


 井戸は青い紫陽花の後ろに位置しているが、特に不可思議な点は見られない。


「やっぱり幸運の青い紫陽花なんでしょうか?」


「いや、青い紫陽花自体は別段珍しくは無い」


「え!? そうなんですか?」


「紫陽花は土壌の酸性度によって花の色が変わるんだ。酸性ならば青、アルカリ性ならば赤とな。詳しくは分からないが……」


「難しく言うとアルミニウムが根から吸収されやすいイオンの形になるかどうかに、PHペーハーが影響するの」


「………なんで、難しく言い直した?」


「あの……PHってなんですか?」


「酸性度の事だよ。すなわち、土壌が酸性だとアルミニウムがイオンとなって土中に溶け出し、紫陽花に吸収されて花のアントシアニンと結合、青色になるの。逆に土壌が中性やアルカリ性であればアルミニウムは溶け出さず吸収されない為、花は赤色になる」


「なるほど……それが色が変わる仕組みだったんですね」


「だけど、土壌は特殊な土地で無い限り、あちこちが酸性になったりアルカリ性になったりはしない筈……つまり、これは人為的な何かが原因…なんだけど、それが分からない」


 ミカンの言う通り、この青い紫陽花の土に誰かが手を加えた事は事実だ。だが、誰が何の為にやったのかが分からない。


「まさか……イタズラ?」


「手が込みすぎてるだろう……」


「やっぱり、奇跡じゃないんですか?」


「希望を砕くようで悪いが……こんな住宅地の近くじゃ、時間があれば誰でも出来る」


 流石に分からんな……雨も激しいし………条件が悪い。

 不本意だが、日を改めた方が良いかも知れんな。


「……今日は状況が悪いな………晴れた日にまた来るか」


「………そうだね」


 俺の言葉にミカンは元気を無くしたように、小さく呟いた。一緒に居る鈴木も残念そうだ。


「どうした? お前ら」


「……だって今まで、その場で謎を解いて来たのに……」


「偶然だ。こういう時もあるさ……帰るぞ」


 3回程しか謎を解いた事はないんだが……。

 そんな事はまぁ、良い。

 俺達は複雑な気分のまま、その場を後にした。




※※※※※※※※※※※※※




 公園から出て、俺達はすぐ近くにある住宅地に入った。

 別に特別な理由は無い。

 強いて言うなら、家への近道と言った所か…。


「あ〜あ………折角、謎が解けると思ったのに……」


「まぁ、こんな時もありますよ。元気出して下さい」


 俺の傘から鈴木の傘へと入ったミカンは溜め息を吐き、鈴木はそんなミカンを慰めている。

 一方の俺はというと、ミカンのようにガッカリしている訳でも無く、後ろ髪が引かれる思いを持っているという訳でも無い。

 紫陽花なんて晴れた日にまた確認出来るし、千載一遇の機会を逃したという訳では無いからだ。

 興味がある事には積極的に関わり、時間も労力も惜しまない………これが俺のスタイルだ。

 だが……この煮え切らない気持ちはなんだ?

 悔しいとも落ち込むとも違う…………例えるなら、日々の生活リズムが崩れるような………そんな感じだ。


「………梅雨時期だからか?」


 泣きじゃくるように、雨を降らす曇天を見上げながらそんな事を呟く。

 いや、確かにジメジメした気分にはなるが……そうじゃない。


「なにが?」


「………いや、何でも無い」


 顔を見ながら尋ねるミカンに俺はそう言った。

 俺のこんな考えに他人を巻き込む道理は無い。


「そういえば、この梅雨が過ぎれば……もうすぐ夏ですね」


 唐突にそんな事を言った鈴木を俺とミカンが見る。

 今の俺達の会話に、夏を連想させる言葉は入ってない筈だが……まさか、俺の呟いた「梅雨時期」という言葉に反応したのか?


「確かにね〜。夏といえば、海にキャンプにかき氷! そして、お祭り!」


「入道雲に自由研究、ラジオ体操に絵日記もありますね!」


「モモちゃ〜ん……それは要らないよ……」


 見事に夏の光と影が出てきたな……確かに、どれも風物詩だが……。


「リンゴは夏と聞いて何を思い浮かぶ?」


「花火にハゼ釣り、冷奴にビールと枝豆だな」


「どっかのお父さんじゃん!? それにお酒は二十歳から!」


 そんな事は分かってる。ただの冗談だ。

 それにしても……自分で言ってなんだが、冷奴が食いたくなってきたな…。

 夏に限らず、あの食べ物は暑い時に食うと美味い。こんな梅雨時期の蒸し暑さには、さっぱりしていて冷えた物を食うのが一番だ。


「………よし、今日は冷奴を食おう」


「………なに、その…よし、京都に行こう! 的なノリ……」


「…この辺りに豆腐屋は無いか?」


「スルー!? ………まぁ、良いけど…………そう簡単に豆腐屋なんて無いでしょ?」


 それもそうだな……仕方ない、スーパーで買ってくるか……。

 そう考え、探すのを諦めた時、鈴木が再びある事を言った。


「豆腐屋さんなら、すぐ近くにありますよ?」


「え? あるの?」


「はい、そこを左に曲がるとあります」


 鈴木が指し示した場所は十字路のある所だ。確か、あそこを左に行くと……。


「左って……あのアジサイロードがある場所の近くなのか?」


「はい、豆腐屋さんの裏が公園の林なので……」


 なるほど……まぁ、でもあの青い紫陽花とは関係が無さそうだな…。

 取り敢えず、その豆腐屋に行ってみるか。

 鈴木に教えてもらった通り、十字路を左に曲がるとそこには一件の古びた店があった。

 古びたといっても汚いという意味の方ではなく、歴史があるといった老舗の方だ。


「………歴史を感じさせる良い店だな………………あの、すみません」


「は~い、いらっしゃい!」


 店内を軽く見た後、俺は水の中に豆腐を入れているエプロン姿のおばちゃんに声を掛けた。

 おばちゃんは俺の声に気付くと、濡れた手をタオルで拭きながら近付いてくる。


「絹ごし豆腐を一丁下さい」


「はい、まいど~………あら、もしかして…その制服は槝原高校の制服?」


 おばちゃんは俺達の制服をまじまじと見ながら尋ねてきた。


「はい、そうですけど……」


 おばちゃんの質問にミカンがすかさず答える。

 こういう時、コイツのコミュニケーション能力は真価を発揮する。

 探偵とかなら重宝出来る能力だ。


「やっぱり! いやぁねぇ~、実はウチの息子も槝原高校に通ってるのよ~。今年からなんだけどね」


 今年……つまり、俺達と同い年か……。


「そうなんですか! 実はあたし達も今年入学したばかりなんですよ!」


「あら、そうなの! じゃあ、息子と同い年のよしみで値段安くしておくわね!」


「わ~い! おばちゃん、ありがとう!」


 ミカンのコミュニケーション能力は本当に凄いな………何の違和感もなく値切り交渉までいったぞ……。


「ウチの豆腐はね、地下水を使って作っているから……美味しいわよ~」


 豆腐の味は大豆とにがりと水で決まるという………つまり、水道水よりも安全性のある天然水や地下水で作った物は質が良い。

 とはいえ、細菌だらけの地下水じゃ真逆になるが………。


「それに、ウチで作る茄子の漬け物も近所では有名なのよ~」


「……なんで、豆腐屋さんなのに茄子の漬け物が人気なんですか?」


 この場に居る全員が感じた疑問を鈴木が代表して尋ねる。

 そりゃあ、そうだ。惣菜屋や漬け物屋じゃあるまいし………。


「ウチにある井戸の水を使ったら、茄子の色が落ちないで綺麗な漬け物が出来たのよ。水道水だと色が悪くなって食べる気が無くなるけど…………あぁ、井戸っていうのはね。ウチの豆腐を作る時に使う、地下水を汲み上げる為の物なの。今、使っているこの水は水道水だけどね」


 おばちゃんはそう言って、豆腐を浸けている水を指差す。

 ………井戸? まさか……。


「井戸って……もしかして青い紫陽花が咲いている……」


「えぇ、そうよ。なぜか、あそこにある一つだけ毎年青くなるの」


 俺の疑問をミカンが弁明し、おばちゃんが答える。

 なるほど………段々、分かってきた。

 残る疑問はあと一つ……。


「……なんで、井戸の水を使うと茄子の色が落ちないんですか?」


「う~ん……あたしにも分からないけど………昔からこの家では、茄子を漬ける時は井戸の水を使うと美味しくなるって言われてきたの……まぁ、小山田家直伝の家庭の味ってところかしら? ………はい、絹ごし豆腐一丁おまちどおさま!」


 俺の疑問に軽く答えながら、おばちゃんは豆腐の入った袋を手渡す。

 ん? 小山田……? まさか、天文部の……。

 疑問に思った俺は店の看板を見てみる。すると、そこには……「小山田豆腐店」と、達筆な字で書かれた看板があった。

 ……どうして、気づかなかったんだ……。

 そう思いながら、ミカンを見ると奴も驚いた顔をしている。


「これからも、息子と小山田豆腐店をよろしく!」


 妙な偶然もあるもんだ、と思いつつ……俺は店を後にした。

 だが、すぐに家に帰る訳では無い。

 幸いな事に、先程まで滝のように激しかった雨も今は止んでいる。

 少し寄り道をしても良いだろう。

 謎は………解けたのだから。




※※※※※※※※※※※※※




「あの…………なんで、また戻るんですか?」


「………もしかして、謎が解けたの?」


 再び、青い紫陽花を目指し、俺達はアジサイロードを突き進む。

 いや……突き進む、というよりは歩く、という表現が正しいか…………。

 傍ではミカンや鈴木が口々に尋ねて来る。百聞は一見に如かず、とはちょっと違うが………口で言うだけよりも見ながら説明した方が良いだろう。

 俺はそんな事を思いながら無言で歩く。


「ねぇ、リンゴったら!」


「解けた……というよりは、あくまでも俺の想像だがな……」


 青い紫陽花が見えてきたと同時に、俺は口を開く。 そして、青い紫陽花の近くまで来た時、俺はその後ろにある、あの綺麗な井戸を眺めた。

 井戸には汲み上げる為の屋根と滑車が付いており、滑車に掛かっている縄には桶がある。


「………これで確信に変わったな」


「井戸を見る事が確信に変わるの?」


 ミカンと鈴木は互いに顔を合わせ、分からないと言わんばかりに首を傾げる。

 まぁ、無理もない。順を追って説明しよう。


「あぁ。まず、順番に確認するぞ………なぜ、この青い紫陽花が咲く事が謎だと思う?」


「え? それは…………土壌のPHによって花の色が変わる紫陽花なのに、どうして一つだけしか色が変わっていないのか、って事でしょ? 普通なら一つだけじゃなく、その近くにも同じ色の花が咲くから……」


 そう……土壌の酸性度によって色が変わるのだから、少なくても青い紫陽花が咲いている周り、即ち左右の隣同士なら赤い紫陽花が咲いても、少しばかりは青みがあるのだ。

 だが、青い紫陽花の隣はどちらも綺麗な赤い色……青み掛かっている様子は無い。

 つまり、ミカンの言ったピンポイントでの変色………これが一つ目の謎だ。


「その通り、もう一つは?」


「誰が、何の為にこうしたのか……です」


 鈴木が言った、黒幕説………これは二つ目の謎だ。

 色の変色が人為的なものであるというのは、確定事項………じゃあ、誰が何の目的で行ったか………ただの愉快犯による手の込んだイタズラか………。


「そうだ。そして……これらを今から紐解いていく」


「謎が解けたんだね!」


 期待するなよ、ミカン。

 いつもそうだが……これは俺の想像だ。確証は無い。自分の考えが確実だ、と信じる“確信”と状況又は物的証拠で確実だ、と言える“確証”とは全く違う。

 正解度は言わなくても、後者の方が圧倒的に高い。


「いよいよ……噂の謎解きですね!」


「………さっきも言ったが、これから俺が話す事はあくまで、俺自身の想像だという事を頭に入れておいてくれ」


 鈴木にそう忠告してから、俺は青い紫陽花の前にしゃがみこんだ。


「ところで、だ………お前らは紫陽花について、どれくらい知っている?」


「え? えぇと………土壌で色が変わるのと……梅雨時期に咲くって事かな?」


「私もそのくらいしか知りません…」


 俺の質問にミカンが答え、鈴木が同意をする。

 色が変わる仕組みを知っていたから、その他も知っていると思っていたんだが……まぁ、良い。


「じゃあ……紫陽花の原産地はどこか、知っているか?」


「原産地? う〜ん……う〜ん…………もしかして、日本?」


「ミカンちゃん、紫陽花は海外にもありますよ? いくら何でもそれは……」


「正解、紫陽花の原産地は日本だ」


「そうなんですか!?」


「あぁ。確かに鈴木の言う通り、外国にも紫陽花はあるが………それらは日本から輸入したものを品種改良したもの………元の原産地は日本だ。それじゃあ、紫陽花の語源は何か、知っているか?」


「う〜ん……語源? 紫陽花の漢字には紫って言葉があるから……もしかして、紫色が関係あるのかな? う〜ん……分からない……」


 ミカンは首を傾げながら、小さく呟いた。

 今まで見ていて分かったのだが、コイツは変な所で優柔不断なのが欠点だ。そして……正答を言ったとしても、その欠点のせいで通り過ぎてしまう事はもはや致命的とも言える。


「……ややその通りだ。詳しく付け加えると、語源は集真藍あずさあいという言葉から来ている。字は集める真の藍と書く……本物の藍で染めたような色の花がたくさん集まって咲く、という意味だ」


「本物の藍……ですか?」


「そうだ。藍は青に似ているからな………江戸時代にはその青色から“ユウレイバナ”と呼ばれ、見向きもされなかった。事実、紫陽花の人気は戦後に北鎌倉にある“明月院”の庭に植えられたのが始まりだからな……」


「あっ! そこ知ってる! “アジサイ寺”でしょ?」


「………まぁ、明月院がそう呼ばれるようになったのは、あとからだけどな……」


 さてと、二人に対する紫陽花のウンチクはこれくらいで良いだろう…。

 そろそろ、鈴木が何かに気付く頃だろうからな。


「…………あれ? ちょっと待って下さい。それじゃあ、紫陽花の元々の色は青って事ですか?」


「…そういう事だ。大方、鈴木はこの町の紫陽花しか見た事が無いだろう?」


「はい、他の場所の紫陽花はあまり見ませんから……」


「モモちゃん。日本は火山国で更に雨が多いから、土壌が弱酸性になって青み掛かった紫色の紫陽花が多く見られるの。逆に外国ではピンク系統……すなわち赤が多いんだけど……」


「そうなんですか!? じゃあ、赤い紫陽花が咲くこの公園は………」


「多分、土壌が他と違うんだろうな………つまり、普通に考えると珍しいのは青い紫陽花じゃなく、この赤い紫陽花全部だ」


 木を隠すには森の中……普通の紫陽花を珍しくするには珍しい紫陽花の中…といった所か。

 だが、これで青い紫陽花の謎が解けた訳じゃない。寧ろ、ここまでは全員にこの土壌が中性やアルカリ性に近いものであると確認させただけの言わば、過程の最中だ。


「じゃあ、土壌が酸性じゃないとすると……この青い紫陽花は一体なんですか?」


「無論、人為的な物だ。とは言っても、必然ではなく偶然だがな………ミカン、一般的に青い紫陽花にするには土壌をどうする?」


「酸性度を……上げる?」


「じゃあ、具体的にはどうやって上げる?」


「一般的に考えると……肥料に弱酸性の物を混ぜたり、ミョウバンを使うとか……」


「あの……ミョウバンって何ですか?」


「ミョウバンっていうのは染色剤や防水剤、消火剤に使用されるもので…染色剤として使うと綺麗な藍色になるんだよ」


「あと少し付け加えると、沈殿剤にも使われるけどな……」


「沈殿剤?」


 その言葉にミカンが反応する。

 俺はそれに構わず、話しを続けた。


「古代ローマの頃、人々は上質な井戸が無い場合、質の悪い水にミョウバンを入れて不純物を沈殿させてから飲水に使っていたんだ」


「へぇ~、勉強になる~!」


「そして、そのミョウバンを使う井戸は………ここにある」


 俺は静かに青い紫陽花の後ろにある井戸を指差した。

 見た目は綺麗な井戸だが、老舗の豆腐屋が使う井戸だ。恐らく、水の浄化も昔の方法で行っているだろう。


「茄子の漬け物にも色落ち防止の為にミョウバンが使われると聞く………つまり、井戸水にミョウバンが含まれている事は確かだ」


「あぁ……そういえば、おばちゃんは茄子の漬け物を井戸水でやってたんだっけ? なるほど……繋がったね!」


 俺の言葉に二人は合点がいった、という顔をする。

 ここから先は、俺が言わなくても分かるだろう。


「つまり、青い紫陽花になった原因は……ミョウバンが含まれた井戸水が井戸の周りにある土壌に染み出して、その近くにあったこの紫陽花だけが青くなったという事ですか?」


「あぁ、だが……ポンプで汲み上げるタイプの井戸だったら青い紫陽花にならなかっただろうな。偶々、滑車を使って汲み上げるタイプだからこそ……青い紫陽花になったんだ」


 ポンプ式なら管が通され、周りに染み出すという事は無かっただろうが……滑車を使用した屋根付きの井戸なら別だ。そのタイプは井戸の中が岩壁になっているから水が染み出し易いし……その上、汲んだ水を入れ替える際は必ず少量は地面に落ちる…………それら二つが合わされば、土壌の酸性度は上がるだろう。


「何はともあれ……これで謎は解決したね!」


 ミカンが嬉しそうにそう言うと、鈴木も一緒に笑顔を見せる。


「凄いです! 水林さんの謎解きもそうですが、お二人の知識の深さには感心してしまいます!」


 知識は深くない……俺の場合は雑学が多いだけだ。

 そういえば、雑学繋がりで紫陽花の花言葉は何だったろうか?

 確か、紫陽花らしい花言葉だったが……それでいて、6月のジューンブライドに似つかわしく無かった筈……………そうだ、思い出した。確か「移り気」「高慢」「辛抱強い愛情」「元気な女性」「無情」「浮気」「自慢家」「変節」「あなたは冷たい」…………だ。「移り気」と「辛抱強い愛情」は明らかに矛盾しているし、梅雨時期の花らしい曇天のようなどんよりとした花言葉ばかりというのも、頂けない。


「私……もしジューンブライドに結婚式を挙げるなら、ブーケは紫陽花にします!」


「良いね! どんな時でも健気に咲く花って感じがするよ!」


 おい、ミカン。そこは全力で止めろ。

 ブーケを受け取った奴に「浮気」だの「無情」だのといった言葉を送ったら、あとが怖いぞ。

 しかし、女子の楽しそうな空気を壊す程に俺は空気を読めない奴では無い。

 そんな余計な気遣いをしたら、それこそ無情だろう。


「さてと……雨も上がったし、謎も解けたから……俺はもう帰る。豆腐の調理もあるからな」


 暫く、二人を眺めた後、俺は買ったばかりの豆腐に視線を移す。


「あ、うん。じゃあね、リンゴ」


「お気をつけて~」


「あぁ、じゃあな」


 二人に別れを言いながら俺は背を向けて、空を見上げた。

 見ると、曇天の切れ間から夕日の光が僅かばかり漏れている。


「………いつ以来だろうな、雨上がりの空をゆっくり見たのは……」


 独り言を呟いてから、顔は動かさずに意識を後ろへと向ける。

 どうやら、ミカン達はまだ話しているようだ。

 紫陽花の花言葉として当てるとしたら、ミカンは「元気な女性」俺は「移り気」といった所か……どうも、我ながらピッタリじゃないか?

 ………いや、違う。俺の場合は「移り気」というよりは「無情」の方が合っているだろう。


「………そういえば、俺が今の俺になったあの日もこんな天気だったな……」


 ―――生憎………過ぎた事にも興味は無くてな。


 今日、俺がミカンに言った言葉。

 あれには一つ間違いがある……正確には「過ぎた事」では無い「過去」に興味が無いのだ。更にもっと細かく言うと「興味が無い」のではない「関わりたくない」のだ。

 だが、目を瞑ればあの頃の出来事が脳裏を過る。今でも、たまに夢に出てくる。


「………」


 黙って立ち止まり、俯く。

 耳に聞こえてくるミカン達の声、顔に当たる6月の風………時期は違えど、どれもあの時と全く同じ…………いや、過去に囚われるな。

 あの過ちを繰り返さない為に俺は…俺を捨てたんだろう?


「……振り向かずに歩けば良い……そうだ、中学の頃……同様に……」


 頭で分かっていても、俺はその場から動けなかった。

 一回、あの青い紫陽花の謎を保留にしようとした際……俺には煮え切らない気持ちが生まれていた。

 リズムが崩れていくような、まるでタバコを止めようとすると吸いたくなるような……そんな感じだ。

 だけども、あれはたまたまだ。何も気にする必要は無い。

 ゆっくりと息を吸い、大きく吐く。よし、大丈夫だ。


 少しずつ歩みを進めながら、気分転換を図るため、俺はコーヒーが売っている自販機を探しながら家までの道を遠回りして帰って行った。

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