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出逢い

 県立槝原かしわら高等学校。

 この学校は地域の人々に愛された地域密着型の学校として有名だ。最も地域に関してだけで、全国的にはあまり知名度は無い。

 文か武、どちらかに長けている最近の高校にしては珍しく普通の高校と言ったところだろう。

 そんな我が校の校門を潜り、桜吹雪が吹き荒れる学校の敷地内を歩いていると突如、後ろから誰かの声が聞こえた。


「お~い、大檎!」


 俺の名前は水林みずばやし大檎だいご

 つまり、声の主は俺を呼んでいるという事になる。

 渋々ながらその方を振り向くと、そこには茶色掛かった黒髪で同じ背丈程の男子生徒がヤケに良い笑顔でこちらを見ていた。

 奴の名は武藤むとうひろし

 同じ小、中学校からの付き合いで、腐れ縁が続いている友と呼べる存在……。


「……なんだ、浩か」


「なんだとはなんだ! 折角、声を掛けたのに…」


 浩はぶつくさと言いながらも俺の隣まで走ってきて、一緒に歩き始める。

 俺としては別に遠くから声を掛けてくれずとも、近くに来てただ肩を叩く程度の気軽さで十分なのだが、それは相手の自由なのでこちらがとやかく言う筋合いは無いだろう。


「相変わらず律儀だな」


「そうか? 親しき仲にも礼儀あり、ってのを実行しただけに過ぎねぇんだけど………それより、入学してそろそろ一週間だろ? だいぶ学校には慣れてきたか?」


 飛び散る桜の花弁を眺めながら浩は俺に問い掛ける。

 口調が先輩風に聞こえるので「それはお前にも言える事だろう…」と一言前置きをしてから、その質問に応えた。


「慣れてなきゃ、堂々とこうして歩いていないだろ?」


 俺達が今、歩いているのは校門から正面玄関に続く道のど真ん中。すなわち、普通なら先輩達が通るところを歩いている訳だ。その証拠に他の一年生は無意識ながらも両端を歩いている。


「まぁ、確かに……だけどこの光景も一、二週間だけだ。それが過ぎれば皆、俺達のようになるさ」


「……たかが道一本にビクビクしすぎだろ。それで人生が変わる訳じゃあるまいし……」


「いやいや、大檎。普段何気無く歩いている道は人生という名の道と同じだぜ? もしかしたら、こうやって歩いているせいで先輩達に目を付けられ、花の高校生活が血みどろ且つ阿鼻叫喚な高校生活になったらどうするんだよ?」


「そんな高校生活になったとしても精々先輩達が居る1、2年間が限度だろ? つまり1年間は花の高校生活が送れる……そう考えるとお前の言った血みどろ且つ阿鼻叫喚な高校生活というのが逆に興味有るものになる」


 先輩達が居る内にしか体験出来ない高校生活……興味が有るな。


「バカか! 変な事に興味持ちすぎなんだよ。そんな嫌な高校生活興味あるか!」


 途方も無い程の下らない会話を交わしながら、俺達は正面玄関に着き、靴を脱いで自分の下足箱へと歩く。


「だいたい……お前は昔からそうだよな。自分の興味のある事だけを優先して他を全部二の次にする。中学の頃も確か…萌えアニメのDVDを全巻鑑賞したと思えば、いきなり元素記号の載っている本を真剣に読み始めたり……正直言って、お前の思考回路がよう分からん」


 靴を入れ、上履きに履き替えながらふと考えてみる。

 俺にとっては別に普通なんだがな……。


「興味を持ったら知りたくなる……普通の事だろ?」


「いや、だから……お前の興味を引き立てる切っ掛け……っておわっ!?」


 浩が言い掛けながら俺と一緒に廊下に出た瞬間、誰かが風の如く俺達の間を通って行った。

 その通り抜けた主は少し先の所まで走ってから止まると俺達の方を振り返る。


「あ、ごめんなさい!」


 そう言って振り返った主は長い茶色の髪で、ロングのまま両端の髪をツインテールにしている変わった髪型をした女子生徒だった。心なしかツインにしている髪の量が少ないように感じる。年は……俺達と同じくらいだろうか?

 因みにその女子生徒は謝った後、すぐに走って何処かに行ってしまった。

 というか、そんなに慌てて一体何があるというのか? 確か、今日は何も行事は無かった筈だが……。


「こぉらぁ! 気を付けろー!」


 浩が女子生徒が走った方へ向かって声を張り上げるが、もうその方向には肝心の人物の姿はない。端から見ているとただ虚しく叫んでいる哀れな奴だ。

 それを裏付けるかのように浩の叫びに一瞬だけ振り向いた生徒達が次々と何処かへ行く。

 気が付くと辺りの廊下には俺達二人以外、誰も生徒は居なくなっていた。


「……なんか俺、悲しくなってきた。主に心が……」


「…まぁ、高校生活は始まったばかりだ。こんな時もあるさ」


 そんな会話をしていると校舎中に朝のホームルームを告げるチャイムの音が響き渡る。辺りに居た人達が急に居なくなったのは、浩の空虚な叫びに堪えられなくなったからでは無く、ただ単に時間になったから居なくなっただけなのだろう。


「ほら、さっさと行くぞ。学校に居るのに遅刻扱いされたら堪ったもんじゃないからな」


「だな。んじゃあ、教室まで競争するか!」


 浩の「よーい、ドン!」の掛け声に合わせ俺達は階段を駆け上がり、教室へと向かう。




 単純だけどもこれから先は中学同様の学生生活、今まで通り平凡な日常を送ろう。










 だが、そう決めた俺の学生生活は先程出会ったあの女子生徒によって見事に崩される事をこの時、俺はまだ思ってもいなかった。

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