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エピローグ④

「……やっと終わった、」船場はテーブルに突っ伏す。「死ねる」

「お疲れ様、兄貴、ホント助かったよぉ」

 船場はヒロミの部屋でアシスタントをしていた。昨日、学校から家に帰宅してすぐだった。ヒロミに「締め切りに間に合わないから手伝って!」と泣きつかれた。なんでも他のBL作家たちと一緒に薄い本を出すらしいのだ。徹夜だった。徹夜でヒロミとともにBL同人誌を作り上げた。もう体力というか、様々なものがゼロな状態だった。男の子同士という関係性にすでに意見もこだわりも疑問もすっかりなくなっていた。まあ、ナオミコ以外のことになると風見鶏なのが船場のキャラクタであるが。

「そういえば、」ヒロミは色が濃く甘くないコーヒーをすする船場に向って聞く。「ナオミコは今日もイオリさんとデート?」

 船場はもううんざりというように頷いた。あの日を境に、その忘れもしない八月三十日の教会での出来事を境に、ナオミコはなんだか開き直ったようになって内海イオリとの関係を深めていたのだった。

「ヒロミにはいつか告白する、でも、今はイオリお姉さまに甘えるときなの」

そんな風に理解不能意味不明な理由を言っては内海とデートに向かう。そう、あの綺麗な大学生風の女性は信じられないことに内海だったのだ。もうなんていうか、複雑だった。

とにかくナオミコは当分、ヒロミに告白する様子はないようだ。

そういえば、船場家に一度、内海がやってきたことがある。船場がいるのにも関わらず、公然とリビングでいちゃいちゃして、船場の心をぐるぐると引っ掻き回すだけ引っ掻き回して帰っていった。

帰り際、内海はなぜか顔を僅かにピンク色にして言った。

「私が戸籍上のお姉さまになるにはどうするのが一番手っ取り早いと思う?」

 理解不能意味不明な質問に対して船場は主張した。「まだ内海先輩をナオミコのお姉様だって俺は認めていませんからね、ナオミコは俺だけの妹なんですから!」

「死ねっ!」

内海の威圧感は綺麗になる前よりもずっと増したのではないか、と船場は思っていた。

「いいなぁ、なんだか楽しそう、私もお姉さまでも作ろうかしらん」

 ナオミコの気持ちも知らないで、ヒロミはナオトの頭を撫でながら呑気に言う。ヒロミがお姉様なんて作ったら、ナオミコは発狂して、それこそ死んでしまうに違いない。

 ナオトは呑気な欠伸をした。以前の主人の話もしなくなった。探さなくてもいいのかと聞くと。

「この街のどこかにマルガリータ様はいる、それでいいんだ、」ナオトは答えた。「それでよかったんだ」

 船場はナオトがそう言うならと。

 別に何も言わなかったし、何も思わないことにした。

 ふと。

船場は時計を見る。

 時刻は午前十一時を回ろうとしていた。

 それを見て。

 はっとして。

 慌てて立ち上がった。

すっかり忘れてしまっていたけれど、今日はドラゴン・ベイビーズで働かなければいけない土曜日だった。

「じゃあ、俺はコレで、後は頼むよ」

「あ、コレ、今度、ミナミちゃんに渡しておいてくれない?」

 そう言って差し出したのは、ヒロミが以前作ったBL同人誌だった。渡しそびれていたから、あと、それとなくレヴューも貰ってきてね」

ヒロミの言うミナミちゃんというのは環境保全団体エコロジーのメンバで一年生の沙汽江ミナミのことだった。沙汽江は八月の初旬、錦景市産業会館で開かれた同性愛オンリィイベントで知り合ったらしかった。船場は世間の狭さを思いながら、その薄い本をペラペラと捲る。

まぁ、悪くはないな。

そういう評価をしている自分にすぐに気付き。

 船場は額を押さえた。

ページの最後にはペンネームと短い文章が添えられている。


甘くてちょっぴりほろ苦い。

ふんわりと柔らかい。

そんなチョコレート・ムース・レシピを。

あなたに。


                                      了



お付き合いありがとうございました。


チョコレート・ムース・レシピ、完結です。


ご感想、レビュー、評価、お待ちしております。


この作品は処女作の改訂版です。


初めて書き上げた小説ということもあり、思い入れが強かった物語なので、さまざまなスパイスを加えつつ、炒めなおしました。


一応続編も考えています。


ゼプテンバの細かいことが気になる方は「錦景女子生徒会の四季は春」をお読みください。


次回作は「(ゴールド・ラッシュ・ライク・ア)ピクニック」


内海イオリと船場ナオミコが演じた劇です。


私の魔女シリーズに思考を戻します。


舞台はゴールドラッシュに沸く、新大陸シンデラ。


着々と進行中です。よかったらこちらにも、お付き合いください。


ではノシ


追記2/22推敲完了。


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