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エピローグ①

大森テルコの自宅は楢崎市の駅に近い高層マンションの最上階だった。最上階のフロアは全て大森の兄の所有らしい。大森は兄と二人暮らしで、両親は既に他界しているという。詳しいことは聞かなかったが、事故でなくなったらしい。まだ大森が二歳のときだったという。「小さい頃の私は、パパとママは天国に行ったんだとお兄ちゃんに言われて、信じていたんだ、でも子供が考えることって滅茶苦茶だよね、天国は宇宙のことだと思ってたんだよ、お祖母ちゃんが読んでくれた絵本のせいかもしれない、うん、宇宙に行けばパパとママに会えると信じてたんだ、可愛いよね、とっても可愛い、小さい頃の私、あ、でも、少しだけ、今でも信じてる、そういう非科学的なことを、私は信じちゃう、えへへ」

「いい話だねぇ、」久納ユリカは目を赤くして、鼻を啜りながら頷いている。「宇宙飛行士になれるといいねぇ、テルちゃん」

「ホントかな、」同じ一年E組、大森の前の席で軟式野球部のエースの榎本タケコが疑う目をしている。「久納ちん、あんまりテルコの言うことを鵜呑みにしない方がいいよ、嘘ばっかり言うんだから、一緒にテスト勉強しても、嘘ばっかり教えるんだよ」

「まぁ、まぁ、タケちゃん、」そう宥めるのは同じく一年E組、演劇部の悲劇のヒロイン、瀬口セイラ。「でも、嘘ばっかり言うテルちゃんってやっぱり面白い、宇宙に行ってもきっと冗談を言うんだわ、宇宙に行って冗談を言えるなんて、日本人じゃテルちゃんくらいのものよ」

 アプリコット・ゼプテンバ、久納、鏑矢リホ、朱澄エイコ、榎本、瀬口、大森の一年E組の七人は、宿題の天体観測をするためにマンションの屋上にいた。

 太くて長くて白い天体望遠鏡の周りに七人はいた。八月の深夜。マンションの屋上は少し肌寒い。ゼプテンバは薄手のブランケットで腕を温めていた。

 空を見上げる。

 錦景市の夜空は星が良く見える。

星屑を散りばめた夜空。

 月も見える。

 少し欠けた月。

 色は銀色。

 流星群はまだだろうか。

 右隣で膝を抱えて座る鏑矢はゼプテンバの肩に乗せて寝息を立てている。

 左隣で同じような姿勢で座る朱澄も目を擦っている。

 朱澄はいつのまにかゼプテンバのブランケットの中にいた。「……まだかしら」

 ゼプテンバは星のエネルギアの接近を感じている。

 それは魔女だから。

 分かること。「星はもうすぐ、来る」

「違うわ、」朱澄は目を瞑ってゆっくりと開いた。「星のことじゃなくて」

「え?」ゼプテンバは朱澄の綺麗な目を見る。何か企む目をしている。今、気付いた。「……何を企んでいるの?」

「少し寒いね、」朱澄は髪を払ってゼプテンバの腕をギュッとする。「そういえば今日の最後の歌、タイトルは?」

「下らない歌、」ゼプテンバは英語で答える。「……朱澄はいつになったらメンバになってくれるの?」

朱澄は微笑んで、誤魔化す。ゼプテンバは彼女の加入を積極的に望んでいた。「ああ、もう、夏休みも終わりね、終わっちゃうのね」

「うん、もう九月」

「あ、もしかして、」朱澄は凄く魅力的な口元を動かす。「セプテンバ?」

 ゼプテンバは朱澄を睨みつける。

 朱澄はとても愉快な表情で。

 生徒会長を魅了した舌を見せる。

 もし久納が言ったら。

マッシュルームを滅茶苦茶にしていたところだ。

そのとき。

「あ、お兄ちゃん、」大森の声。「お帰り、遅かったね」

 大森の兄が帰ってきたようだ。

 ゼプテンバは後ろを振り返る。

「あ、星屑が落ちてきた、」朱澄が立ち上がった。「リホ、起きて、起きなさい、空がまるで、なんていうか、世界の終わりみたいよ」

「……うーん?」鏑矢は眠い目を擦り、空を見上げた。「……わっ、わっ、凄い、凄い、凄い」

「素敵、」久納は五指を組んでロマンチックな目をしている。「まるでラブキネマのクライマックスみたいなとてもロマンチックな夜」

「……ね、落ちてこないよね?」榎本の声はビビッている。

「さあ、どうかしら、」瀬口はビビる榎本を面白がっている。「テルちゃん、そこのところ、どうなの?」

「え、落ちて来るかって?」大森は天体望遠鏡を覗いている。「そんなことよりも皆、きちんと観測記録をまとめないと駄目だよ、このまたとない夜空のデータを言語と数値と画像で残しておかなきゃ、ほら、ゼプちゃんも」

 大森はゼプテンバの肩を触る。

 ゼプテンバはまだ空も見上げていなかった。

 そこにいるから。

 君に似ている人が。

 白い花束を持っているから。

「何を言おうか、君に送る言葉をずっと探していたんだけど、やっぱり、」その人は恥ずかしそうに後頭部に手をやっている。「やっぱり何も思い浮かばなかった、これを君に、今日は僕の誕生日なんだ、だからお願いします、受け取ってください、この花束を君に」



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