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チョコレート・ムース・レシピ  作者: 枕木悠
第四章 アブサッド・スピーチ
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第四章②

出会いと言うものは唐突であり、また再会というのも唐突なことである。

内海が船場ナオミコに出会ったのは、三年前の春。内海が中学校三年生で、ナオミコが中学校一年生のときだった。二人が通っていたのは錦景女子大学の東側に位置する錦景女子中等学校。高校、大学と比べると中学は各学年二クラスと規模は小さい。その小さな中学校で二人は出会った。

 内海は演劇部に所属していた。演じるのは劇のヒロイン。当時の内海は髪が長く、艶があり、かぐや姫のようだと評されていた。眼鏡も掛けていないし、奇妙なマッシュルームヘアでもなかった。女の子たちから憧れる存在だったことは確かだった。

 ナオミコが演劇部に入部したのは春。内海のファースト・インプレッションはショートヘアの目立たない女の子だった。十二人いるうちの一年生の一人くらいにしか考えていなかった。

 二人が急接近したのは秋。

 錦景女子中高大合同で行う文化祭、通称錦景祭で中等の演劇部は「(ゴールド・ラッシュ・ライク・ア)ピクニック」という物語に決まった。内海は主人公の甲原ルッカを演じることになった。ナオミコはヒロインのマロニィ・マンブルズを演じた。ゴールド・ラッシュ・シリーズの第一部のピクニックでは甲原とマンブルズの出会い、それが恋に発展する過程が描かれる。それが主題だ。内海とナオミコは一緒に稽古を重ねていくうちに自然と親密になった。

錦景祭が終わる頃には内海にとってナオミコはただの一年生ではなくなっていた。それはナオミコも同じ気持ちで、錦景祭の終わりに、ナオミコは内海に告白をした。「好きです、私と特別な関係になって下さい」

内海は嬉しかったが困った。即座に回答できなかった。内海には当時、彼女がいたからだ。「ちょっと、待って、ごめん、考えさせて」

 内海は判断を保留した。ナオミコのことも好き。彼女のことも好きだった。どちらかに決めるなんて出来なかった。だから内海は判断を保留したまま、ナオミコと仲良くしていた。ナオミコも内海に判断を求めていない。積極的に二人は接近するようになった。その接近の仕方には粘性があった。

そういう微妙な状態は長く続く。いつバランスが取れなくなってもおかしくない危うい状態は長く続いた。終わりは冬に訪れる。

クリスマス・イブだった。

内海はナオミコと約束していた。この頃にはナオミコに大きく傾いていた。彼女にどうやって別れを切り出そうか考え始めていた頃だった。待ち合わせは錦景市駅の恐竜の前。様々なカップルが待ち合わせをしていた。ナオミコが先に来ていた。とても寒い夕方。あと数分で暗くなる時刻。寒さにナオミコの頬はピンク色だった。内海は声を掛けるより先にナオミコの頬を両手で包んで短いキスをした。

甘い言葉を交わす。

様々なデート・プランを考えていたが、そんなものはどうでもよくて、早く二人きりになれる場所に行きたかった。二人だけの世界を感じられる狭い場所に行きたかった。説明できない幸せが、溢れていた。ナオミコの顔にも笑顔が溢れていた。

「何してるの?」

 内海が振り返ると、そこには彼女が立っていた。声が出なかった。ただ彼女を見つめるしか出来なかった。彼女はとても怖い顔をしていた。「……誰、その娘?」

 内海の脳ミソは完全に止まってしまっていて言い訳をすることも出来なかった。彼女は内海に質問を浴びせる。内海はそのどの質問にも的確に返事をすることが出来ない。次第に口論になった。彼女も、内海もヒステリックに悪い言葉をぶつけ合った。

「もう信じられないっ!」

彼女はそう言い放ち、去った。

その後ろ姿を見ながら内海は泣いていた。

悲しかった。

悪いのは私だ。

罪悪感に襲われ苦しい。

どうしたらいいのか、分からない。

様々な感情が入り混じった気持ちがお腹の辺りからせり上がってきて苦しい。

気持ちが悪い。

涙が止まらない。

 ナオミコはそんな内海を抱き締めてくれた。

その日の夜は悲しいだけで終わった。内海は自宅に帰ってすぐにベッドに潜り込んで、何も考えず、眠りについた。

 そして。

 その次の日の朝。

 内海の視力と髪の毛の色は急激に悪くなっていた。



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