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チョコレート・ムース・レシピ  作者: 枕木悠
第三章 ザ・テラス・ドール・シスターズ・イズ・バック!
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第三章⑪

「どう?」

天之河が持ってきたのは、制服のボタンほどの大きさでフェルト生地くらいの厚みを持った超小型盗聴器だった。武骨なトランシーバのような受信機も三つ、天之河は気を利かせて持ってきてくれた。「コレにはGPS機能も搭載していて発信機にもなるわ」

「本当に小さいっすね」船場は超小型盗聴器を手の平に乗せて薄さを確かめた。まるで至高の武器を手に入れたように思えた。これを使えば丸わかりである。

「これで俺たち勝てるなっ」天野も勝った気でいる。

 天之河は芹沢が座っている椅子の半分に腰かけている。芹沢は緩い顔をして椅子の半分に座っている。つまり二人は密着している。船場たちの喜ぶ顔を見ながら、天之河は口を開く。「十六万五千八百円」

「え?」

「だから十六万五千八百円」それはどうやら超小型盗聴器の値段らしい。ただで最新鋭の技術を提供してくれるほど天之河は優しくはなかった。

「高過ぎっすよっ! あれ? 安いのかな?」

 相場が分からないので船場はなんともいえない。けれどそんな大金、一介の高校生が持っているはずがない。

「適正価格よ、ここで現金で払えとは言わないけれど、ああ、レンタルっていう形でも構わないわよ」

 渋っている船場を見かねて天之河は提案した。これは有り難い。レンタル料金なら払えないこともないだろう。船場はほっとした。「それでお願いします、レンタルでお願いします」

「契約成立ね」

 船場と天之河は握手を交わす。「それで料金はいくらですか?」

「そうね、五万円くらいでいいよ」

「え、高くないっすか? それに今、持ち合わせがないし」

「君、今、バイトとかしてる?」

「いや、特に、」船場は首を横に振る。「たまに短期でバイトしたりしますけど」

「なるほど、」天之河はキセルを燻らせた。「うちのキッチンで皿洗いして、五万円分働いてくれたら、ただにしてあげる、今人が足りなくってねぇ」

 船場は頷いた。

「契約成立ね、」天之河と再び握手を交わす。「それじゃあ、有意義なことに使ってね」

 とにもかくにも盗聴器を手に入れた。「さあ、盗聴するぞ」と意気込んだところで即座に問題が浮上した。

どうやってナオミコに盗聴器を仕掛ければいい?

そのことに全員同時に気付いたらしい。

「……天野、行ってくれよ」船場は右を見る。

「……嫌だよ」天野は微動もせずに言う。

「会長」船場は左を見る。

「難しいことを言うな」

 難しい。そう。これは非常に難しい問題だ。

 怪しまれないように近づいて、盗聴器を取り付ける。

 男達には難しいことだ。

頼みのつてはすでに他のテーブルで接客を行っている天之河以外にいない。

船場と天野と芹沢はじとっとした目で天之河を眺めた。そして船場たちのテーブルに視線を向けた天之河と目が合う。すぐにその視線が自分を呼んでいることに気づいて、面倒臭そうな足取りでやってきてくれた。

「まだ何か?」

「実は」

 天野は天之河に事情を話した。

「何、そのカオス?」という天之河の反応だったが「プラス一万円」で引き受けてくれた。船場はその要求にすんなりと頷いた。合計六万円働かねばならなくなったが、仕方がない。

 天之河は盗聴器を手にすると、先ほどまでいたテーブルに戻り、接客を開始した。怪しまれないように徐々にナオミコと大学生風の女性に接近していくらしい。その所作はどことなくプロ。

徐々に天之河はナオミコたちのテーブルに接近していく。

天之河は一度船場たちの方に向ってウインクした。

船場はカウンタテーブルの上に立てた一つの受信機のスイッチを入れた。

受信機は盗聴器からの信号を拾う。

店内の雑音が、受信機のスピーカから聞こえる。

天之河はナオミコに声を掛ける。「どうですか、楽しんでおられますか?」

天之河の手がナオミコの肩に触れるのが見えた。超小型盗聴器であるために肉眼では確認できないが、おそらくぴたっと盗聴器がナオミコの仕掛けられたに違いない。

 受信機のスピーカから。

聞こえる。


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