第三章⑨
「あれ?」芹沢は頭を掻いた。頼みの綱の内海はなかなか電話に出ないようである。
船場はふとぼんやりとメイド喫茶の入り口の方を見た。
丁度可愛い女の子と綺麗な大学生風の女性のカップルがご来店しているところだった。リホちゃんが「お帰りなさいませにゃ、お嬢様、にゃんにゃん、にゃ、にゃ~ん」と応対している。「こちらですにゃ」
「おい、船場見ろよ、」天野もそのカップルの存在に気付いたようだ。天野が指差す方へ会長も電話を切って視線を向けた。「あの子めちゃくちゃ可愛い」
しかしそこでやっと気付く。
ナオミコと大学生風の女性のカップルだった。
間違いない。
船場がナオミコのことを見間違えるはずがない。
あまりに予想外の事態で反応が遅れた。
船場はカウンタ席に縮こまるようにして座る。
「どうした?」天野が問う。
船場は「しっー」と唇の前に人差し指を立てた。
船場は徐々に振り向き、店内を見回す。「……いた」
幸いなことにナオミコと女子大生のお姉さんは船場たちが座るカウンタ席から遠い、入り口に一番近いテーブルに案内されていた。船場はリホに心から感謝した。
そしてこれまた幸いなことに、ナオミコと大学生風の女性は四人がけのテーブルに案内されたにもかかわらず、向かい合わずに船場たちのテーブルに背を向ける形で、丁度、円形のステージの方に体を向けて、隣同士寄り添うように座っていた。ほっと胸を撫で下ろす。
船場の様子を見ていて芹沢と天野は悟ったようである。「……おい、まさか」
船場は目だけで頷いた。店内はお昼時を過ぎ徐々にお客が減ってきていたからだ。むやみに大きい声を出せば気付かれてしまうかもしれない。
天野の声も囁くようになった。「あのカップルがそうなのか?」
「ああ、」船場は頷く。
「天野にはどう見える?」芹沢はさっと後ろを振り返り、ナオミコと大学生風の女性をもう一度確認したところで天野に聞く。「率直な意見を頼む」
「そうっすね、まるで仲のいい姉妹ですね」
船場は黙っている。
「同感だ、」芹沢はコーヒーをすすった。「それ以上でもそれ以下でもない、完璧な姉妹だ、あの雰囲気を姉妹と言わずして何が姉妹か、船場悪いことは言わない、もうこのことから手を引いた方がいい」
正に百聞は一見にしかず。思いのほかにお似合いのカップルであったので会長と天野はそこに付け入ることは不可能と判断したらしい。
確かに船場の目にも本当の姉妹のように仲良さそうに見えた。ナオミコは大学生風の女性に自分から喜んで寄りかかっているように見えるし、彼女もそれを暖かく迎えている。その仕草、振舞い、メイド喫茶にあっても揺るがない二人の絆は紛れもない姉妹である。
だがしかし。
ナオミコは本当に。
それでいいのか?
「いいわけがない、」芹沢は不敵な笑みをその薄紅色をした口角に現した。「そうだろ、天野?」
「そうですね、会長」天野も微笑を作ってそれに応じる。
そして芹沢は船場に顔を寄せ言う。「確かにあの二人はお似合いだ、だがしかし、それ以上に船場の妹は可愛い」
「……はい?」船場は首を傾げる。「……いや、可愛いから、なんなんです?」
「あんなに可愛い女の子を独り占めするなんて、」天野は腕を組み頷いている。「許されませんね、絶対に許せない蛮行ですよ、ええ」
「船場、」芹沢は船場の肩を抱いて囁く。「妹を悪い魔女から救い出すぞ」
「話が妙になってきたな」
ナオトが足元で囁いた。




