第三章⑥
白いパワーストーンを首に下げたゼプテンバはメイド喫茶ドラゴン・ベイビーズに戻った。お昼時なので店内は混雑していた。奥の円形のステージの上ではバイトリーダの東雲ユミコとキッチンリーダの谷崎モモカが踊って歌っていた。二人はヴァレンシアというユニットを組んでいて、レジ横ではCDも売っている。どれも十年前くらいのアニメソングのカヴァだが、一枚二千円のCDはよく売れている。
ゼプテンバは彼女たちの歌に耳を傾ける。
心地の良い旋律に乗せたストレートな歌詞。
アニメソングはそれだからいい。
恋心が素直に表現されている。
ゼプテンバは今の自分の気持ちと詞をリンクさせて。
センチメンタルな気分になった。
「あ、ゼプテンバってば、」久納がゼプテンバを見つけて、睨んでやってくる。久納はメイド服を着てパンダの耳を付けてお盆の上にグラスを乗せて運んでいる。「どこ行ってたの? キッチンが大変なことになってるよ! リホちゃんが死んじゃうよ」
「すぐ行く」
「あら、素直、」言って久納は首を傾げる。「ああ、首を傾げてる場合じゃないね、忙しい、忙しい」
「久納、お願いがある」
「え、何? ゼプテンバが私に? 珍しい、」久納は愉快そうだった。「いいよ、聞いてあげる」
「詞を書いてくれ、」ゼプテンバはメロディを録音したデモテープを久納のエプロンのポケットに入れた。「夜までに頼む」
「え、夜まで?」
「お願いだ」ゼプテンバは呼び止める久納を無視して更衣室へ向かう。
更衣室に入ると、アメリが着替えていた。これから出勤のようだ。ゼプテンバの方を見て、アメリは微笑み歯切れのいい口調で言う。「おはようございます」
「おはよ、」ゼプテンバは軽く手を持ち上げて言う。「顔色も、髪の毛の色もいい」




