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チョコレート・ムース・レシピ  作者: 枕木悠
第三章 ザ・テラス・ドール・シスターズ・イズ・バック!
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第三章⑤

ナオミコと大学生風の女性は傍からどう見てもラブラブしていた。ライクではない、ラブでもない、ラブラブである。友達同士で遊びにいくのとは全く違う、一線を跨いでいるような雰囲気がパヤパヤと漂っては枯渇する様子は一向にない。わざわざ描写する必要のないシーンだと船場は思う。

 そんな二人が歩くのは私鉄錦上線の高架下を抜けた先、セレクトショップの並ぶバックストリートだった。アニメ・マニアの船場があまり来ない場所だ。二人は一緒に試着室に入っていた。お揃いのアクセサリを選んでいた。キネマ館の地上エレベータ前の噴水でクレープを食べていた。食べさせ合っていた。ナオミコの口元についてクリームの処理をするのは、大学生風の女性の仕事だった。

 そんなラブ・シーンを見せつけられ、常に船場が冷静だったと言えば、もちろん、そんなわけがなかった。船場の頭は何度も熱くなった。フィーバしていた。フィーバして、バックストリートを騒がしくする場面が多々あった。そのたびにナオトが左手を噛んだ。そろそろ痛みにも慣れてきた。

そして現在、船場とナオトはバックストリートを抜けた先にある、錦景センタービル一階のア二メイトの前にいた。ナオミコと大学生風の女性は仲良く手を繋いで、堂々と青い看板を潜っていった。このデートコースは予想外だった。大学生風の女性は全く、そんなマニアな雰囲気はなかったからだ。しかし、人は見かけによらない。ナオミコだって、百合だった。もしかしたら、彼女も百合マニアなのかもしれない。二人で百合レーベルのコミックを物色していると思うと、なんていうか、遠い目になる船場だった。

「ナオト、どう思う?」センタービル前に設置された自販機の前でコーラを飲みながら船場は聞く。ナオトはミネラルウォータを器用に飲んでいる。とても愛らしい光景。

「まるで中睦まじい姉妹のようだ、」ナオトは水を飲み終えた。「つまり、彼女じゃないかもしれない」

「気を使うなよ」

「フランクな感想を述べたまでだ、」ナオトは空のペットボトルをゴミ箱に放り投げた。「少年、手は大丈夫か?」

「ああ、自慢じゃないが、痛みには強いんだ、」船場も空のペットボトルを放り投げる。「……ナオト、俺はもう、なんていうか、苦しい、」船場は額を手で抑える。「俺はナオミコのお兄ちゃんとして、……俺は」

 その折り。

ナオミコと大学生風の女性は店内から出てきた。船場はナオトを抱いて、陰に身を隠す。ナオミコの右腕には青い袋。

二人は駅の方向へ戻って行く。

船場も尾行を再開。

そのとき。

「船場?」と肩を叩かれた。

「え?」振り返った。「あ、会長じゃないですか」

 そこにいたのはこの炎天下の中で目元涼しげな環境保全団体「エコロジー」の現会長である芹沢ホヅミだった。背は船場よりも少しばかり高い。いつ見ても華奢であり、いつ見ても女子が男装をしたような綺麗な顔をしている。つまり、イケメンである。

「やあ、奇遇だね。船場、」芹沢はなんだか愉快そうだった。「買い物かい?」芹沢は足元のナオトを発見する。「船場のペット? 可愛いなぁ、名前は?」

「ナオトです」

ナオトは芹沢に抱かれた。「ああ、散歩?」

「ええ、まあ、」船場は首を竦める。「会長こそ、珍しいですね、アニメイトに買い物ですか?」

「うん、船場、今日は何の日だか知ってる?」

「流星群の日、」朝のニュースで確か、そんなことを言っていたような気がする。「ですか?」

「え、今日、流星群の日なの?」

「あ、興味あるんですか?」

「全然、」芹沢は微笑んで首を横に振る。「でも偶にはいいかもねぇ、空を見るのも、天文学研究会が屋上で観測してるかもね、邪魔しに行こうかな」

「それで今日は何の日なんです? 誰かの誕生日とか?」

「誰かの誕生日かもしれないけれど、でも、違うな、違うんだ、今日は戸松ハルカの写真集の発売日なんだ」

「ああ、それは会長にとっては特別ですね」

「だから特典目当てにココにね、」芹沢はにこやかに言う。「あ、すぐ買ってくるから、待ってて、久しぶりに行こうよ、ドラゴン・ベイビーズ、あそこ、確かペットも同伴出来るでしょ?」

「ああ、いいですね、」船場は頷く。「行きましょう」

 芹沢は店内に入っていった。

 そして。「……あ」

咄嗟に後ろを振り返る。

 ナオミコと大学生の女性が視界のどこかを歩いているはずがなかった。



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