第二章⑦
船場は錦景ロフトで水色とピンクのパジャマを購入した。タオル地の多少値の張るものだったが、船場はこのパジャマをナオミコとヒロミに着せたいと思った。水色はナオミコが昔から好きな色。それから船場は近所のスーパーに行き、食材を買い込んで帰宅した。広瀬家の前を通ったとき、二階の部屋からヒロミが見えた。ヒロミは船場と目が合って微笑んだ。そして顔の横に手の平を広げて左右に動かした。ヒロミのあまり見られない優雅な仕草に船場は何か嫌なものを感じた。しかし、気のせいに決まっている。船場の勘が当たったことなんてない。そんなことよりパーティの準備だ。
パジャマ・パーティの準備に取り掛らねば。
「ただいま」
船場がリビングに顔を出すと、ナオミコは昼の時間のままの衣装でいた。つまり、パジャマだった。髪の毛もきちんとしていない。まあ、ナオミコは家だと常にこんな感じだった。外出するときは素晴らしくきちんとするが、家に引きこもるときは着替えもせずにダーティな目をしてリビングでラジオを聞いている。ナオミコは今もラジオを聞いていた。エコロジーの現会長、芹沢ホヅミも大好き、戸松ハルカのラジオだった。ナオミコはラジオを聞きながらナオトに芸を仕込んでいた。
「お手、おお、よくできましたねぇ、よしよしぃ」
ナオミコが強く撫でるのでナオトは船場のところに吠えながら、「おい、こら、少年、遅いぞ」と言いながら、逃げてきた。ナオトはナオミコの強引さに困憊気味なようだ。
「あ、お帰り、こんな時間までどこ行ってたの? その黄色い袋はロフト?」
「買い物に、パジャマと、それからいろいろな食材を、」船場はキッチンに向かいながら言う。「それより少し髪の毛を整えて、勝負服を着て来い」
「なんで?」ナオミコはきょとんとしている。「なんで、パジャマなんて買ってきたの?」
「今夜はパジャマ・パーティだ、夜の七時から、パーティが始まるんだ、そのパジャマを買ってきた」
「……はあ?」ナオミコは顔を歪めた。「なんでナオズミとパジャマ・パーティなんてしなきゃいけないのよ」
「ヒロミも来る、もう電話した、ちゃんとピンクと黄色のパジャマを買ってきた」
「それを早く言ってよ、もぉ、バカ!」ナオミコは慌てて二階の自室に向かった。
ナオミコは恋に真剣だ。
船場は涙がこぼれそうだった。
ナオミコがヒロミの彼女になれればいいと。
百合に対しての理解を深めた船場は純粋に。
心から。
そう思う。
白く輝く百合の花を綺麗に咲かせて欲しいと思う。
けれど少しだけ。
センチメンタルな気分になった。
船場はそれを忘れるように。
息を勢いよく吐く。
「さて、」船場はエプロンを身に纏う。「料理を作ろう」
「少年、」ナオトが足元で言う。「一体何が始まるんだ?」
「だからパーティだ、ナオミコとヒロミを素敵な関係にするパーティだ」
言いながら船場は「むむむ」とシンクの上の蛍光灯に向かって念じる。
「ディスチャージ」と発声する。
すると。
わずかに船場の髪が紫色に包まれる。
そして。
明かりがつく。
「よし、出来た」
これが船場の魔法。「電磁開閉器」
「エレクトロマグネチック・スイッチ、」ナオトが素晴らしい発音で吠えた。「ただのスイッチ」




