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チョコレート・ムース・レシピ  作者: 枕木悠
第二章 ディスチャージ
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第二章⑥

中央高校を出た船場は錦景市第三駅ビルの錦景ロフトに向かうことにした。途中、ナオトに声をかけられた交差点で赤信号に捕まる。そのタイミングで船場はヒロミに電話をかけた。

「もしもし?」ヒロミはすぐに電話に出た。「兄貴? どうしたの? 電話なんて珍しいね、あ、昨日スキャナしてもらったやつ、ミスってたよ、全部逆だったよ、もぉ、どうしてくれんの?」

「ああ、ごめんな」

「今度直しに来てよね、いつでもいいから、それで何? 何の用?」

「今夜暇か?」

「え、今夜?」ヒロミは怪訝な声を出す。「……な、なぁに、どっかに行こうっての? 別にいいよ、夜は絵を描く予定だったけど、でもそれはいつでも出来ることだから、今夜は暇だって回答するよ」

「ウチ来る?」

「なんで?」

「パーティしようぜ、パジャマ・パーティ」

「はあ? パーティ? え、い、いきなり何言ってんの? G県錦景市の住宅街で、パーティ? パジャマ・パーティ?」

「うん、パジャマ・パーティだ」

「あ、アメリカのホームドラマじゃないんだから、」ヒロミの声は大きくなったり小さくなったりしている。「パジャマ・パーティって、つまり、……そのお泊まりってこと? お泊りに来いってこと?」

「うん、まあ、そうかな、そうなるな、お泊りだな、お泊りだ、お泊りというシチュエーションだ」

「行く」ヒロミは小さな声で言った。

「よし、決まりだ、今何時?」

「四時十五分」

「よし、じゃあ、七時に来い、料理を作っとくから、食べて来るんじゃないぞ」

「おばさんは?」

「おそらく明日まで帰って来ない、いや、今朝、出張って言っていたかな?」

「……へぇ、そうなんだ、そういうシチュエーションなんだ」

「うん、だから、夜更かしが出来る」

「あ、えっと、パジャマって、ドレスみたいなパジャマを着ていけばいいのかなぁ?」なぜかヒロミの声は高い。「それとも、そっちで着替えた方がいい?」

「うん、そうだな、今から新しいパジャマ買ってきてやるから、サイズはナオミコと一緒か?」

「ホントに? うん、一緒だよ、あ、でも、私の方がナオミコよりも若干大きいよ」

「サイズが?」

「ううん、なんでもない、なんでもない、……でも、嬉しいな、兄貴がパジャマをプレゼントしてくれるなんて」

「色は何色がいい?」

「黄色」

「昔から黄色が好きだな」

「うん、でも、何で急に?」

「昔はよくウチに泊まりに来てただろ?」

「そうだけど、でも、それは昔の話で、今は、その、急だよ、急過ぎるよ、兄貴は一体、何を企んでいるの? 何を企んでいるのか、全然分かんない、予測が立たないよ、全く」

「何かを企んでいないなんて言ったら嘘になる」

「つまり、何かを企んでいるんだね、」ヒロミの声は弾んでいた。「えー、何かなぁ、何かなぁ」

「うーん、まあ、とにかく、今は言えないんだが、とにかくヒロミには、なんていうかな、俺の企みに少し、うん、少しだけ驚くことになるかもしれない、もちろん、悪いことじゃないと思う、でも、いいことじゃないかもしれない、ヒロミ次第だよ、ヒロミは正直に反応してくれればいいんだ、何も考える必要はないよ、ただ、ヒロミは優しいから心配するのは違うと思うんだが、でも、もしいいことじゃなくても、今と変わらないでいて欲しいと思う、いいことだったら、思う存分変わって欲しい、……とにかく、うん、夜まで待ってくれ」

「……」電話の向こうの声がしばらくない。

「……ヒロミ?」

「ああ、うん、えっと、うん、大丈夫、多分、私優しいから、大丈夫、……えっと、その、うん、……大丈夫」

「そうか、ありがとう」

「じゃ、じゃあ、七時に」

「うん、じゃあな」

 電話を切る。

 信号が青だ。

 船場は自転車のペダルを踏む。



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