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わが家<1>

 成人式のために二年ぶりに戻ってきた地元は、なんだか不思議と新鮮な感じがした。十七年間、ずっとこの町で生活していたときの風景とは、どこか違う感じがしたのだ。何故だろう。人混みの新幹線の中を我慢してバスに乗り換え、しばらく車窓を眺めながら、そう思った。バスの行き先は、楓町。都心からは離れたひなびた郊外の町だ。蒸し暑いバスに揺られながら、車窓の向こうの景色は、流石に二年間ちょっとじゃ、変わらないようだった。全部が全部、二年前のままだ。けれどその風景は、かつての風景と比べてどこか違和感があった。二年間、たった二年間だが、東京で生活したせいだろうか、僕にはそれが遠い存在のものとして見えるのだ。何故だか町自身が意思をもって僕をふる里の人間ではなく、よそ者として迎えいれているように思えてきて、寂しくなった。

 高校生のころは、娯楽もなにもない、ひなびた、活気のないこの町が大嫌いだった。早く上京して、大学行って、サークルしてアルバイトして、東京の友だち作って彼女作って……。同級生といつかそんな話しをした覚えがある。でも実際はそう理想的に物事は進んでくれなかった。高校に感じた退屈は、大学でも同じように僕を襲った。退屈な授業を受けて、或いは時々さぼって。アルバイトでは怒られっぱなしで。サークルにも入ったけれど、サークル内の複雑な人物関係を知って以来、怖くてあまり顔を出していない。

 友だちは、まあ、作った。高校の時と同じように、下らないことで笑える友だちだ。けれど、高校のときの同級生とは、どこか冷めた感じがあった。楽しいことには楽しいけれど、時々、東京の友だちが見せる冷たさに、時々はっとさせられることがある。つまり、僕と君とは他人だと……。そう思わせるのだ。

 ただ、僕もそんな風になっているような気がする。最近、よくそう思う。東京の人間になってきている、ということなのだろうか。

 再び車窓の向こうに心を戻すと、バスがもう実家の近くに来ていることが判った。車窓からの光景に既視感があって、何だろうと思うと、思い出した。高校からの帰りでいつも見ていた車窓の風景だ。思い出して、ちょっと嬉しくなりながら僕は停車ボタンを押した。

「楓町三丁目ー」

 噴き出る汗を拭いながら、僕は立った。新幹線で立ちっなしだった足は、もう立つことを嫌がっていたが、それでも踏ん張って、一歩ずつ、バスを降りる。僕はかつて住んでいたふる里の地面へと踏み出した。久々に降り立ったふる里の地は、どこか懐かしくてけれど寂しくて、そして、遠い匂いをしていた。


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