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虹色万華鏡  作者: 民メイ
12/32

第二夜(四)

呉羽が自分たちの故郷を襲った犯人だと聞かされた風林児と氷雨。一方その頃、雷童と蓮華は……

虚像




 不思議な空が頭上に広がっていた。雲がまばらに浮いていて、大樹の背後にそびえる山陰に夕日が沈んでいくのが見える。寂寞とした緋色が、天からにじみ出るように空を染めあげていた。

「きれいな空やなぁ」

 蓮華が感嘆として言った。

「しっかし――見つからねぇな」

 雷童は大きなあくびをしながら、視線は相変わらず過ぎ行く人々の顔を見送っていた。

 なんとなく、そうしていないと気が紛れない感じがしたのだ。氷雨いわく『幻覚』なるものを見てから、どうしても意識がそっちの方へといってしまう。

 あれが本当にまぼろしだったのか。それに消えた少女はどこへ? そんな自問自答がぐるぐると頭を回る。

「ふっくんと、ひーちゃんは輝宮さん見つけられたんかなぁ。……雷ちゃん?」

「えっ――ああ、夕日はきれいだよな」

 急に顔をのぞきこんできた蓮華に、雷童は上ずった声で返事をした。

 蓮華は少し拗ねたような顔をしたが、

「違うねん。うちが言ってたのは――あの二人のことやったんだけど……でも、いいねん。空、ほんまにきれいやし」

 立ち止まり、ぼーっと空を見あげていた。

 大樹は夕日の逆光で、地上に黒い影を落としていた。

「……万華鏡みたいや」

「え?」

 ぼそりとつぶやかれた言葉に、雷童は反射的に訊いていた。

「うちのお母さんが言ってたんやけど……この世界はな、いろんな顔があるんやって。同じ景色に会うことって絶対ないし……それにな、見方によってたっくさんの色があるんや。だからこの世界は」

 蓮華は言葉を止めた。彼女の黒い髪が風でたなびいていく。

 雷童は続きを待った。

「万華鏡なんや――って」

 落ち着いた口調だった。

 蓮華はまだ空を見ていた。真似るように、雷童は顔を夕暮れへと向ける。

 はらはらと風に乗る大樹の落ち葉は、弧を描くようにして空と地上の間を泳いでいるようだった。くっきりとした濃淡の雲は、ゆっくりゆっくり動いていく。

 しばらくして、雷童はぐるりと周りを見渡した。

 すぐそばの店じまいをはじめた商店。少し離れた位置にある、いまからのれんを下げる酒屋。そして遠くにはぼや騒ぎを起こした門。

 そこまで目を動かして、雷童は門の辺りに人だかりができているのに気がついた。最後尾にいる人々は、前の方を見ようとして背を伸ばしたりしている。

「あれ……なんか門のとこ、人集まってる」

「え? あー、ほんまや。なにやっとんのかな」

 二人の足は、自然と門の方へと向いた。

 だんだんとざわめきの渦に近づいていく。

 門には昨日とは違う門番が立っていた。そして群がる人々を必死で押しとどめている。持っている長い棒を交差させて、人々がそれ以上進まないようにしているようだった。

「すっげぇ人だなー」

 雷童がひょいと背伸びすると、見たことのある烏帽子が目に入った。もう一度、人々の頭の隙間からのぞき見る。

「あ! たらこのおっさんがいる。またなんか騒いでんな」

「どないしたんやろ」

「こっからじゃよく見えねぇな。ちょっと前行ってみるか」

「うちも行く!」

 ハイ、と蓮華は手をあげた。

「はぐれんなよ」

「任しとき! うちこーゆーの慣れとるんや」

 そう言うなり、蓮華は人ごみをかき分けて進みはじめた。

 意気込んで言うだけあり、ずんずん迷うことなく歩みを重ねていく。ひょこひょこと人の合間から、蓮華の二つに結い上げられたお団子頭が目に入り、雷童はそのあとをついていった。

 群集を突っ切りながら、

「まったく、朱里に入れてあげるんだから、春山さまの言うとおりにすればいいのに」

「外のもんは野蛮で困る。我ら朱里の人間とは大違いだな」

 と、脇から朱里の人々の不満の声が聞こえてきた。

 そんな朱里の人々を、横目でにらみながら苦い顔をしている人々がいる。

 おそらく朱里出身ではないのだろう。

 彼らと朱里の人との差は一目瞭然だった。

 豪華な装飾品を身につけているのが朱里の人に違いない。そしてその横で、何度も袖を通したと思しきつぎはぎの服を着ているのが――それ以外の人。午後に出会った子どもたちを思い浮かべても、明らかに違っていた。

(嫌な国……)

 雷童は朱里の日常風景に理不尽さを覚えながら、蓮華を見失わないようにしていた。

「一番前に着いたで!」

 蓮華がくるっと振り向いた。

 門番たちの真っ赤な顔が見える。叫びすぎてのどががらがらで、一番大変な役周りだ。

 雷童は大きく息を吸うと、

「たらこのおっさぁーん!」

 だれかに大声で怒鳴り散らしている春山に向けて呼びかけた。

 すると春山が噛みつくように振り返った。

「――げっ! 眼帯小僧!」

 雷童の姿を認めるやいなや、春山は眉根をひそめた。

「おっさーん、なにやってんだよー」

「お、おまえらっ! そのガキをどっかに連れて行け!」

「はいっ!」 

 春山の命令を受けて、門番が雷童の腕をつかんだ。

 だが、雷童はへへへ、といたずらっぽく笑う。

「ふーん。おっさんたちも大変だねぇ。どうせこき使われてんだろ? あ、そうそう、たらこのおっさんに、どうしても頭があがらない人がいるって知ってる?」

「だーっ! やめろこの眼帯小僧!」

 春山はどすどすと雷童の方に近づいた。

「いいからそこで大人しく待ってろ!」

「ところでおっさん、なにやってんの?」

 フン、と春山は荒く息をついた。

「見りゃわかるだろ! 不法侵入しようとしてる怪しいやつを、とっつかまえようとしてるんだ! っとに明日は百年に一度の人形祭りだってのに、このくそ忙しいときにきやがって」

 春山は悪態をつき、おおげさに肩を鳴らした。

 雷童は門の入り口に目をやった。

 そこに深緑色の布を頭から被っている人が立っている。体格的に男だ。顔は見えない。

「で、おっさん、こんなとこにいていいの?」

「おまえが呼んだんだろうが!」

 四方八方につばを撒き散らしながら、再び春山は男の方に戻っていく。

「けっ、あんなに怒鳴らなくても」

「あの人――……」 

 雷童はふと蓮華を見た。

「ん? どうかしたのかよ?」

 蓮華は男をじっと見たまま、微動だにしない。雷童は腕をゆすった。

「なぁってば」

 ハッとしたように蓮華は雷童を見た。

「知ってる人なのか?」

 蓮華は首を横に振り、あはは、と軽く笑い飛ばした。

「知り合いに似とるなぁと思ったけど、別人やったわ。他人の空似ってあるんやねえ」

「ふぅん」

「行こ行こ。日暮れまで、あと少ししかないねんから」

 そう言うと、蓮華はぐいぐい雷童の背を押していく。 

 雷童がちらっと一瞬うしろを見ると、蓮華は春山と話している男をずっと見つめていた。

 背後では空の灯りが山の端に沈んでいった。 



 しばらく経って、雷童は違和感を覚えていた。

 さっきから、だれかに見られているようだ。毒針のような鋭い視線。それも複数。その無数の瞳は、まるで背中に張りついたようにどこまでも自分たちにつきまとっている。

 嫌な感じだ。追いはぎなのだろうか? それとも、他に別の目的があるのだろうか。

 雷童はうしろを歩く蓮華を見た。 

 蓮華はあれから、ずっと黙りこんでいた。ときどき、「あ」と短く声をあげたと思ったら、なにかを否定するように、首を横に振る――それを繰り返していた。

 この調子だと、蓮華は気づいていないだろう。でも、いつ目をつけられた? 

 雷童は朝から順に記憶をたどってみた。少なくとも昼過ぎまでは平気だった。少年たちの小競り合いに出くわしたときも大丈夫だったはずだ。

 雷童はハッと思いあたった。

 そうだ。門の前のときだ。あのとき緑色の布を被ったやつを見て、そこを離れてからだ。あの人ごみで、なにかをやらかした? 知らないうちに?

 雷童はぐるぐる考えをめぐらせながら、とにかくこのまま呉羽の家に行くことはできない、そう思った。

「蓮華、雨だ!」

「……へっ? ほんまに?」

 蓮華が空を見あげた瞬間、

(燃えろ……!)

 雷童はすばやく眼帯を取り去ると、そばにあった木のてっぺんをにらんだ。

 火の気のない場所から、煙が立ち昇る。

「おい、見ろ! 煙が出てるぞ! 早く水持ってくるんだ!」

「なんだって急に!」

「とにかく水を!」

 さざ波のように人々はどよめきだつ。

「雷ちゃん、ぼや騒ぎ――」

「蓮華、走れ!」

 雷童は蓮華の腕を引っぱると同時に、横目で人々を見た。人がぶれる。木を仰ぎ見る人々。その騒ぎ立てる人々とは別に動く影があった。

 複数だ。人の合間をぬうように、追いかけてくる。

「どうしたん! 雷ちゃんってば――」

 雷童は角を曲がると、そのまま茂みに身を隠した。

 そっと葉の隙間から、道の方をのぞき見る。 

 聞こえるのは何人ものばらついた足音。そして見えるのは腰の部分。紫の帯に短刀が忍ばせてある。

「ちっ。どこに行きやがった」

「まだそこらにいるかもしれねぇっすよ」

「そう遠くには行ってねえよな」

 息を切らしながら、ガラの悪い口調が交わされる。この会話からして、やはり追われていたことを雷童は確信した。

(なんなんだ? だれを狙って――)

 と、そこまで考えて雷童は思考を止めた。

 隣を見ると、かたかた震えている蓮華がいる。口元を押さえながら、いままで見たこともないほど青ざめた表情をしていた。

「いいか。手分けして探すんだ! あいつをとっつかまえりゃ話が早ぇんだからな!」

 その途端、蓮華はぎゅっと両耳をふさぎこんだ。

 雷童は眼帯をはずすと、紫の帯をじっと見た。

「おまえ……腰帯が」

 男たちのうちのだれかが、逃げ出しそうな声で言った。

「あ? 俺の腰帯がなんだって?」

「も、燃えてんだよ!」

 一瞬間が空いたあと、男たちの悲鳴が耳をつんざいた。

「水! 水のあるところってどこだ!」

「あっちじゃねえか!」

「それより、早く帯取っちまえよ!」

 わめきながら男たちは走り去って行く。

 雷童は周りに気配がなくなったのを感じ、茂みから立ち上がった。

 だれもいない。

 雷童は軽く息を吐き出すと、眼帯をはめた。

「……歩けるか?」

 蓮華はなにも答えず、静かに立ち上がる。

「遠回りになっちまったけど、呉羽のおばさんとこに帰らねぇとな。あいつら心配するし」

 雷童はそのまま歩き出した。

 日が落ちた街並みは、点々と店先の行灯に明かりがつき、夜の顔に様変わりしていた。客に声をかけ、店内に案内する着飾った女たち。すでに酔いが回り赤い顔をしている男たち。南天通りのにぎやかな食堂街を、雷童と蓮華は黙々と歩き続けていた。

 まるで二人の周囲だけ切り取られたように静けさが流れている。

 けれど、狙われているのにこんな大所帯を歩こうと決めたのは、雷童だ。こんな大勢が行き交うなかで、追っ手もなにか仕かけてはこないだろうと思ったからだ。その狙いが的中したのか、だれかにつけられてはいない。

 蓮華はずっとうつむいたまま、まるで足だけが動いているようだった。

 雷童が大きなあくびをしようとしたとき、

「……雷ちゃん、なんにも訊かないんやな」

 と、蓮華がぽつんとつぶやいた。

「なんにもって、訊かなきゃなんねぇことでもあったっけ?」

 すると蓮華は一度口をつぐみ、一層小さな声で言った。

「うちがさっきの人たちと、どういうつながりがあるのか――とか」

「んー。別に興味ねえし」

「せやけど、うちのせいで雷ちゃんに迷惑かけたんやで」

「そうかぁ? おまえだってあいつらの声聞くまで自分が追われてたってことに気づいてなかったんだろ? 仕方ねえよ、うん」

「けど――」

「蓮華は蓮華だろ」

 そのとき、ようやく蓮華は顔をあげた。

「俺たちと出会うまで、どんな人生送ってたか俺には到底わかんねぇし、そのことをおまえが言おうが言わないがそれはおまえの自由だし、俺が口を割らせたとこで、おまえの過去が変えられるわけでもないしよ」

 蓮華はぐっと口を固く結んだ。

「それにな、蓮華は蓮華だ。むかしの蓮華も、いま俺の目の前にいる蓮華も、同じ蓮華だろ? でも俺はいまここにいるおまえしか知らねえ。だから、ひとつだけ訊く」

 歩みを止めたまま、雷童と蓮華は互いの瞳の色を見ていた。

「おまえは、あいつらのとこに帰りたくないんだろ?」

 蓮華の顔からサッと血の気が引いていった。そして小刻みに肩を震わせると、ぼろぼろと大粒の涙を流しはじめた。

「げっ! な、泣い――」

「……や……嫌や……。うち、あそこには戻りたくない。やっと自由になったのに……」

 その途端、蓮華は堰を切ったようにわんわん泣いた。

 こういう状況に風林児がいたらどんなにいいだろう。雷童はおろおろしながら思った。きっと風林児なら、どういう風に接したらいいのか、慰め方を知っているはずだ。

 雷童は決まり悪くなって頭をかいた。通り過ぎざまに人々が見ていく。こんな道のど真ん中で泣いているのだ。雷童は見物人をにらみながら、どうしていいかわからず蓮華をただ突っ立って見ていた。

「……大丈夫か?」

 蓮華がようやく収まったのを見計らって、当たり障りなく訊いた。

 蓮華は小さくうなずく。

「これで顔拭けよ」

 ぐいっと蓮華に布切れを押しつけると、蓮華は涙でぐしょぐしょになった顔で雷童を見あげた。

「そっ、そんな顔であいつらのとこ戻ったら、俺が泣かしたって思われんだろ。それだけは絶対勘弁だからな」

 ぼそぼそと言いよどんでいると、蓮華はぽかんと布切れと雷童を交互に見た。

「そ、それじゃ行くぞ。あんまり遅いと置いてくからな」

 雷童は顔を背けながら言った。

 けれど雷童は口調とは裏腹に、のろのろと歩いていた。ときどきスンと鼻をすする音がうしろから聞こえてくる。

 ちらちらと瞬く淡くはかない光。夜空が迫ってくるようだった。

 雷童は星空を見あげながら、ぼんやりと考えごとをしていた。

 なぜだろう? 心がざわざわする。なにかよくないことが起こりそうな――嫌な予感。この感覚はあのときと同じだった。一年前の屋敷全焼事件。あの日、なにがあったのだろう。まただれか身近な人が死ぬのだろうか。

(それだけは……嫌だ……!)

 雷童はぎゅっと拳に力をこめた。

「あんな、雷ちゃん」

 急に蓮華が呼び止めた。その声はどこか深刻さを帯びていた。

「うちもひとつ訊いてええ?」

「いいけど?」

「雷ちゃんは、今回のことが解決したら故郷に帰るんやろ?」

「んー、いや。帰るつもりはねえよ」

「帰らへんの?」

 少し驚いたような声で蓮華が言う。

「そうさ。あそこは俺の居場所じゃねぇからな。それに兄貴に任せとけば大丈夫だし」

「……そう、なんか」

「それにな、これが片づいたら人探ししようかと思ってんだ」

「人探し?」

「そ! 俺の――親を、さ」

 蓮華は黙ったまま、なにも訊いてはこなかった。

「まぁ、探すってもな。全然あてとかないし、手がかりとかひとつもないけどよ。それでも、探したいんだ。それで、一目見て――そんでおわり」

「一緒に……暮らさへんの?」

「ああ。ただ会えればそれでいいんだ。あくまでも俺の父親は親父だから、親父以外の父親なんて考えらんねぇ。だから、姿さえわかればおしまいってわけ」

「……その親探しの旅についてってもええか?」

 雷童はそこではじめて蓮華の方を振り向いた。

 行灯がくるくる回る。

 蓮華は、明暗を繰り返している足元を、じっと見つめていた。

 その表情は、どこか自分と似ていると思った。必死に自分の居場所を求めているような、そんな横顔――。

 雷童はわざとらしく大きなため息をついた。

「しょうがねぇなぁ、連れてってやるよ」

「ほんまに!」

 蓮華はようやく笑った。

「よし。いま約束成立! あとでやめたって言っても無理だからな」

「あったり前や! 約束な!」

 二人は呉羽の家へと足を速めた。

 もう約束の時間はとうに過ぎている。

 雷童は風林児と氷雨のしかめっ面を思い描きながら、ふっと空を見た。

 流れ星が大樹の陰に吸いこまれていく。

(兄貴、どこにいるんだろう……)

 そのとき、一筋の星が流れていった。 



「……くそ……てめぇなんなんだ」

 紫色の腰帯を焦がした男が、よろめきながら立ち上がる。腹部を押さえて、片手をだらん、と垂らしたまま屋根の上をにらみつけていた。男の足元には、彼の仲間なのだろう、数人の男たちが、ぴくりとも動かずに倒れていた。

「おい! 答えろってんだよ!」

 男は屋根に向かって、短刀を投げつけた。

 その瞬間、ふわり、となにかが落ちた。

「なんだあ? ……布? てめぇ、どこいきやがった! 逃げるんじゃ――」

「逃げてないさ」

 突然、布から人影が現れた。

 バサリと緑色の布がはためく。

 ちょうど月明かりに照らされて浮かびあがったのは、まるで月と同じ色の金の髪。

「なっ――てめ……いつの間に!」

 男が身構えようとした瞬間、その体にしびれが走った。

「てめぇ……いったい」

 すると金髪の男が、口元を緩ませた。

「ちょうどいいや。俺もおまえらに訊きたいこと、あるからね」

「なんだと――」

 反論しようとした瞬間、男の顔がこわばった。

 金髪の男が持つ雰囲気が、即座に変わったからだ。

「おまえら、なんでまだあの子を追ってるんだ?」

 すると男は卑屈な笑みをもらした。

「へっ……俺たちが追ってるのは、あいつじゃねぇぞ」

「違うのか?」 

「さぁーてね。んなこたぁ、てめぇにゃどうでもいい話だろ」

「確かにな」

 すると金髪の男は、なにかを口ずさんだ。

 その瞬間、破裂音が辺りに響き渡る。 

 男の口の端から泡をこぼしながら、仲間の上にどさり、となだれ落ちた。

「とりあえず、呉羽さまに知らせるか……」

 金髪の男が、ばさりと緑色の布を翻した途端、その姿はどこかへかき消された。

 ひゅう、と小さな風が渦を巻いた。大樹の落ち葉がかさかさ動く。

 ようやく夜半の静けさが訪れようとしていた。


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