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振り向けばデュラハン  作者: 沙φ亜竜
2.切断
9/39

-2-

「んじゃ、気をつけて帰ってね、ふたりとも!」


 それが普段どおりの行動であるかのように自然と挨拶を残し、みゃーは自分の家へと入っていった。

 ぼくの家は、みゃーの家からほんの少しだけ歩いた先。幼馴染みではあるけど、家が隣同士というわけではない。

 ご近所づき合いが結構多かったから、同い年ということで仲よくなった、といった感じだろうか。


 さて……。

 ぼくはちらりと、でゅらちゃんに視線を送る。


 ――キミは、どうするの?

 そんな質問の意味を込めて。


 でゅらちゃんは、それに応えるように歩き出す。

 そしてそのまま、すぐ目の前にまで迫っていたぼくの家の門を抜け、まっすぐ玄関へと向かっていった。


「って、でゅらちゃん! さすがに、その、マズいでしょ!?」


 いろいろな意味で。

 だいたい、お父さんもお母さんも、びっくりしちゃうよ!

 言葉を遮るように、でゅらちゃんはぼくの目の前に手のひらをかざす。


「大丈夫。なにも問題はないでござる」


 いやいやいや、問題大ありでしょ!?

 ツッコミを入れるよりも早く、でゅらちゃんは勝手に玄関のドアを開けてしまった。


「維摘、お帰りなさい。遅かったわね。……あら? その子は……?」

「え~っと、その……」


 慌ててぼくも玄関に入り、靴を脱いでいるあいだに、お母さんがすかさず顔を出してきた。

 気づかれる前に自分の部屋まで連れ込めば平気かも、なんて考えは、もろくも崩れ去ってしまった。

 ぼくはしどろもどろになりながら、どう言い繕おうかと思案する。

 でも、そんな心配は無用だったようだ。


「拙者は、でゅらと申しやす。よろしくお願い申し上げるでござる」


 でゅらちゃんはぺこりと首だけでお辞儀をする。


「あらあら、お友達? こんな時間に女の子のお友達なんて、やるわね、この子ったら。……ふふ、冗談よ。でゅらちゃん、ゆっくりしていってね!」

「かたじけないでござる」


 お母さんは拍子抜けするほどなんの疑いもなく、でゅらちゃんの存在を受け入れていた。


「もうすぐ夕ご飯だけど、食べてく?」

「拙者には、食事は不要でござる」

「あら、そう?」

「ただ、しばらくご厄介になりますゆえ、その旨、ご了承願いたいでござる」

「あらあら、そうなのね。わかったわ。なにか必要な物とかあったら、遠慮なく言ってね」

「かたじけないでござる」


 二度目となるその言葉を放つでゅらちゃん。

 そんな彼女を温かく迎え入れ、お母さんは台所へと戻っていく。


「維摘、すぐに夕ご飯だから、でゅらちゃんを部屋に案内したら下りてきなさいね」


 ぼくに向けて、そう言い残しながら……。



 ☆☆☆☆☆



 一瞬、固まっていた。

 え~っと、どういうこと……?

 状況がいまいち理解できていないぼくに、でゅらちゃんが説明を加えてくれる。


「つまり拙者が、維摘の部屋に居候する、という感じでござろうか?」

「なるほど……って、そんなのダメでしょ!?」


 思わず声を荒げる。


「なにゆえ?」


 首をかしげるでゅらちゃん。

 どうしてって、仮にも女の子なんだし……。

 だけど、行くところがないからこそ、こうして今ここにいるんだろうと考えると、家から放り出すってわけにもいかず……。


「う~~~ん……。ま、まぁ、いいけど……」


 ぼくには結局、弱々しい諦めの言葉をしぼり出すことしかできなかった。



 ☆☆☆☆☆



 夕飯を食べ終え、お風呂も済ませたぼくは、自分の部屋に戻ってきた。


「お帰りなさいませでござる」


 部屋のドアを開けると、いつの間にやらパジャマに着替えたでゅらちゃんが、座って三つ指をついて出迎えてくれた。


「ふつつか者なれど、よろしくお願い申し上げまする」

「こらこら!」


 真っ赤になりながら、ぼくは部屋に入る。

 着替えなんて用意していなかったはずだけど、学校を出たら靴を履き替えていたというのもあったし、でゅらちゃんには服や靴を実体化する能力でもあるのだろう。


 それにしても、夜も更けたこんな時間に女の子とふたりきりだなんて……。

 ぼくはどうしていいかわからなかった。

 それに、別の問題もある。


「でゅらちゃんさ、ほんとにこの部屋で寝るの? ベッドはひとつしかないんだよ?」

「一緒に寝ればいいと思うでござるが……」

「いや、それは……」


 平然としたでゅらちゃんの答えに、こっちのほうが焦ってしまう。


 デュラハンのように、首から上がない女の子。

 バケモノ、なんて言ったら気を悪くするだろうけど。

 顔がないのと妙な喋り方なのは置いておくとしても、ゆったりしたパジャマの上からでも胸の大きさは感じられるし、なんだかとってもいい匂いまでするし……。


 反応を見て、ぼくが嫌がっていると思ったのだろう、でゅらちゃんは、


「ならば、いいでござる。拙者は押入れで寝るでござるよ。それが居候のデフォルトと記憶しておりますゆえ」


 と、のたまう。


「やっぱり、デュラ衛門……」


 ぼくは再び、思わずつぶやいていた。


 そこで気づく。押入れの中には、夏用と冬用のかけ布団が入っているはずだと。

 その布団を引っ張り出して使えばいいじゃないか。


 ぼくがそう提案しようとするよりも早く、でゅらちゃんはすでに押入れの布団のあいだに滑り込み、そしてふすまをピシャリと閉めていた。

 ……と思ったら少しだけふすまが開き、その隙間から、


「決して中をのぞいてはなりませぬ……」


 と言い残して、今度こそ完全にふすまは閉じられた。


 ……それは別のお話だ。


 ツッコミの言葉を、ぼくは胸のうちにしまって、ベッドに潜り込んだ。


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