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太陽は次第に傾き、周囲の景色がオレンジ色に染まっていく。
そろそろ下校時刻。
スピーカーからドヴォルザークの「新世界より」第二楽章が流れ始める。
それとも、「遠き山に日は落ちて」と言ったほうが馴染み深いだろうか。
「んん~~~、疲れたぁ~~~! 勉強すると、肩凝るよね~!」
みゃーが、両手のひらを組み合わせて伸びをし、首を左右に傾けてコキコキと音を鳴らしている。
なんというか、どっかのオッサンか? と思ってしまうようなヤツだ。もちろん言葉には出さないけど。
「オレは暑さでとろけたけどな~」
「いいな、とろけるくらいなら肩が凝ったりしないんだよね? その肩ちょうだい!」
「無茶言うな!」
気づけば、みゃーと閃太郎のあいだで、なにやら絶妙な漫才が展開されていた。
相変わらずのおバカコンビっぷりだ。
「ふふ、維摘くんと実弥ちゃんのコンビのほうが、ずっと高レベルのおバカっぷりよ?」
「うわおっ!?」
反射的におバカっぽい声を上げてしまう。
ぼくとみゃーが高レベルのおバカコンビだと言われたことよりも、考えていた内容を読まれたかのような月見里さんの発言にこそ驚いたのだけど。
目を丸くして見つめるぼくに、
「ん? どうしたの? そんなに見つめられたら、恥ずかしいわ。ポッ」
なんて茶化すように言う月見里さん。ぼくはちょっと、この人が怖くなってきた。
……いや、まぁ、今に始まったことではないか。
と、それはともかく。
「茶番はこれくらいにして、帰りましょうか」
月見里さんはきっぱりとそう言いきる。
さっきのは茶番ですか……。
文句のひとつも返したいところだけど、月見里さんに対する反撃=死だ。ここは抑えておく。
そんなことをやっているあいだにも、下校時間は刻々と近づいてくる。
ぼくたちは素早く帰り支度をして図書室をあとにした。
☆☆☆☆☆
日が傾いたことで、校舎の外では暑さも徐々に和らいできていた。
今日は確かに暑かったけど、それでもまだ四月だし、この先も涼しい日はあるんだろうな。梅雨だって控えているわけだし。
季節の変わり目は体調管理が大変だよね。もっとも、ぼくは丈夫だから、風邪なんてひかないけど。
……なんて言ったら、みゃーに「バカだからでしょ!」とか言われそうだ。
カバンを肩にかけ直し、ふと視線を上げてみると、すでにみんなは正門のところまで行っていた。
ぼーっとしすぎだったかもしれない。
「いーちゃん、なにやってんの~? 早く来なよ~!」
みゃーがピョンピョン飛び跳ねながら手招きしている。みんなのところに駆け出そうとして、ぼくはふと気づいた。
なんか、カバンが軽いな……。
確認してみると、案の定。図書室で使った数学の教科書とノートは入っているけど、それ以外の教科書とノートがまったく入っていなかった。
みゃーに知られたら、なんたるドジ! 最悪のバカ! 間抜け! 死ね! とか言われてしまうだろう。
どうでもいいけどみゃーって、死ね死ね言いすぎだと思う。
と、そんなことはホントにどうでもいい。
「ゴメン! ぼく、忘れ物しちゃった。みんな、先に帰ってて!」
ぼくは正門前にいる三人にそれだけ言い残すと、辺りが薄暗くなり始めている中、校舎へと舞い戻っていった。