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薄暗いオカルト研究会の部室。
分厚いカーテンで窓からの光が遮られた、薄暗い部屋。
電気は点いていない。
ただろうそくの炎だけが、呆然としているぼくたちの顔を照らし出す。
る菜先輩によって怪しい儀式をさせられ、過去に飛んでしまった、あのときのままの状態だ。
「……あれ……? 夢……見てたのかな……?」
身を起こしながら、みゃーがつぶやいた。
その言葉で悟ってしまう。夢なんかじゃない、ということを。
みんながみんな、同じ夢を見るはずはない。
儀式による集団催眠効果で同じ夢を見てしまった、という可能性もないとは言いきれないけど、そうではないことを、る菜先輩が断言する。
「いや、違うな。わたしたちは確実に過去へと飛んでいた。そして今、戻ってきたのだ」
そんなバカな。なんて否定することは、ぼくにはできなかった。
屋上へ続く階段の踊り場で、門倉さんを押さえつけたときの感触――、
立てかけてあったガラスを持ち上げ、体育館の渡り廊下の脇へと運んだときの重さ――、
渡り廊下の天井にいた門倉さんに、危険を呼びかけたときの窓枠の冷たさ――、
すべてこの手のひらが、しっかりと覚えている。
あれが夢であるはずはないと、語りかけている。
他のみんなも同じ気持ちなのだろう。全員が全員、黙ってうつむいていた。
誰も言葉を発しない。ただろうそくの燃える音だけが、微かに響いていた。
なにも、言えなかった。
ぼくたちが余計なことをしたせいで、門倉さんはケガをしてしまった……。
そう考えているからだ。
でも、る菜先輩だけは違っていた。先輩はぼくたちの考えを察して、優しく諭す。
「助けたと、考えるべきだろう。もともとは屋上から落下するところだったのを、わたしたちが救ったのだ」
「だけど……! 屋上に行くようになったのだって、ぼくたちのタイムスリップのせいだったんじゃ!?」
先輩が気を利かせてくれているのはわかっていたけど、どうしてもぼくは反論する気持ちを抑えられなかった。
ガラスを移動させたのは、他の誰でもない、このぼくだからだ。
ぼくがガラスをあの場所に置かなければ、少なくとも首を切る大ケガを負う事態にまではならなかった。
そんなぼくを、黒いローブに身を包んだ怪しい先輩は、そっと抱きしめる。
「それ自体が間違いだった。過去に飛んだところで、過去を変えることはできない。変えてしまえたら、タイムパラドックスが発生するのは自明の理だからな。どんなに頑張っても、運命には抗えないものなのだろう」
わたしの不用意な発言で混乱させてしまって、すまなかったな。
る菜先輩はぼくの耳もとでささやいた。
「ん~。だったら、オレたちがなにもしなくても、結局は屋上になんか行かなかったってことにならない?」
閃太郎が、いまいち空気を読まない軽い口調でツッコミを入れてくる。
「いや、わたしたちが真紀からカギを奪い、屋上へ出るのを諦めさせ、さらには彼女たちが体育館への渡り廊下へと出て、門倉唯が転落して首を切ってしまう、そこまで含めてすべてが、定められた運命だったと考えられる」
る菜先輩の答えに、首をかしげるばかりの閃太郎。
実際のところ、ぼくも納得できてはいなかった。
「あ……」
不意に、月見里さんが声を上げる。
「どうしたの?」
「見て、でゅらちゃん……」
月見里さんの指差す先には、でゅらちゃんの顔が……なかった。
「過去に行ってるあいだは、顔があったのに……」
「そうだね。可愛かったのに、残念」
ゲシッ!
口を挟んだ閃太郎は、月見里さんからの容赦ない蹴りをお尻に食らっていた。
「あっ、これってさ、門倉さんが首を切ってしまう事故に遭ったから、でゅらちゃんの首も消えてしまったってことじゃない?」
みゃーがポンと手を打って、思いついた意見を口走る。それはさすがに短絡的すぎる気がする。
自信満々だったのに、みんなから懐疑的な視線を受けてしまい、みゃーは不満顔。
とはいえ――。
「ちょっと気が引けるけど……、他に手がかりがあるわけでもないし、門倉さんのところにもう一度行ってみようか? もしかしたら門倉さんって、でゅらちゃんとなにか関係がある人なのかもしれない」
「そうね。運命かどうかはわからないけど、あたしたちのせいでケガをしてしまったのは確かだから、謝罪したい気分でもあるし」
ぼくの意見に、月見里さんも同意してくれる。
「でもさ、どうやって謝る気? 過去に飛んでカギを奪ったせいでケガをさせてしまったなんて、さすがに信じないでしょ?」
すかさず閃太郎がツッコミを入れてきたけど、
「誠意があれば、皆まで言わなくても通じるわ。余計なこと言ってないで黙りなさい」
おそらく根拠のない月見里さんの言葉によって一蹴されていた。
言葉での一蹴だけでなく、本日二度目のお尻への蹴りを、実際に受けていたけど……。
「うう、なんかひどい……。(でも、これはこれで……)」
……ま、閃太郎の趣味嗜好に関してとやかく言う必要もあるまい。
ともかくぼくたちはみんな、門倉さんのアパートに行こうという考えで一致していた。
「ならば、わたしも行こう。ここまで関わったのだ。最後までつき合ってやるさ」
ぼくたちの話を黙って聞いていたる菜先輩は、そう言い放った。
ニヤリ……。
先輩の顔に浮かべられた含み笑いが、ちょっと怖くもあったけど……。
かくして、る菜先輩も同行することになった。
儀式で使ったろうそくの炎だけ消し、足早に学校を出たぼくたちは一路、門倉さんのアパートを目指した。




