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「あいつら、なんだったんだろうな?」
「う~ん、わからない……」
「どうして屋上のカギなんて、盗んでいったんだろうね?」
「さあ……。使用申請を出してた生徒で、わたしが持ってるのを知って持っていこうとした?」
「それなら、ちゃんと理由を説明してカギを渡してもらうのが普通じゃない?」
「もしかしたら、神様が諦めろって言ってるのかも……」
門倉さんたち三人は、廊下に座り込んだまま、そんなことを話していた。
二階の廊下、というのが気にかかるところだけど、普通に考えたら窓から落ちるとは考えにくい。
もしも窓に身を乗り出すようなことがあったら、すぐ止めに入ろう。それくらいの心持ちで、ぼくたちは黙って門倉さんたちの会話を聞いていた。
しばらく走って逃げていたからか、廊下を通る生徒の姿はほとんどなくなっていた。多くの生徒が、すでに下校したり部活へ向かったりしたあとなのだろう。
ぼくたちは階段前の壁に身を潜めながら、座り込んだ三人の声に耳を傾ける。
少し離れた場所に隠れているから聞き取りづらくはあったけど、耳を澄ませば大まかな会話の内容くらいは把握できた。
「それにしてもさ、カギを盗まれちゃったのって、ヤバくないかな?」
「そうだよね。真紀が勝手に持ってきちゃったんでしょ?」
「う~ん、ま、諦めよう。カギは、しらばっくれておけば大丈夫だろ」
「うわ~、悪人!」
「ふたりも共犯ってことになるけどな」
「ひぃ~」
どうやら、ぼくたちを追いかけるのは完全に諦めてくれたようだ。
改めてホッと胸を撫で下ろす。
「……維摘くん、あまり身を乗り出してのぞいてると、見つかっちゃうわよ?」
「あ……そうだね」
月見里さんからの叱責を受け、ぼくは身を引く。
「とりあえず、作戦成功おめでとう、ってとこかな?」
「作戦ってほどでもなかったけどね」
閃太郎の言葉に、ぼくも控えめながら同意を示す。他のメンバーも微かな笑顔を浮かべていた。
門倉さんたちが屋上に行くことは阻止できたけど、これでよかったのだろうか?
不意に不安が胸の中で渦巻き、ぼくは再び廊下の様子を確認する。
「あ……あれ? いない……?」
ぼくの声に、みんなも身を乗り出して廊下に目を向ける。
そこにはもう、三人の姿はなかった。
「帰った……のかな?」
みゃーの声に、る菜先輩がかぶりを振る。
「違うな……窓が開いている」
「えっ!?」
慌てて手近な窓に駆け寄る。
もしかして、三人とも窓から落ちた!?
だけど、転落するのは門倉さんだけのはずじゃ……。
これもぼくたちがタイムスリップした影響なの!?
最悪の想像は、すぐに間違いだったとわかる。
門倉さんたち三人の姿は、窓の外に見つけることができた。
「……そっか、渡り廊下の天井に……」
どうしてそんな場所にいるのかはわからないけど、三人は体育館へと続く渡り廊下の天井の上を歩いていた。
ちょっとした遊び心だったのかもしれない。
しばらくすると、三人はその天井の上にしゃがみ込んだ。なにをしているのか、ここからではわからないけど。
でも……。
「あっ……、あれ!」
みゃーは気づいた。いや、ぼくも気づいていた。
渡り廊下の壁に立てかけてあったガラスが、倒れてしまっていることに。
重ねてあったガラスのうち数枚が倒れ、残りも倒れそうな不安定な状態に見えた。
そしてその場所は、門倉さんたちが立っている場所の、すぐ真下……。
「危ないよ!」
ぼくは窓を開けて叫ぶ。
「門倉さんたち! 危険だから、早く戻って~!」
みゃーもぼくの横に身を乗り出し、必死に呼びかける。
ともあれ、ここからではかろうじて声は届くだけで、内容までは伝わってくれないらしい。
真紀さんと智子さんが振り向き、立ち上がりはしたものの、その場で首をかしげている。
同じように門倉さんも立ち上がり、そして――、
「あ……」
彼女はバランスを崩し――、
とっさに真紀さんと智子さんが手を差し伸べる……けど、空を切るのみで。
門倉さんはそのまま、地面へと向かって落下してしまう。
スローモーションのように長い時間だった。そう感じられたけど、実際には一瞬だっただろう。
舞い落ちた門倉さんの体は、地面に衝突する。
大きな破砕音を響かせて、落下地点にあったガラスが四方八方に飛び散った。
その衝撃のせいか、倒れていなかったガラスも門倉さんの上へと倒れかかり、さらなる被害を上乗せする。
ぼくたちは少しでも近づこうと、門倉さんたちが渡り廊下へと出た窓まで慌てて駆けつける。
門倉さんの友人ふたりは、ようやく事態を把握したらしく、渡り廊下の天井から身を乗り出す格好で、落下した門倉さんに呼びかけていた。
「唯! 大丈夫!?」
門倉さんは答えない。
微かに身をよじるのは見えたけど、それよりも鮮明に網膜へと映り込んできたのは、赤い液体で……。
「あう、すごい血……! 首が切れてるみたい!」
「だ、誰か~~~~! 唯が、唯が~~~~!」
智子さんと真紀さんの悲痛な叫び声が響く中、成すすべもなく立ち尽くしていたぼくたちは、いつしか光に包まれていた。
「えっ……!?」
そのまま辺りの視界は急激にぼやけていく。
視覚を奪うほどの激しい光とともに、自分たちのせいで事故が起こってしまったのだという罪悪感にも包まれ……やがて気づいたときには、ぼくたち六人はオカルト研究会の部室に横たわっていた。




