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振り向けばデュラハン  作者: 沙φ亜竜
5.過去
31/39

-5-

 真紀さんからカギを奪う作戦がどうなったのかというと。


 結論。力ずく。

 う~ん……。

 作戦じゃないよね、とツッコミたくなるけど。


 ぼくとみゃーがガラスを移動させているあいだに、いくつかの案は出たらしい。


 例えば、あなたのポケットに今、なにか虫が入っていきましたよ! と言って近づき、中身を全部出して確かめないと! と誘導してカギを出したところで奪って逃げるとか。


 例えば、バケツに水を入れてそれを真紀さんにかける。大変、乾かしましょう! と言ってトイレに連れ込み、ドライヤーで乾かすからと促してスカートを脱いでもらう、とか。


 例えば、あなたを好きな人がいるの、と言って体育館裏に連れていき、そこであなたを好きなのは実はわたしなの、とベタベタくっついて、スカートのポケットからカギを抜き取る、とか。


 どれもこれも、途中で怪しまれる可能性が高そうで、上手くいくようには思えなかった。

 しかも、一度失敗した時点で警戒されてしまうだろうし、二度目はない。

 というわけで、ならばいっそ力ずくで、と相成った。


 もちろん問題は多々ある。

 当然ながら失敗したら二度目はない上に、変質者かなにかだと思われて取り押さえられれば、警察沙汰にまでなってしまう危険性もはらんでいる。

 そこまで行かなかったとしても、真紀さんは友人ふたりと一緒に行動しているはずだから、人数の上ではこちらが勝っているとはいえ、実行するのはかなり難しいと思われた。


 力ずくではあるけど、一応作戦は用意しておく。


 普通、突然目の前に人が現れたら驚いて立ち止まるに違いない。

 だからまず、真紀さんたちの目の前に月見里さんが立ちはだかる。


 ここはひとりだけでだ。大勢だとすぐに身構えられてしまうかもしれない。

 あまり威圧感を与えないため、月見里さんがその役に抜擢された。

 彼女はぱっと見だけなら、とっても穏やかな印象を与える容姿をしているからだ。


 その後、月見里さんに視線を向けて立ち尽くすであろう三人の背後から、る菜先輩、みゃー、でゅらちゃんがそれぞれ真紀さん、門倉さん、智子さんに飛びかかり、羽交い絞めにしてそのまま後ろ側に倒し、押さえつける。

 このとき、声を出されたら困るので、ハンカチを使って口を塞ぐことにする。


 抵抗されるだろうから、ぼくと閃太郎はそれぞれ、門倉さんと智子さんを押さえつけるサポートに回る。

 メインターゲットの真紀さんには、すかさず月見里さんが覆いかぶさる予定だから、サポートに回ると邪魔になる可能性が高い。

 そのため、る菜先輩にはひとりで押さえつけてもらう必要があった。

 でも、「任せておけ」と、る菜先輩は自身満々だったし、それはきっと大丈夫だろう。


 真紀さんに覆いかぶさったあと、月見里さんはそのままスカートのポケットに手を突っ込み、屋上のカギを盗み出す。

 目標を確保したら、素早く散開。

 無事逃げおおせればミッションコンプリート、というわけだ。


 いろいろと穴だらけの作戦だとは思うけど、そろそろ放課後も近い。

 ここはもう、この作戦で強行するしかなかった。


 授業はとっくに終わり、今は掃除の時間。門倉さんたち三人は出てこなかったから、教室掃除の担当なのだろう。

 このあと帰りのホームルームがあって、今日は解散となる。

 部活に向かう生徒、下校する生徒、しばらく教室でだべっている生徒など、それぞれだろうけど、門倉さんたちはさっき話していたとおり、屋上へと向かうはずだ。


 その途中を狙う。


 ただ問題なのは、他の生徒たちに見られると困る、という点だ。

 廊下で作戦を実行すれば、他の生徒たちに見られて、確実にぼくたちが取り押さえられてしまうだろう。

 とすると、ちょっと危険ではあるけど、場所は屋上へと続く階段しかなかった。


 そしていよいよ、作戦は決行された。



 ☆☆☆☆☆



 ぼくたちは見つからないようにこっそりと門倉さんたち三人のあとを追った。

 門倉さんたちは三階から四階へと上がり、そこからまだ上を目指す。


 中間地点の踊り場を折り返し、さらに上っていこうとしたところで、屋上に出るドアの前に待機していた月見里さんが飛び出した。

 案の定、呆然とした顔で立ち止まる門倉さんたち。

 階段を見上げて固まっているその三人に、る菜先輩、みゃー、でゅらちゃんが背後から飛びかかる。


「え? なに?」

「きゃ……むぐっ!」


 三人とも、ハンカチで相手の口を塞ぐことに成功。

 暴れてはいたけど、ぼくと閃太郎も手伝って、どうにか押さえつける。

 ジャラ……。

 軽めの金属音が鳴り、


「確保!」


 続けて月見里さんの声が響く。

 カギをポケットから盗み出すことに成功したようだ。


「よし、撤収~!」


 ぼくたちは倒れたままの三人を残し、素早く階段を駆け下りる。

 なにが起こったのか、おそらくよく理解できてはいないだろうけど、三人もすぐに立ち上がり、真紀さんを筆頭にぼくたちを追いかけてきた。


「待て~!」


 と制止の声は上げるものの、それ以上のことは言わない。

 廊下を逃げるぼくたちを、すれ違う生徒たちが何事かと振り返る。

 変質者~! とか、ドロボー~! とか叫ばれたら、取り押さえにかかる人もいたかもしれないけど、そうならなかったのは助かった。

 カギを勝手に持ち出したことを知られるのはマズい、と考えているからかもしれない。


 廊下を通り抜けたら、また階段を使って別の階へ。

 しばらくのあいだ廊下と階段を適当に渡り継ぎ、気づけばかなりの距離を稼ぐことができていた。

 やがて、ぼくたちが何度目かの廊下を通り抜け終えた辺りで、


「わ……わたし、もう、ダメ……はぁ、はぁ」

「うん、わたしも~……ふぅ、ふぅ」

「はぁ、はぁ、うん、そうだな……」


 苦しそうな三人の声が微かに聞こえてきた。

 ぼくたちは、逃げきったのだ!


 曲がり角からチラリと顔を出し、門倉さんたち三人が廊下にへたり込んでいるのを確認すると、ぼくたちは全員、声もなくガッツポーズを取った。


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