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「ふぅ~……。結局、でゅらちゃんの手がかりは得られなかったわね」
月見里さんがため息をつき、残念そうな表情を見せる。
「諦めるの?」
「そんなわけないじゃない。なに言ってるの? あんたバカ? 間が抜けてるのは顔だけじゃないのね。ふざけたこと言ってると、アゴ外すわよ?」
なにげなく放った閃太郎の言葉に、なにもそこまで言わなくても、と思うほどの罵声が返ってくる。
さすが月見里さん。百倍返しの精神は健在のようだ。
ともかく彼女は、諦める気なんてさらさらないということか。
「う~ん、でも、諦めないとして、どうするつもり?」
ぼくは訊いてみる。
閃太郎みたいに、あんたバカ? 少しは自分で考えなさいよ。普段から使ってないんだし。もう脳細胞半分以上死んでるんじゃないの? くらいは言われる覚悟だったけど。
月見里さんからは、そういった罵倒まじりの攻撃的な言葉は返ってこなかった。
ちなみに脳細胞って、実際に使われるのは全体の一割にも満たないらしいから、たとえ半分死んでても大丈夫……って、そんなわけはないか。
「そうね……。もう一度学校新聞を調べるってのでもいいかもしれないけど、それよりは別のアプローチを試してみるべきかしらね」
右手の人差し指をアゴの辺りに添えながら、月見里さんはぼくの質問にそう答えた。
「別のアプローチ? あっ、今度は五本松を脅して、もっと有用な情報を吐かせるっていうのね!?」
すかさずパンと手を叩いて、みゃーがとっても物騒なことを口走る。
いやいやいや、それはマズいでしょ!?
だいたい、すでに五本松先生には一度聞いてるんだから、別の情報なんて得られるわけないんじゃない!?
あと、五本松って呼び捨てにするのは、先生に対して失礼でしょ!?
ツッコミどころ満載のみゃーではあったものの、ぼくは放置しておく。
すでに月見里さんがみゃーの言葉に返事をしようとしていたからだ。
月見里さんの喋りを邪魔するなんてこと、恐ろしくてできるはずがない。まだ死にたくないし。
ギロリッ!
一瞬、月見里さんの瞳がぼくのほうを見て光ったような気がしたけど、気のせいだと思いたい。
「実弥ちゃん、違うわよ。もっと別のアプローチ。あの人を訪ねてみるってこと」
そう言って月見里さんは、ふふっ、と笑う。
なんだか意地悪な企みを心の奥に秘めているような、そんな微笑みに見えたのは、これもやっぱり気のせい……?
ただ、どういうわけか今の言葉を聞いて、閃太郎が一瞬びくっと体を震わせていた。
「あ……あの人って、やっぱり、あの人……?」
おずおずと、というか、おそるおそる、というか、ともかく閃太郎はおどおどと挙動不審な様子で問う。
「そうよ。あの人……オカルト研究会会長、星岡る菜さんよ!」
ザッパーーーーーーン!
背後に荒波を背負ったような勢いで、月見里さんが叫ぶ。
「へ~、うちの学校にオカ研なんてあったんだ」
「ええ。ま、非公認だけどね」
みゃーがぼくも思っていた疑問を尋ねてくれて、謎は解けた。
非公認のオカルト研究会。
楓坂学園では、部員が五人以上いないと部活として認められない。
部活として認められれば、金額がどうとかはともかく、部費が与えられる。ただし五人未満だと、同好会やら研究会やらという扱いになる。
とはいえその場合でも、学園側に認めてもらえれば、学園紹介資料などの部活・同好会一覧に掲載してもらえる。
非公認ということは、そうやって学園側から認められてもいない、すなわち、勝手にやっている集まりでしかない、ということだ。
納得。それじゃあ、知ってるはずないよね。
「しかも、メンバーは会長本人のひとりだけだし」
それってすでに、会ですらない!
なんてツッコミを入れることすら忘れ、呆然としてしまう。
そんなぼくとは対照的に、大声を張り上げて月見里さんに突っかかっているのが、なぜか閃太郎だった。
「だだだだだけどさ! あ……あの人は、自己流のオカルトマニアだから、でゅらちゃんの手がかりなんて、得られるはずが……」
「ふふ、怖いの?」
「なななななななんのことさ!? オオオオオオレには、まったく、わわわわからないな!」
どうやら閃太郎は、星岡る菜さんとやらが心底怖いらしい。
「というか、ふたりともその人と知り合いなのね? 怖い人なの?」
再びみゃーが、ぼくも思っていた疑問を口にしてくれる。
対する月見里さんの答えは、思ってもいなかったものだった。
「いいえ、とっても優しくて神秘的で、憧れのお姉様なのよ」
「お……お姉様……?」
無意識にオウム返ししてしまうぼく。
だって、月見里さんはひとりっ子のはずだし、そもそも名字だって違うのだから。
「そう。お姉様。ひとりっ子であるあたしにとって、心のお姉様なのよ。百合的な意味でも、ね」
「え……?」
百合って……、確かその、女の子同士で……ってやつだよね……?
そっか、だからみゃーに頻繁に抱きついたりとかしてたんだ……。なるほど……。
焦りまくるというか、どんな顔していいやら困るというか、そんな状態のぼくは、慌てて愛想笑いを浮かべながら答える。
「あはは、そ、そうだったんだ……。ま、まぁ、個人の趣味とかにとやかく言うのは、野暮ってもんだよね。でも、そっかぁ、月見里さんがそういう人だったなんて、全然知らなかったよ……」
そんなぼくをあざ笑うかのように、月見里さんはさらりと言ってのける。
「ふふ……言っとくけど、冗談よ? まったくもう、維摘くん、素直すぎじゃない? 人の言うことなんて、なんでも疑ってかかるくらいじゃないと、この世知辛い世の中、上手く渡っていけないわよ?」
うぐっ……。完全にしてやられた、ってこと?
いつもどおりとも言えるけど、それにしても、どう考えても同級生とは思えないような意見だと、ぼくは思った。
ともかく、なんでも疑ってかかるべし、か……。
その言葉を真摯に受け止め、ぼくがまず疑ってみたのは……。
「月見里さんってさ……年齢詐称とか、してない?」
ゴガッ!
…………無言で殴られてしまった。もちろん、グーで。