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振り向けばデュラハン  作者: 沙φ亜竜
3.事故
19/39

-6-

「ふぅ~……。結局、でゅらちゃんの手がかりは得られなかったわね」


 月見里さんがため息をつき、残念そうな表情を見せる。


「諦めるの?」

「そんなわけないじゃない。なに言ってるの? あんたバカ? 間が抜けてるのは顔だけじゃないのね。ふざけたこと言ってると、アゴ外すわよ?」


 なにげなく放った閃太郎の言葉に、なにもそこまで言わなくても、と思うほどの罵声が返ってくる。

 さすが月見里さん。百倍返しの精神は健在のようだ。

 ともかく彼女は、諦める気なんてさらさらないということか。


「う~ん、でも、諦めないとして、どうするつもり?」


 ぼくは訊いてみる。

 閃太郎みたいに、あんたバカ? 少しは自分で考えなさいよ。普段から使ってないんだし。もう脳細胞半分以上死んでるんじゃないの? くらいは言われる覚悟だったけど。

 月見里さんからは、そういった罵倒まじりの攻撃的な言葉は返ってこなかった。


 ちなみに脳細胞って、実際に使われるのは全体の一割にも満たないらしいから、たとえ半分死んでても大丈夫……って、そんなわけはないか。


「そうね……。もう一度学校新聞を調べるってのでもいいかもしれないけど、それよりは別のアプローチを試してみるべきかしらね」


 右手の人差し指をアゴの辺りに添えながら、月見里さんはぼくの質問にそう答えた。


「別のアプローチ? あっ、今度は五本松を脅して、もっと有用な情報を吐かせるっていうのね!?」


 すかさずパンと手を叩いて、みゃーがとっても物騒なことを口走る。


 いやいやいや、それはマズいでしょ!?

 だいたい、すでに五本松先生には一度聞いてるんだから、別の情報なんて得られるわけないんじゃない!?

 あと、五本松って呼び捨てにするのは、先生に対して失礼でしょ!?


 ツッコミどころ満載のみゃーではあったものの、ぼくは放置しておく。

 すでに月見里さんがみゃーの言葉に返事をしようとしていたからだ。

 月見里さんの喋りを邪魔するなんてこと、恐ろしくてできるはずがない。まだ死にたくないし。


 ギロリッ!

 一瞬、月見里さんの瞳がぼくのほうを見て光ったような気がしたけど、気のせいだと思いたい。


「実弥ちゃん、違うわよ。もっと別のアプローチ。あの人を訪ねてみるってこと」


 そう言って月見里さんは、ふふっ、と笑う。

 なんだか意地悪な企みを心の奥に秘めているような、そんな微笑みに見えたのは、これもやっぱり気のせい……?

 ただ、どういうわけか今の言葉を聞いて、閃太郎が一瞬びくっと体を震わせていた。


「あ……あの人って、やっぱり、あの人……?」


 おずおずと、というか、おそるおそる、というか、ともかく閃太郎はおどおどと挙動不審な様子で問う。


「そうよ。あの人……オカルト研究会会長、星岡る菜(ほしおかるな)さんよ!」


 ザッパーーーーーーン!

 背後に荒波を背負ったような勢いで、月見里さんが叫ぶ。


「へ~、うちの学校にオカ研なんてあったんだ」

「ええ。ま、非公認だけどね」


 みゃーがぼくも思っていた疑問を尋ねてくれて、謎は解けた。

 非公認のオカルト研究会。

 楓坂学園では、部員が五人以上いないと部活として認められない。

 部活として認められれば、金額がどうとかはともかく、部費が与えられる。ただし五人未満だと、同好会やら研究会やらという扱いになる。


 とはいえその場合でも、学園側に認めてもらえれば、学園紹介資料などの部活・同好会一覧に掲載してもらえる。

 非公認ということは、そうやって学園側から認められてもいない、すなわち、勝手にやっている集まりでしかない、ということだ。

 納得。それじゃあ、知ってるはずないよね。


「しかも、メンバーは会長本人のひとりだけだし」


 それってすでに、会ですらない!

 なんてツッコミを入れることすら忘れ、呆然としてしまう。

 そんなぼくとは対照的に、大声を張り上げて月見里さんに突っかかっているのが、なぜか閃太郎だった。


「だだだだだけどさ! あ……あの人は、自己流のオカルトマニアだから、でゅらちゃんの手がかりなんて、得られるはずが……」

「ふふ、怖いの?」

「なななななななんのことさ!? オオオオオオレには、まったく、わわわわからないな!」


 どうやら閃太郎は、星岡る菜さんとやらが心底怖いらしい。


「というか、ふたりともその人と知り合いなのね? 怖い人なの?」


 再びみゃーが、ぼくも思っていた疑問を口にしてくれる。

 対する月見里さんの答えは、思ってもいなかったものだった。


「いいえ、とっても優しくて神秘的で、憧れのお姉様なのよ」

「お……お姉様……?」


 無意識にオウム返ししてしまうぼく。

 だって、月見里さんはひとりっ子のはずだし、そもそも名字だって違うのだから。


「そう。お姉様。ひとりっ子であるあたしにとって、心のお姉様なのよ。百合的な意味でも、ね」

「え……?」


 百合って……、確かその、女の子同士で……ってやつだよね……?

 そっか、だからみゃーに頻繁に抱きついたりとかしてたんだ……。なるほど……。

 焦りまくるというか、どんな顔していいやら困るというか、そんな状態のぼくは、慌てて愛想笑いを浮かべながら答える。


「あはは、そ、そうだったんだ……。ま、まぁ、個人の趣味とかにとやかく言うのは、野暮ってもんだよね。でも、そっかぁ、月見里さんがそういう人だったなんて、全然知らなかったよ……」


 そんなぼくをあざ笑うかのように、月見里さんはさらりと言ってのける。


「ふふ……言っとくけど、冗談よ? まったくもう、維摘くん、素直すぎじゃない? 人の言うことなんて、なんでも疑ってかかるくらいじゃないと、この世知辛い世の中、上手く渡っていけないわよ?」


 うぐっ……。完全にしてやられた、ってこと?

 いつもどおりとも言えるけど、それにしても、どう考えても同級生とは思えないような意見だと、ぼくは思った。


 ともかく、なんでも疑ってかかるべし、か……。

 その言葉を真摯に受け止め、ぼくがまず疑ってみたのは……。


「月見里さんってさ……年齢詐称とか、してない?」


 ゴガッ!

 …………無言で殴られてしまった。もちろん、グーで。


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