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振り向けばデュラハン  作者: 沙φ亜竜
3.事故
15/39

-2-

「ちょっと、あっこ、待ってよ! ねぇ、待ってってば~!」


 みゃーが怒鳴りつけるような声を月見里さんの背中にぶつけていた。

 職員室を出た途端、騒がしさを取り戻したような気がする。

 なんだかんだ言って根が真面目だから、職員室で大騒ぎなんてできなかったのだろう。

 ……だったら、教室や図書室で騒ぐのもやめたほうがいいとは思うけど。


 それはともかく、みゃーの大声を受けて、ようやく月見里さんも立ち止まる。

 あまりに急激に止まったものだから、月見里さんの背中にみゃーがぶつかり、みゃーの背中にぼくがぶつかり、さらにぼくの背中に閃太郎がぶつかってしまう。


「ていうか、痛いってば、閃太郎!」


 振り向きざまに、背中に張りついてきていた閃太郎を突き飛ばす。


「あんたもよ!」


 続いてぼくも、振り向きざまのみゃーに、思いっきり突き飛ばされる。

 二度あることは三度ある。……用法が微妙に違う気はするけど。

 とにかく、続いて月見里さんも振り返る。


「…………」


 じーっとみゃーの顔を見つめる月見里さん。


「あ……えっと、あの、あっこ、みゃーはほら、スカートだから、突き飛ばしたりするのは、その……」


 バッ!

 素早い身のこなしで、月見里さんが動く。

 彼女の両手は大きく広げられ、そのまま――、

 ぎゅっ。


「え……、あれ?」

「あたしが実弥ちゃんを突き飛ばすわけないじゃない。ふふ、でも、疑った罰として、抱きしめの刑よ。えいっ!」

「はうっ!? で……でも、べつに罰ってほどじゃ……」


 ない、と言おうとしたであろうタイミングで、みゃーの声は途絶えた。

 どうやら、声が出せないほど強く、ぎゅーっと抱きしめられているらしい。


 みゃーが顔を真っ赤にして両手をバタバタ動かすものの、月見里さんは微動だにせず。

 真っ赤になっているのは、恥ずかしがっているわけではなく、本当に苦しいのだろう。

 ま、こうなったら月見里さんの気が済むまでやらせる以外にないわけだけど。

 せめて息くらいできないと、さすがにヤバいかも……。


「維摘が口移しで息を吹き込んであげればOKだろ!」

「なるほど、そうだね」


 閃太郎の言葉に、ぼくはためらうことなくみゃーの目の前へと移動する。

 月見里さんと正面向きで抱き合っている状態のみゃーだから、ぼくは月見里さんの背後から迫っていくことになる。

 そして、目を見開いているみゅーの顔に、ぼくは徐々に顔を近づけていった。


 みゃーはなにやら言おうとしてはいるみたいだったけど、月見里さんからきつく抱きしめられているため声にならない。

 ぼくの唇と、みゃーの唇が……重なる。

 と思った瞬間、

 ドムッ!

 みぞおちの辺りに鈍い衝撃を感じた。


「うっ……!」


 そのまま崩れ落ちるぼく。

 苦しみながらも顔を上げ、理解する。月見里さんの肘鉄を食らったのだということに。


「あたしの背後に立つんじゃねぇ」


 ……あんたは、某スナイパーか!


 おなかを抱えてうずくまるぼくに、ツッコミの声なんて出せるはずもなかった。



 ☆☆☆☆☆



「ま、茶番はここまでにして、本題に戻りましょう」


 ぼくはどうやら、茶番で強烈な肘鉄をいただいたようです。


「本題……そうね。首を切断した女子生徒の調査、まだ続けるってことよね。どこに行くの?」


 こちらも茶番で息が止まるほどに抱きしめられていたみゃーが、思い出したかのように尋ねる。

 実際、今の今まですっかり忘れていたんだろうな、とは思うけど。

 そんなみゃーからの質問に、月見里さんは平然と答えた。


「帰るのよ」

「そっか、帰る……って、えええっ!? ほんとに帰っちゃうの!?」

「調査大好き人間の月見里さんが、珍しいな~!」

「あはは、ほんとだね。地獄の底まで追いかけてでも、自分の探究心を満たそうとしそうなのに」


 三人から一斉にまくし立てられても、月見里さんは涼しい顔。


「あたしは帰るってだけよ。みんなは調査を続行するってことになるわね」


 さも当然のようにそう言ってのける月見里さん。

 さすがにみゃーが反論を開始する。


「な……なによ、あっこ! みゃーたちにだけ調べさせて、自分は定時帰宅ってわけ!?」


 定時っていうのもおかしい気がするけど。

 ともかく、そうやって叫び声をぶつけるみゃーに、ちらりと一瞬だけ視線を向けると、月見里さんは黙ったまま歩き出した。


「ちょっと、あっこ!?」


 さらに追撃しようとするみゃーに、月見里さんは澄ました声で答える。


「なに勘違いしてるの? これからみんなであたしの家に行く、って言ってるのよ」


 ぼくたち三人は、その言葉を理解するまで、優に十秒以上の時間を要した。

 月見里さんの家は、月見里総合病院。つまり、そこへ行く、ということだった。


「楓坂学園から救急車で運ばれたなら、まず間違いなくうちの病院へと搬送されるはずでしょ? だから、院長であるあたしのお父さんに話を聞くのがいいかな、と思ったのよ」


 学校を出て通学路を歩きながら、淡々と述べる月見里さん。

 思わず、


「だったら最初からそう言え~! 紛らわしい言い方すんな~~!」


 と怒鳴りつけるぼくたち三人。

 もっとも、三人から寄ってたかって怒鳴られても、月見里さんは涼しい顔を崩すことはなかったのだけど。


「さては、最初からぼくたちをからかって楽しんでたな?」

「ん? どうかしらね~? ふふっ」


 ぼくの指摘に、月見里さんは上品な笑い声を響かせる。

 腹の中は真っ黒なのに、見た目だけはお嬢様然とした月見里さんの態度に、ぼくはただただ呆れた視線を向けることしかできなかった。


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