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振り向けばデュラハン  作者: 沙φ亜竜
3.事故
14/39

-1-

 首を切断してしまった女子生徒の事故は、学校新聞の日付から、五年前の出来事だと知ったぼくたち。


「五年前……か。ここは、当時からこの学校にいる先生に、直接話を聞いてみるのがよさそうね」


 月見里さんはそう言って席を立つと、手際よく学校新聞を棚に戻し、すたすたと図書室から退出していく。


「あ……! あっこ、待ってよ~!」

「閃太郎、ぼくたちも行こう!」

「言われるまでもないっての!」


 ぼくたちも席を立ち、慌ただしく月見里さんを追いかける。

 そして黙ったまま、でゅらちゃんも続く。


 ぼくたちが学校新聞を調べているあいだ、でゅらちゃんはずっと口を閉ざしたままだった。

 どうしてそんな、首なし幽霊みたいになってしまったのか。

 いくら尋ねても、でゅらちゃんは首をかしげるばかり。嘘をついているような感じでもなかった。

 それなら、ぼくたちで調べるまでだ。なにかわかれば、幽霊だったら素直に成仏してくれるかもしれないし。


 複数の上履きの音が廊下に不規則に反響する。

 目指すは職員室。

 窓の外に目を向けると、夕焼けがすべてを赤く染め上げていた。

 とはいえ、まだ先生方の多くが残っている時間だろう。


「あっこ、職員室に行くんだよね? 五年前からいる先生っていうと、誰だろ?」

「五年くらいなら結構多いとは思うけど、あたしたちが入学する前だし、確信が持てるのは……そうね、体育の五本松(ごほんまつ)先生なら大丈夫じゃないかしら」

「あっ、そうだね! あのハゲ具合、年季入ってるし!」

「失礼だってば、閃太郎。……本人の前では絶対言っちゃダメだよ?」


 廊下を歩きながら、作戦を練るぼくたち。

 ……もっとも、作戦なんておよそ呼べるようなものではなかったけど。

 閃太郎に至っては、ただの悪口だし。だいたい、頭の年季と勤続年数は関係ないだろうに。

 ともかく、ターゲットは決まった。ぼくたちは意気揚々と職員室へと乗り込んだ。



 ☆☆☆☆☆



「五本松のハゲ先生、聞きたいことがあるんだけど!」


 ドゲシッ!


 いきなりの暴言に、五本松先生の鉄拳制裁が飛ぶ。いや、鉄拳じゃなくて、蹴撃だったけど。

 もちろん被害者は閃太郎。うめき声を上げながらも、「体罰反対!」と叫んでいる。


「体罰じゃない! 愛のムチだ!」


 と反論する五本松先生。

 マッチョな体育教師からの愛が込められていると考えるのも、ちょっと嫌だと思ったり……。


「閃太郎くんに対する愛のムチは、特別製のような気もしますけど」

「そ……そんなことはないぞ、月見里」


 月見里さんのトゲのある言葉に、若干焦りを見せる五本松先生。

 なんとなくだけど、月見里さんのことを苦手としている様子がうかがえる。


 でも、当然ながら体育の授業は男女別々。

 担任でもない男性体育教師と月見里さんのあいだに、いったいどんな接点があるのだろう……?

 う~ん、月見里さん、なにか五本松先生の弱みでも握ってるのかな……。

 ありえそうで怖い想像を振り払い、ぼくは月見里さんと五本松先生の会話に集中する。


「五年くらい前だって聞いたんですけど、女子生徒が転落事故で首を切ってしまったことがあったのをご存知ですか?」

「ん? ああ、確かそんなことがあったな。まだオレがこの学校に赴任してきて間もない頃だったと思ったが」

「その話、詳しく聞かせてくださいますね?」

「あ……ああ、わかった」


 月見里さんに穏やかな威圧をかけられた五本松先生は、大きく頷きながら答えた。



 ☆☆☆☆☆



「オレもその場にいたわけじゃないからな、それほど詳しいわけではないが……。悲しい事故だったんだ。運が悪かったとしか言いようがない。どうやら友人と一緒にふざけていた女子生徒が、二階から落下したらしい」

「二階?」

「ああ、おそらくな。確か救急車が校門から入ってきて、昇降口の前辺りに止まってたから、二階の窓から昇降口の上にでも出てたんじゃないか? 友人とふざけていて、バランスを崩し落下した、といったところか」


 昇降口は渡り廊下から少し出っ張った構造になっている。その上には、ちょっとしたスペースがあった。

 人が立ち入ることを想定していない場所だから、手すりなどもない。

 そこから落下するという可能性は、充分にありえるだろう。


「落ちたところにガラスがあって、それで首を切ったと聞きましたけど」

「ああ、そうだ。古くなったガラスの総点検をしている最中だったようだ。その日は、ガラス業者が来て、校内すべてのガラスをチェックしていた。古くなったガラスを新しいものと交換するための点検だったみたいだな」

「それは……。確かに運が悪かった、としか言えませんね……」

「そうだな。大量の血が噴き出し、周辺はまさに血の海のような状態だったらしい。オレが駆けつけたときには、女子生徒はすでに病院に運ばれたあとで、血も洗い流されていたが……。まだ周辺には血のついたガラスが散乱していたな……」


 当時の惨状を思い出したのか、五本松先生の顔には苦い表情が浮かぶ。

 月見里さんも含め、ぼくたちはみんな、口を挟めなかった。


「それから、ガラス処理の責任問題で大もめにもめて大変だったんだぞ? オレは赴任してきたばかりだったから、当時ガラスがどのように扱われていたか詳しくは知らないが。結局、当時の学園長が責任を取って辞任することになった。他にも転任した先生がいたんだったか……」


 先生は、ふ~、と長い息を吐く。


「オレが知ってるのは、これくらいだな」

「……ありがとうございました」


 月見里さんは素直に一礼すると、さっさと職員室の出口に向かって歩き始めていた。


「あ……ありがとうございました!」


 ぼくたちも慌てて頭を下げ、再び月見里さんの背中を追いかけた。


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