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振り向けばデュラハン  作者: 沙φ亜竜
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11/39

-4-

 さて、授業開始。

 と思ったら、先生はテスト用紙を配り始めた。


 …………そ、そうだった! 今日は実力テストだって言ってたじゃん!


 今さらながらに思い出す。でゅらちゃんの一件があって、すっかり忘れていた。

 言うまでもなく、昨日家に帰ってからテスト勉強なんて一切していない。


 な……なんたる不覚!


 仕方がない、せいぜい閃太郎にだけは負けないよう悪あがきしよう。

 ぼくにはそれしか残された道はないのだ。

 こうして実力テストは無情にも始まってしまった。



 ☆☆☆☆☆



 ところで、でゅらちゃんはぼくの膝の上に座ったままだ。

 でゅらちゃんはテストを受けないのかな?

 ぼくは疑問に思ったけど、肝心の先生はまったく気にしている様子もなかった。


「ねぇ。でゅらちゃんは、テストなしなの?」


 ぼそっと、彼女の首もと(丶丶丶)でささやいてみる。


「うむ。拙者は見てるだけでいいでござる」


 でゅらちゃんは小さく答えた。

 ……実力テストって、希望者だけ受ければいいというものでもないと思うけど……。


 とはいえ、今さらでゅらちゃんに関してごちゃごちゃ言ったところで、所詮無駄というものだろう。

 そんなことよりも今は、目先のテストに集中しなくては。

 閃太郎にだけは絶対に負けるわけにいかないのだから。ぼく自身の名誉のために。

 普段からどんぐりの背比べといった感じだというのに、閃太郎に対してなにやら失礼なことを考えるぼく。


 ふと思い立ち、ちらりと横に目を向けると、すでにみゃーの視線はテスト用紙のほうへと向けられていた。

 なんだかんだ言っても、みゃーって真面目だからな。さすがは学年トップだ。

 改めて、ぼくはでゅらちゃんの首越しに、机の上のテスト用紙へと視線を落とす。


 ……う~ん、見づらい……。


 それに、でゅらちゃんの体越しに左右から腕を伸ばして、用紙を押さえつつシャープペンで解答を記入しているわけだけど。


 ……う~ん、書きづらい……。


「申し訳ござらぬ。拙者、邪魔でござろうか……?」


 でゅらちゃんの泣きそうな震えた声が、微かに耳に届けられる。

 そんな声で言われたら、否定的な言葉なんて返せるわけがない。


「大丈夫、問題ないよ」


 ぼくはそう答えると、どうにかテストに集中しようと努めた。



 ☆☆☆☆☆



 実力テストは昼休みを挟んで主要五教科、五時間目までかけて行われた。


「や……やっと終わった……」


 ぼくは机に突っ伏す。

 でゅらちゃんはテストが終わると同時に、ぼくの膝の上から机の横に移動していた。


「いーちゃん、どうだった?」

「う~、最悪……」


 みゃーが声をかけてくるけど、ぼくはうめき声のような微妙な受け答えを返すことしかできなかった。

 当然ながら、全然わからなかったのだ。

 それは勉強していなかった自分のせい。自業自得ではあるのだけど。


「拙者のせいでござるな……。申し訳ないでござる……」


 でゅらちゃんはシュンとしながら、自責の言葉を吐き出す。


「さっきも言ったとおり、でゅらちゃんのせいじゃないよ」

「そうそう。こいつは自業自得なんだから!」


 ぼくの言葉に、閃太郎までもがでゅらちゃんに慰めの声をかける。


「そういう閃太郎は、テストできたの?」

「オレ? ふっふっふ、聞くまでもないだろう? ……いつもどおりさ……」

「すなわち、ダメだったと」


 閃太郎は自分の言葉でまずは肩を落とし、続く月見里さんの一撃で完全に沈没した。

 相変わらず、月見里さんは容赦がないな。


「ま、そんなことはどうでもいいわ」


 月見里さんはさらに、トドメの爆撃を加える。

 もう閃太郎はピクリとも動かない。

 でもま、確かにそんなこと、どうでもいいか。

 今は月見里さんがなにか言おうとしているようだし、そちらに耳を傾けておこう。


 ぼくもみゃーも、月見里さんに視線を向ける。

 でゅらちゃんも、どうやら月見里さんのほうに注目しているようだ。

 ……目がないのにどうやって見ているのだろう。

 残る閃太郎だけは消し炭のようになっているけど、もちろんこの際どうでもいい。


「放課後になったら、ちょっと調べてみましょう」


 月見里さんは、落ち着いた声でそう言った。


「調べるって、なにを?」

「そりゃあもちろん、でゅらちゃんについてよ」


 みゃーの質問に答えた月見里さんは、なんだか面白いネタを見つけたとでも言わんばかりの含み笑いを、その口もとに浮かべていた。


「記憶がないのは、頭を失くしてしまっているからだと思うわ。いわば今のでゅらちゃんは、自分の半分を失っている状態と言えるかしら。だからまずは、でゅらちゃんの失くした二分の一、頭と記憶を取り戻すのが先決よ」

「だ……だけど記憶を取り戻したら、ぼくは斬られたり怨念を向けられたりするんじゃないの?」


 月見里さんの提案に、ぼくは慌てて反論を返す。

 斬られるのも怨念を向けらるのも、さすがに嫌だし。


「そういう可能性もあるってだけでしょ。そもそも、でゅらちゃんは維摘くんに取り憑いている状態だと思うわ。だとすると、このままなにもしなければ、結局は生気を吸い取られて死んでしまうでしょうね。それでもいいの?」

「う……それは、嫌だけど……」

「それにほら、」


 どうするべきか決めあぐねているぼくに向かって、月見里さんは無情な言葉を放つ。


「面白そうじゃない」


 いつもながら、この人はひどい……。

 などという思いは、当然ながら自分の胸のうちだけにひっそりとしまっておく。

 と、月見里さんはそっとぼくの耳もとに唇を寄せて、こうささやいた。


(でも、被害に遭うのが維摘くんだけとは限らないのよ? 実弥ちゃんが標的になることだって考えられるわ。いえ、維摘くんの一番近くにいるのだから、その可能性は高いと言えるわね。実弥ちゃんを守るためにも、危険は排除しなきゃいけないでしょ? まずはでゅらちゃんのことを調べないと、対処のしようもないわ)


 ……そうだ、ぼくはみゃーを守るべき立場なんだ。

 でゅらちゃんが危険な存在かどうかしっかり見極めて、もしも危険だったら、みゃーに被害が及ばないようにしないと!


 ぼくは決意を固める。

 若干、月見里さんに躍らされている気がしなくもないけど……。

 耳もとから離れた月見里さんに視線を向けると、それに応えるかのように、そして心底面白がっているように、微笑みを浮かべるのだった。


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