-☆-
「あの子のこと、よろしく頼むよ」
優しく目を細めるおじさんが、しゃがんでぼくと目線を合わせ、両肩をそっとつかみながらそう言った。
もう随分と昔、幼稚園くらいの頃だっただろうか。
「うん、もちろん!」
まだ幼かったぼくは、素直に頷く。でも、言われている意味がわかっていなかったわけじゃない。
現にぼくは今でも、彼女のすぐそばにいるのだから。
もっとも、彼女を守ることができているかは、疑問の残るところだけど。
「いい目だ。さすがだね」
「うん!」
「たとえどんな相手が現われたとしても、いつもあの子のそばにいて、ずっとあの子を守り続けるんだ。それがキミの役目なんだよ。おじさんは、それを見てきているからね」
「う……うん」
おじさんは、笑みを浮かべたままではあったものの、話す内容はどんどんと意味がわからなくなっていく。
ぼくは頷きながらも、首をかしげていた。
「……あはは、まだ難しかったかな? ごめんごめん」
わしゃわしゃとぼくの頭を撫で、おじさんは立ち上がる。
大きな背中が太陽を遮って影を作った。幼いぼくがすっぽり包み込まれるくらいの、大きな影を。
おじさんの背中は、なんだかぼくにはとても寂しげに見えた。
「……おとことおとこの、やくそく?」
遠慮がちに、その大きな背中へ向けて言葉を投げかける。
マンガで覚えたセリフだったけど、自然と頭に浮かんだのだ。
「……ああ、そうだ。よろしく頼むよ」
「うん!」
おじさんとぼくの視線の先には、はしゃいで庭の芝生の上を飛び跳ね回っている女の子の姿があった。
あの子のそばに控えて、ずっと守り続ける。それが、ぼくの役目。
幼い日の誓いを胸に抱えながら、ぼくは今日まで生きてきた。
そしてそれは、これからも永遠に変わることなく続いてゆくのだ。