会話スキップはほどほどに
今日は待ちに待った婚約破棄イベントの日。昨日は楽しみであまり眠ることが出来なかった。
現在私は生前熱心にやっていたゲームの世界に転生している。ヒーローから婚約破棄される悪役令嬢なのだけど、嬉しいことにこのゲームで悪役令嬢が死刑になるバッドエンドはない。婚約破棄された悪役令嬢は家を勘当され、平民として生きていくために冒険者となるのだ。
冒険者。あぁ、なんて素晴らしい響きなのかしら。公爵令嬢という建前があった手前、今まで冒険なんて全く出来なかったけれど、これからは違う。好きなだけ世界を見て回れるのだ。
この世界は冒険要素がかなりある。生前は、物語の台詞は基本スキップして、あらすじのみの理解に留め、ダンジョンやトレジャーハントにいそしんでいたぐらいだ。ただでさえやりこみ要素がたくさんあるのに加え、ゲームには登場しなかった国やモンスターなど、さらに楽しめる要素があるのだ。今日婚約破棄された後のことを考えるだけでわくわくが止まらない。
早く婚約破棄してくれ!待っていてくれ世界!
「皆、今日は私の誕生日パーティに集まってくれありがとう!」
壇上で、一応まだ私の婚約者のヤルク第一王子が声を張り上げる。王子の隣では、シナリオ通り聖女候補のミーシャが微笑みを浮かべていた。
あぁ、ミーシャさんの笑みが女神の微笑みに見える。愛しているよ!二人とも!末永く幸せにね!
「今日は皆に知らせなければならないことがある。レミナ!お前、ミーシャをいじめているらしいな!」
「はい!いじめています!」
「いくら否定しようと証拠が……はい!?」
いじめなどした覚えはないが、修正力のようなものが働いているのだろう。今まで特に何もしなくても勝手にイベントが進行したのだ。大体あらすじは把握しているし、いじめを認めて早く婚約破棄してもらおう!待ってろよ金銀財宝!
「たくさんいじめました!色々しました!」
「いじめを認めて罪を軽くしようなんて魂胆通じないぞ!こっちにはたくさん証拠があるんだよ!父とお前の両親には話を通してあるぞ!何も罰がないなんてありえんからな!」
「確か――ルミナリエさんやアルドさんの証言、あと落書きの筆跡とかですよね!認めます!こんな婚約者、婚約破棄された方がいいと思います!罰、あたえちゃいましょう!」
「な、なんでお前が証拠を知っているんだ。それは俺たちがねつぞ――」
ヤルク王子がしまったとばかりに口元を押さえる。横のミーシャは「何言ってんのよあんた。バカなんじゃないの!」と声を張り上げる。
どうやら捏造だったらしい。けどそんなのどうでもいい。婚約破棄してくれ!待ってろよドラゴン!
「お前達、捏造をしてレミナ令嬢を陥れようとしたのか!」
「あり得ないぞ!恥をしれ!」
私の後ろから怒号が飛び交う。
……あれ?なんか雲行き怪しくない?
「話は全て聞いておったぞ!」
来賓客の中からヌッと一人男性が登場する。罵声を浴びせていた人々は、登場した男性を見て口を紡ぐ。そのヌッと現れた男性こそ、この国の王、テラスド国王だった。
「人を陥れる者など人の上に立つ器ではないわ!お前はもう王族ではない!平民になって冒険者としてでもやっていくがよい!そして聖女候補のお前!貴様は国家反逆の疑いで牢獄行きだ!引っ捕らえろ!」
テラスド国王がそう言うと、どこからともなく兵士が現れ、「嫌!なんでこうなるのよ!ストーリー通りにしただけなのに!」と叫んでいる聖女候補ミーシャを引きずり、どこかへ連れ去っていった。
ヤルク王子は国王の発言を聞き、何故か泣き始めてしまった。もしかしてヤルク王子も冒険者になりたかったのかな?そんなに嬉し泣きするなんて。
「すまないレミナ嬢よ。息子の親として深く謝罪させていただきたい」
「謝罪など不要です。気にしておりませんので」
「あんたの息子は婚約破棄の一つも満足に出来ないのか!」って怒鳴りたい気持ちをぐっと抑え、私はそう言った。
あぁ、遠ざかっていく魅惑の洞窟。チクショウ、私が本当にいじめていればこんなことにはならなかったのに……
「かたじけない。ただ王族としてのメンツもある。何か望みがあれば言って欲しい。私に出来ることなら何でもしよう」
あれ?
もしかしてこれは――逆転満塁ホームランか!?
「でしたらお言葉に甘えて一つお願いしたいことがございます。――私を冒険者にしてください!」
「……へ?」
王の困惑顔など、私の視界にはもう入らない。
空島!夢幻の空間!暗黒大陸!待っててね!私が今から会いに行くから!
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