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僕と雷  作者: ギプス


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8/8

委員長とイカズチ

「よくなんてないです。どうしてこんなに、ボロボロになるまで、ほっておいたんですか。」

「カゼノちゃん僕は…」

「私は、少なくともあなたを『保護者』と認識しています。もしあなたが『保護者』なら、彼女に危険を冒させるなんて、『保護者失格』です。」

 そう言って彼女は僕に鋭い目を赤いメガネ越しに僕に向けた。

 それは、とても鋭かったけれど、瞳には、潤いが零れだしていて、何か温かいものがあった。

 そんな瞳を見て彼女には僕に気持ちを伝えてみてもいいと、そう思った。

「保護者、というけれどね、それはただの呼称だと、僕は思ってる。指導者あるいは誘導者、先に生きるものとして、壊れないように、道を整備する。それが、僕の呼称する()()()それは危険から彼女を守る盾ではなくて、彼女がある程度快適に道を見つけ通っていけるように整備をする草刈り機みたいな、あるいはアスファルトを固めるロードローラーみたいな、つまりは、可愛い子には旅をさせよってこと。」

 カゼノちゃんはずれてきていた眼鏡を直す。

 ずれてしまったせいか見えていなかった瞳にピントが合う。

 そこには、こらえきれなくなったカゼノちゃんが瞳から、さながら決壊したダムのように涙が

 流れていた。

 声は、ヒックヒックととぎれていて 、それが、僕の心に切なさを誘う。

「わかっています!わかっているんですよ!そんなこと、、でももし、彼女が電気に耐えきれなくなったら!もし彼女の顔にボールが当たりそれが引き金となってしまったら、

 そんなこと嫌なんです。

 ()()!そんなことになるのは散々なんです!」


 風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風


 私たちずうっと一緒だよ。

 小学生に入りたての事でした。私たちは塾で出会って仲良くなりました。

 その子の両親は厳しくも優しいと言った印象でした。

 やってはいけないことやルールマナーの制限が厳しくがんじがらめであることは想像に難くなかったです。だから、その時の未熟な私は、がんじがらめで鎖につながれている(ように見えた)彼女、流星(ながれぼし)ライを、一日でも解放しようと塾が終わった夜、彼女にこんなことを言った。

「ねえ、ライ、ちょっとぐらいならルールを破ったらいいと思うの、大人に言われて、がんじがらめで、子供らしく遊ぶこともできない、そんなの、そんなのよくないと思うの、私は貴方に幸せになってほしいの。」

 はなしているうちに熱が上がってきて、まるで愛の告白みたいな息遣いで私は彼女に思いを伝える。

「……」

 彼女はポカンとしていました。

 そりゃあそうだと思います。今思えば急に幸せになってほしいだの。ルールを破れだの。

 塾を完遂した疲れた彼女に対して、なんだか、重たいことを急にのたまってしまったなと、今ではそれも悔やんでいます。

「えっと……!あぁ、急にこんなこと言っちゃてごめんなさい……でもね。がんじがらめで鎖につながれていて、そんな絵本の中の可哀そうなお姫様みたいな貴方を、(そこ)から出してあげたい。

 そう思っちゃって……だから、一緒に、わるいこと、しない?」

「―悪いこと、で、でもお父様に怒られるかもしれないし……お母さまだって……」

「その時は!私が一緒に謝るから!頭を下げるし!なんだってする!ずっとルールに縛られているあなたは、一度ぐらいルールを破ったって罰は当たらないよ。」

 今思えば、ルールを破ったら罰が当たる、それはどんなに今までルールを守っていてもおなじだと、理解しました。

 それに、破るルールは選ぶべきでした。

「ここ、横断歩道がないけど、渡っちゃおうよ。赤信号を無視するわけじゃないし、ちょうどいい悪いことだよ。」

「わ、渡るの、こ、怖いけど、やってみたい!」

 彼女と私は、夜の暗い大き目の車道に足を踏み入れました。

 明かりは少ないのにガソリンスタンドの装飾品が赤々と、ネオン色に光っていたのを不気味なほどに覚えています。

 一歩、二歩、最初の方は、きょろきょろと、周りを見ながら進んでいましたがある程度歩いたころにもう車がないことを確認したあと、私は少し緊張が解け、初めて悪いことをした彼女に感想を聞くために振り返ったんです。

「どう?ライ、た―」

「危ない!」

 ぐっと前に倒れこむ感覚と、車のキキ―ッという音、それに遅れてクラクションが鳴って、私と彼女が入れ替わって。

 まるで時を追い越してしまったかのような感覚になり、視界が一コマずつ進んでいきました。それでも私の身体は動かなくて、彼女を見ることしかできなかった。

「―あ    」

 彼女の口が何かを伝えようとして、私の耳に音が捉えられる。それを遮るみたいに、お前には聞かせてたまるものかと言っているみたいに、車が彼女の身体をはねた。

 そこからは置き去りにした時間の帳尻を合わせるみたいに、時間が私を追い越していって。

 落ち着いた時には、私は病院にいました。

 ぴっぴっぴっと心臓に悪い心電図の音が鼓膜にこびりつく。

 ごめんなさいごめんなさいと心が震えるのに、喉が怖がって動かない。

 そこには、彼女の両親が揃っていて、せめて、せめて、この人たちに謝らせてほしいと、何とか私を説得して、声を振り絞る。

「ごめん、なさい。」

 たどたどしい震え声で私は言葉を綴った。

「あぁ、謝罪は不要だ。ルールを守らなかったうちの子が悪い。まだ、ライの容態はわからないらしくてね、検査をするから、退出をしてくれると、助かる。」

 その時だったと思います。何かがぽっきり折れて、ルールは守らないといけないと思って、彼女にはもう会えないと悟った時は、今も入院していることは知っているのですが、様態が悪くなっていたらと思うと、会いに行けないんです。

 ルールを守っていないと、大人は、叱ってすらくれなくなると知りました。

 それから私はルールを守ってきました、いつしか委員長として、クラスをまとめてきました。

 クラスの誰かが危険なことをするのが見てられないんです。

 ちゃんとレールを敷いて、柵を作って、そうしないと、誰かが傷つくかもしれない。

 もうだれも私の目の前で傷ついてほしくない、傷つけたくない。

 これが、愚かな私の罪です。


 風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風風


 カゼノちゃんの過去は、壮絶だった。

 どうしようもないほど重い罪と、それに比例した重い罰が彼女を苦しめている。

 彼女を苦しめているのは、過去の彼女で、苦しみもがいている彼女は、その罪を受け入れ、バツとして苦しんでいる。

 暗いくらい牢獄にいる彼女に僕はなんて声をかけたらいいかわからなくなっていた。

「なあ、カゼノ。」

 暗い静寂を破ったのはユウ君だった。

「俺にはさ、過去のおまえを肯定したり否定したりみたいな、フクザツで難しいことはできないし、多分お前がやってほしいことは何にもできないと思う、けど、まだ、そのライって子は生きてるんだろ?

 おまえはライって子を想ってやったんだろ?

 確かにやり方は間違えたかもしんないけど、まだ取り返せるんだろ!

 なら、私は罪を受けなきゃいけないってあきらめるんじゃなくて、惨めでも身勝手でもいいから、自分と周りが幸せになる方法を考えるべきだろ!」

ユウ君の言葉に僕は続いて、つぎはぎな思いを語った。

「僕は保護者だから、見守って、もし、ユウ君やイカズチが危険でも進みたいって言ったら、守りながら、進ませる。保護者ってそういうものなんだと思ってる。

道を踏み外して、どこかに落ちていってしまった子がいたら、拾い上げて戻してあげるのが保護者だと思ってる。だから、ルールで固めて守るんじゃなくて、失敗してもいいんだよって、何回でもやり直していいんだよって、何回でも送り出せて、いつでも帰ってきてくれる。そんな保護者でありたいんだ。

カゼノちゃんはその子のことを思ってやったんだ、それは立派なことだよ!少しやり方を間違えただけだ。君は誰かを助けるために勇気を出せる凄い子なんだ。

だからカゼノちゃん。カゼノちゃんだって、何回でもやり直していいんだよ。もし何かあったら、その時は、僕が、保護者が、大人が、何とかするから!」

「カゼノさん。」

 イカヅチも優しい声でカゼノに話しかける。

「私は、カゼノさんが私を心配そうに見守ってくれているのを知っています。誰よりも優しくて誰よりも正義感が強くて、だから、こんなにも苦しんでいるんだって。

 私は、もしかしたら人を傷つけるかもしれません。もしかしたら、人には耐えきれない力を、暴発させてしまうかもしれません。それでもやり直せることをやり直してもいいってことを教えてもらいました。

 だから、一緒に遊びませんか?一緒に遊んでいろんな遊びを覚えて、そのライさんって子に教えてあげませんか、こんな楽しいことがあるんだよって、そうやってやり直せることを私は知っています。

 カゼノちゃんが、ユウ君が、兄さんが、教えてくれました。

 いつも優しく教えてくれるカゼノさんに今度は私が、遊び方を教えてあげます!

 だから、私の手を取って、一緒に遊びませんか?」


 あの日のことがフラッシュバックして、感情はぐちゃぐちゃで、惨めにあがいてもいいって言われたことがうれしくて、やり直してもいと頼ってもいいと言ってくれたことがうれしくて、無邪気に手を伸ばす彼女が、昔の私と重なって、もしかしたら、やり直せるかもしれないとそう思って、過去の失敗を振り切るみたいに、私は、彼女の手を取った。


「あったかい。」

 手の感触か、胸の内だったか、はたまた、窓から入る風の温度だったか、今ではもう、わからなくなってしまいました。

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