修行とイカズチ
次の日、僕は放課後イカズチとユウくんを呼び出していた。
ユウ君はすこしおどおどしたように僕の顔をうかがうようにこう言った
「えっと、呼ばれたのはいいんですけど、僕はどうしてここに?
もしかしてかなめ君の件だったりしますか、それならちょっと、というか、だいぶ、いや、すごく気まずいんですけど。」
「ごめんね。ユウ君、心配させちゃったよね。大丈夫、かなめ君に直接かかわることはないはずだから、安心して。」
僕はユウ君に微笑みを送り、作戦を伝えた。
「ユウ君にやってほしいことはね、『キャッチボール』だよ。」
「え?」
「そ、それはどう言う、事でしょうか?」
「ごめん、ごめん、説明を省いちゃってたよね。」
「僕はイカズチにカミナリを操れるようになってほしいんだ。だから、今ボールに恐怖心があると思うんだ。それをね、利用しようと思ってるんだ。
怖いって思ってもカミナリを出さないようにまぁ要するに修行をしてほしいんだ。できれば、ユウ君と一緒にね」
「えっと、それなら、にいさんとやればいいんじゃないですか?」
「あぁそれはね、ユウ君と遊ぶつまり友達と遊ぶって事をイカズチに経験してほしいからっていうのと、もしかしたら、イカズチとキャッチボールしてるのを見て、同級生が参加してくれるかもしれないからっていう、かすかな思いがあるんだ。
ただこれはユウ君の気持ちを完全に無視しちゃってることになる。これはお願いなんだ、狡いことをしていることは理解しているうえでのお願いなんだけど。
イカズチとキャッチボールをしてくれないかい?」
ユウ君は少し迷ったように目を右往左往させ、その優しい、瞳を僕に向け口を開く
「いいですよ。キャッチボールぐらい、それに、雷さんと遊びたかったですし、ただ一つ要望が」
「なんだい?」
「アイス、おごってください。」
ユウ君は少し照れながらそう言っていた。
「もちろんだ!」
僕はこうして姉さんがくれたアドバイスをもとに作成した修行を開始した。
姉さんは
「雷は、怖がった時に、能力が発動してしまうように見えた。なら、ソコを克服しちまえばいいのさ、幸いうちは、ドッチボールをみんな使えるようになってる。そしたら、本人の罪悪感は薄まると思うよ。
それにクラスの子と遊ぶんだ。もちろん相手は選ぶが、クラスで話してくれる奴はいるんじゃないか?」
姉さんは目の下のクマを僕に見せないようにかけた色付きの眼鏡をクイっとしながら修行のたたき台の説明をしてくれた。
ということがありそれをイカズチが寝た後に修行内容を考えていた。
ユウ君にはアイスだけじゃ足りないぐらい感謝している。いっそのことハーゲンダッツを箱で買ってあげたほうがいいか?と考えるほどだ。
そのユウ君とイカズチはいま、キャッチボールをしている。城をベースにした黄色と青のドッチボールをふわっと浮かせて大きな放物線を描き交互に放たれている。イカズチが放った球が勢いが足りないときはユウ君が走って受け止め、ユウ君が力の加減を間違えイカズチのほうにボール一つ分上に放ったボールを、めいいっぱいジャンプをしてキャッチする。
僕はそれを見ながら穏やかな感情になっていた。
そんな僕に、一人の少女が話しかける。
「あの二人、なにしてるんですか?」
肩までのショートカットに赤いメガネ、校則きっちりのセーラー服を着ていて、見た目から、真面目が透けている。
「キャッチボールだよ。少年少女にはよくあるあそびじゃないかな?」
「それはそうなんですが、なぜ『あの子』が『ドッチボール』で遊んでいるのでしょうか」
「そうだね、練習をしてるんだ彼女は『ドッチボール』が苦手だからね。」
「そうですか。」
すこしむすっとしたように、彼女は言う。
「気に入らなかったかい?」
「いえ、そんなことはないのですが、また、『あんなこと』があったら、委員長としては、見逃せないので。」
委員長ときたか、まぁこのタイプはゆっくり話すことが大事だろう。
「その『あんなこと』を克服するために、人がいないときにやってるんだ。許してくれるかい?
委員長様?」
すこしうれしくなったのか、微笑みが漏れ、それを隠そうとして、またむすっとした顔に戻る。
「ふん、許してあげます。ただ。かなめ君がいるところではやらないでください。」
「あぁそれは、気をつけるつもりだよ。」
「そうですか
まぁ、かなめ君がいるかいないかぐらいは、おしえてあげないことも、ない、ですよ。」
かわいい後輩だ。
「ありがとう、委員長様。」
「その!委員長様っていうのは、気恥ずかしいのでカゼノと呼んでください。清涼院カゼノです。」
「そうか、ありがとう、カゼノちゃん。」
「はい、それでは」
彼女はまるで風をまとっているかのようで、美しいと、素直に感じた。
彼女が帰っていったので視線を二人に戻す。
ユウ君は、ボールを投げるのが明確にうまくなっていた。軌道が曲線を描くのではなく、直線を描いていた。
雷も喰らい付くように低い曲線を描くように、ボールを投げていた。ただ受けるのが苦手なようでボールを受ける前に少しビクッと手が強張る。
やっぱりあの出来事がトラウマになっているのか、受けるときだけ、顔が引きつっていて、僕は心が苦しくなったが、僕が考えた作戦だから、苦しくなっている場合ではない。
僕が、うだうだと思考している間にも二人は、キャッチボールをしていた、ユウ君も動きが流動的になり、さらさらと流れる水のような動きで、イカズチに取ってもらえるようにサポートをしていた。ユウ君は優しいのだろうと僕は考える。最初に合った時もやけに気を使いながら話していた。
僕にも最大限の優しさを向けてくれていたし、あの日、イカズチと僕の暴走の時、僕を保健室に運んでくれたのも彼だった。そのあとユウ君には
「重かったんですから、スイーツおごってください」と言われてしまった。
かわいいおねだりだったので、喜んで了承した。アイスも好きみたいだし、、ユウ君は甘党だろう、カフェに行くんならユウ君と行こうか、イカズチと行くならファミレスだろう。とくだらないことを考えていると、ユウ君の動きに異常が見えた。
力の入れ方を間違えたのだろう。手がしなり動きが大振りになる.ボールが直線的に素早く前進する。
あまりにも早かった、さっきまでの山なりのボールよりずっと
私は、それを取ろうとして、取りたくて、でも、あの時のことがリファレンスしてきて、カミナリが迫ってくる。
「イカズチ!」
その声が、黒い過去から、現在に戻してくれて、ボールを真直ぐ、捉えた。
「パンッ」
よろけて、地面に衝突したところで、やっと手がビリビリしていることに気が付いた。視界がぼやけていることに気付くのにも時間がかかって、パタリ視界が落ちた。
天井が白く染まっていてうっすらカーテンが見える。影がいくつか見える。一つ二つ、三つかな?
影が色を付けて、レンズがピントを合わせる。やっと見えたそれは、愛しい人と優しい人だった。
「大丈夫かい、イカズチ。」
「ごめん、力加減ミスっちゃって、大丈夫か?」
「うん、大丈夫です。あ、カミナリ大丈夫でしたか。」
「うん、なんかイカズチさんの手がびりびりしてたけどあの日みたいな雷は出てなかったよ。」
「よかった。」
トントン、カツカツ
「よくなんてないです。どうしてこんなに、ボロボロになるまで、ほっておいたんですか。」
「カゼノちゃん僕は…」
「私は、少なくともあなたを『保護者』と認識しています。もしあなたが『保護者』なら、彼女に危険を冒させるなんて、『保護者失格』です。」
そう言って彼女は僕に鋭い目を赤いメガネ越しに僕に向けた。




