7 記者
「まぁ、夜中にそんなことがありましたのね。」
カメリアはそう言って朝の紅茶を飲んだ。
真夜中の思わぬ来訪者を受け、情けなくも私は少し怯えてしまったのだが、カメリアは怖がる様子もなくかえってヒューゴに対して呆れているように見える。
「私のせいで怖い思いをさせてしまいましたね、ヒルダ。
ごめんなさい。」
「いえ、カメリア様が謝ることはございません。
貴方を守るのが私の仕事ですから。」
いつもと変わらぬ冷静なカメリアの姿に、私は安心した。
「それにしても、ヒューゴはなぜあんなにも自分が捕まらない自信をもっていたのでしょうか。
私とカメリア様をわざわざ挑発する理由がわかりません。
まだ何か恐ろしいことを企てているのでしょうか。」
「あら、ヒルダはヒューゴが犯人だと思っているの。」
「カメリア様はそうは思っていないのですか。」
「現時点では彼を犯人であると断定できる証拠がありませんから。
彼は狂犬の起こした事件に深く関わっているとは思いますけれど。」
「では、狂犬とは一体誰なのでしょう…。」
カメリアは意外なことに思い悩む様子はなく、余裕ある微笑みを浮かべていた。
そうして彼女は言う。
「昨夜のヒューゴの言葉から、一つの可能性が見えてきましたわ。」
私がそれを問う前に、コテージの扉をノックする音が聞こえた。
「おはようございます。
カメリア様はおられますか。」
若い男性の声であった。
訪ねてきたのはハンティング帽をかぶり簡素な青シャツを着た青年だった。
年は10代後半ぐらいだろうか。
青年はハンティングをとって頭を下げた。
「突然すみません。
おれはマイケル・スタンフォードといいます。
雑誌の記者をしている者です。」
マイケルは「ほら、これ。読んだことありますか。」と雑誌を一部手渡した。
彼の渡した雑誌はこの国で階級を問わず広く読まれている、この国での事件や政治問題について扱うやや下世話な雑誌であった。
以前カメリアが関与した事件の記事が載ったこともあり、私も読んだことがあった。
「カメリア様が今度はこの村で連続殺人に挑んでるとききましてね、ぜひお話を聞きたく参上いたしました。」
マイケルはウインクをしておどけてみせた。
軽薄そうではあるが、愛嬌のある青年だ。
カメリアは「あまり似ていないように見えますけれど、横顔がお母様とそっくりですのね。」と声をかけた。
「お母様?」
「あぁ、この事件を担当しているスタンフォード警部補はおれの母なんです。」
名字が同じであるのに、へらりと笑うマイケルと厳格なスタンフォード警部補の印象が違いすぎて気が付かなかった。
言われてみれば横顔の輪郭は確かに親子であるとわかる。
「この村で起きた事件について、カメリア様のお考えをぜひお聞かせください。」というマイケルに、カメリアは「確信のないまま軽率な発言をすることは控えさせていただきますわ。」と断る。
「まぁ待ってください。
おれはこの事件に関する有力な情報をもってきたんですよ。
ね、聞いてください。」
マイケルは皮のバックから封筒を取り出した。
「これはね、つい先日うちの編集部に届いたものなんです。
投函日は一週間前、事件が起こる直前です。
差出人を誰だかご覧になってください。」
マイケルの差し出す封筒に書かれていた差出人の名前に私は驚愕した。
そこには、ヘレナ・フォン・バスカビルと書かれていた。
「これは最初の被害者ヘレナ・フォン・バスカビルが死の直前に書いた手紙なんですよ。」




