表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

第4話 神の盲点

調停ドローンが一歩近づくたび、関節部のわずかな駆動音が部屋の空気を引き締めていく。

青い光点が胸元を正確に測り、無表情に告げた。


「スキャンを開始します。動かないでください。」


フレークは掌の中。

“鍵”のデータは義体内部に展開されている。

どちらも奪われるわけにはいかない。


脅威は目の前。

だが──胸の奥で冷たい“喜び”が形をとり始めていた。


アーク・システムの優先順位は単純だ。


精神衛生 > 物理的安全 > 微細熱源の監視


ならば──

僕が“もっと優先度の高い危険”を、ここで演出すればいい。


ドローンが腕部センサーを展開する瞬間、僕は机の脇へそっと足を伸ばした。

栄養食の加熱ユニット。

旧世紀の仕様だが、管理下の機器なら“合法”だ。


シキは姿勢を変えずに、義体の足先でユニットの裏側に触れた。

内部回路に、ほんのわずかに逆位相の電流を流す。

許容誤差ギリギリの“合法的な不具合”。


ぱちっ──

白い火花が走り、微かな焦げ匂いが空気を刺した。


ドローンの青光が、瞬時に方向を変えた。


「警告:機器のショート反応を検知。火災リスク優先度:高。

 スキャンタスクを一時中断します」


よし。


ドローンは即座に消火プロトコルへ移行し、噴霧ノズルを展開。

細かな霧が室内を漂い、机の下を重点的に処理し始めた。


その隙に、僕は手をゆっくりと膝に落とす。

フレークを義体脚部の“管理外の隙間スロット”へ滑り込ませた。

このスロットを知っているのは、レイナだけだ。

つまり──アークは知らない。


同時に、“鍵”のデータ(K-77_Mourner)は義体内部で暗号化して二重に折り畳む。

アークが検索しても“ノイズ”として扱われる構造だ。


頭にアークの優しい声が降りてくる。


〈不適切な機器操作はあなたの安全を損ないます。

 必要であれば、基礎的な家庭用機器の扱い方について教材をご用意します。

 また、心理的負担の軽減のため、深呼吸を推奨します〉


指導と心配の中間。

怒りも、疑いもない。

ただの“善意”。

だからこそ、不快だった。


ドローンがショートした加熱ユニットの点検に移る。

その動きは無駄がなく、完璧すぎて気味が悪い。


僕の心拍は安定値からわずかに外れていた。

おかげで照明がまた優しくなっていく。


「……過保護なんだよ、お前は」


声に出す必要はないが、口が勝手に動いた。


部屋が静けさを取り戻すと同時に、僕は計画を切り替えた。

もうここは安全じゃない。


外に出る。

非合法ドック──“外側”へ行くための唯一の道。


端末に外出申請を送る。

数秒後、柔らかな通知が返ってきた。


〈シキ・ツキミヤ。

 あなたの幸福度最大化のため、明日から三日間はコロニー内での

 “精神安定プログラム”が自動設定されています〉


画面に並ぶのは、

・同僚との交流会

・推奨趣味リスト

・リラクゼーションエリアの予約枠


完璧。

圧倒的なまでに、甘やかな牢獄。


逃がす気がない。

善意の名で。


「……面白くなってきたじゃないか」


静かな愉悦が胸に広がった。

退屈は、もうどこにもない。


だが次は、

ロジックだけでは突破できない。


物理で動く。

騒がせる。

“外”へ行く。


アーク・システムは、僕を止められると思っている。


その思い込みが、最大の穴だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ