表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

正義の犠牲

よろしくお願いします。

 レミナス村は、血に染まっていた。

 ただし、村人の血ではない。


「二十三人……」


 村長が、震え声で呟いた。


「盗賊団の二十三人を、たった一人で……」


 倒れ伏す盗賊たちは、皆同じように喉を掻き切られていた。

 血は凍り、地面に黒い染みとなって残る。

 炎に焼かれた痕跡も、折れた扉もない。

 まるで“清掃”のような戦いだった。

 だからこそ、恐ろしかった。


 いや、戦いとすら呼べなかった。

 一方的な処刑。

 盗賊たちの顔には、恐怖が貼り付いていた。抵抗する間もなく、理解する間もなく、ただ裁かれたのだ。

 

 アルトは剣を拭いていた。丁寧に、愛おしそうに、まるで恋人の髪を梳くように。


「悪は断たれました」


 一拍の静寂。

 そして、次を問う。


「他に、悪は……?」


 村人たちは顔を見合わせた。

 救われたはずなのに、なぜこんなに恐ろしいのか。

 正義が行われたはずなのに、なぜこんなに寒いのか。


「あ、ありがとうございました」


 村長が、かろうじて礼を述べた。

 アルトは答えなかった。ただ、地平線を見つめていた。

 その視線の先に、世界そのものの罪を見ているかのように。

 村の少女が、母親の袖を引いた。


「お母さん、勇者様は私たちが呼んだの?」


 母親は答えられなかった。代わりに、目を逸らした。

 

 そう、彼女らが呼んだのだ。


 ――誰か助けて、と。


 アルトが立ち去った後、村人たちは集まった。


「あの目……見た?」

「ああ……まるで」

「死んでいるみたいだった」


 老人が杖をついて立った。


「わしらが、あの青年をああしたんじゃ」

「どういうことだ、爺さん」

「三年前を思い出せ。彼が聖剣に選ばれ勇者が誕生した時、何と願った?」


 村人たちは、顔を見合わせた。


「それは……」

「あの青年が、その犠牲じゃ」


 若い母親が、震え声で言った。


「でも、盗賊団は確かに悪党だった」

「そうじゃ。だが……」


 老人は、血溜まりを見つめた。

 読んでくださりありがとうございます。

 ブクマ、評価、感想、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ