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宇宙と傭兵と日日是好日 ~ハードボイルドな日常譚~  作者: 相沢 藍
漂流する過去の破片(フラグメント)
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第七話『追撃のアルテミス』

 巨大な小惑星が視界をかすめるギリギリの軌道をとりながら、スカベンジャーは急速に宙域を駆け抜けた。振り返るまでもなく、連邦軍哨戒艦『アルテミス』が、彼らを捕らえるために猛追してくるのが感じ取れる。


「敵艦、武装システムを起動した! 本気で撃ってくるぞ!」


 フィズが叫ぶように報告した瞬間、船体近くで眩しい閃光が炸裂した。レーザー砲撃が掠めた衝撃が船体を揺らす。


「脅しじゃないってことだな!」


 ルカは悪態をつきつつ、スカベンジャーを旋回させ、小惑星帯の密集したエリアへ潜り込んだ。直径数百メートルの岩塊の合間を縫うように進み、回避しながら敵艦の照準を逸らす。


『スカベンジャー!これが最終警告だ!次は直撃させる!』


 アルテミスの艦長、レイラ中佐の厳格な声が通信を通じて響き渡るが、ルカはもはや耳を貸さない。


「フィズ、ネオン・ハーバーまでの距離は?」


「あと1分で到達可能だ。だが、向こうもそれを分かっているはずだ!」


「ギリギリまで粘るぞ!」


 ルカは機動力を最大限に発揮させ、小惑星の間を極限速度で駆け抜ける。背後のアルテミスも巧妙に小惑星群を避け、懸命に距離を詰めてきた。さすがに軍の艦長だけあって操縦士の腕も良いようだ。


「ルカ、このままだと到達前に捕捉される!」


 フィズの焦った声に、ルカは一瞬で決断した。


「仕方ない、切り札を使うぞ。エネルギーセルを一基、船尾に排出しろ!」


「そんなことしたら予備エネルギーが……」


「いいからやれ!」


「了解!」


 フィズが操作すると、スカベンジャー後部から高エネルギーを蓄えたセルが投棄され、小惑星帯を漂った。それを確認したルカはすぐにトリガーを引き、排出したセルを狙ってパルスレーザーを撃ち込んだ。


 セルは派手な閃光と共に爆発し、その衝撃波が後方の宙域を一瞬にして飲み込んだ。アルテミスは衝撃を受け、コースが大きく逸れる。


「やったか!?」


 フィズが興奮気味に叫ぶ。


「完全に止めるのは無理だが、数十秒は稼げる!」


 ルカはその隙にスカベンジャーを全力加速させ、小惑星帯を抜けた。その先にはネオン・ハーバーのドックゲートがすぐ目前に迫っていた。


「こちらスカベンジャー!緊急着艦を要請する!」


 ルカが急ぎ管制に通信すると、驚いた管制官の声が返る。


『スカベンジャー、どうしたんだ?そんな速度で接近すると……』


「すぐ後ろに連邦軍が迫ってる!ゲートを開けろ!」


『わ、分かった!』


 管制の焦った返答が終わると同時にゲートが開放される。スカベンジャーは猛スピードでゲートに滑り込み、急激な減速で船内は大きく揺れた。無理やり船を停止させると、ルカは深い息を吐き出した。


「アイラ、生きてるか?」


「ええ、なんとかね……」


 アイラの返事には明らかに緊張が滲んでいる。ドックの外では、アルテミスがステーションの外縁で動きを止めている。さすがに連邦軍でも、民間のステーションに武力行使は簡単にはできないのだろう。


「問題は解決してないが、ひとまず命は助かったな」


「そうだな、だがすぐに軍の追手がここに来るだろう」


 フィズの冷静な指摘に、ルカは苦々しく顔を歪めた。少なくとも船を降りる前に、何かしら手を打つ必要がある。


「アイラ、この積荷の雇い主は誰だ?」


「エイヴリー・マクスウェルという企業家よ。ネオン・ハーバーに到着したら彼が直接受け取りに来ることになっていたわ」


「マクスウェル……聞いたことあるぞ。あの怪しげな技術開発企業のトップだな」


「そうよ。彼が今回の取引を取り仕切っている」


 ルカは無言で頷いた。だとすれば、この積荷は軍の機密を巡る企業間の裏取引に巻き込まれている可能性が高い。これ以上関わり続けるのは危険だが、途中で放り出すわけにもいかない。


「フィズ、マクスウェルに連絡を取れ。急がないと、アルテミスが直接介入してくるぞ」


「了解した」


 フィズが通信を試みる中、格納庫ゲートが大きく開き、数人の警備員が入ってきた。その中心に立つ、落ち着いた身なりの中年男性が、こちらへゆっくりと歩いてくる。


「あれがマクスウェルだな」


 ルカは静かに呟いた。


「ようこそネオン・ハーバーへ、ルカ・ヴァレンタイン船長。それと、アイラさんも」


 マクスウェルは落ち着いた笑みを浮かべながら告げた。


「ご挨拶はいい。状況は分かってるだろ?すぐに積荷を引き渡すから、俺たちを巻き込むのはやめてくれ」


「申し訳ないが、それはできない」


 マクスウェルは柔らかい口調で言ったが、その目には鋭い光が宿っていた。


「なぜだ?」


「君たちはもう巻き込まれている。積荷を運んだ以上、責任は共に背負ってもらう」


 ルカは舌打ちをした。予想通り、厄介ごとはまだまだ続くようだ――。

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