表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙と傭兵と日日是好日 ~ハードボイルドな日常譚~  作者: 相沢 藍
漂流する過去の破片(フラグメント)
5/30

第五話『デブリの狩人』

 小惑星の陰に身を潜めたスカベンジャーは、息を殺して敵の接近を待ち構えた。ルカは深呼吸をして精神を集中させ、手慣れた動作で武装システムをオンラインにする。


「武装システム、起動完了。パルスレーザー砲、照準合わせ完了」


 フィズが淡々と報告をあげる。船内に微かな振動が伝わり、主砲が準備を整えたことを知らせた。


「よし、出方を見るぞ」


 ルカが呟くと、背後の客室からアイラが不安そうな声を送ってきた。


「敵は三隻よ。大丈夫なの?」


「三隻なら何とかなる。あんたはシートに座って、どこか掴まってろ!」


 ルカは強い口調で言い放つと、操縦桿を握り締め、スロットルを前へ押し込んだ。


 敵の攻撃艇は慎重にスカベンジャーの姿を探している。だが、ルカには地の利があった。小惑星帯やデブリが散乱した宙域は、彼にとって馴染みのある遊び場に等しい。


「目標補足、敵一番機。左舷下方から接近中」


 フィズが正確な位置情報を提供する。ルカはにやりと口元を歪め、攻撃タイミングを計る。


「射程距離まで……5秒」


「3秒で撃つ!」


「了解、3、2、1……」


 カウントダウンが終わる前にルカはトリガーを引いた。スカベンジャーの船首から眩い閃光が放たれ、パルスレーザーの熱線が敵船のシールドを貫通した。


 敵一番機が一瞬で爆発し、破片が宙域に散乱する。残った二隻が即座に反撃態勢を取り、レーザー砲撃を繰り出してきた。


「敵二番機、三番機が高速でこちらに向かっている」


「振り切る!」


 ルカは機動力を活かし、再びデブリ帯へ突入した。敵の攻撃が四方八方から襲いかかるが、スカベンジャーは小惑星の間を絶妙な角度で抜け、追尾する敵を翻弄する。


「ルカ、右舷側に敵二番機接近!」


「知ってる!」


 ルカは即座に船体を横に滑らせ、小惑星の直後に身を隠すと、追いかけてきた二番機は勢い余って障害物に激突し、爆発した。


「さすがだ!」


 フィズが喜ぶように言う。


「油断するな、まだ一隻いる!」


 ルカが叫ぶが、その瞬間、三番機からのレーザー砲撃がスカベンジャーの船尾を掠める。船内に警報が響き渡り、コンソール上にダメージ警告が赤く点灯した。


「船尾に軽微な損傷!エンジン出力、5%低下!」


「クソ、やりやがったな!」


 ルカは怒りをあらわにすると、スカベンジャーを反転させ、真っ向から敵機と対峙した。お互いが一直線に向かい合う形で、距離を詰める。先に動いた方が負ける――宇宙空間では、瞬きほどの一瞬が生死を分ける。


「衝突まで5秒……3、2……」


「今だ!」


 ルカはトリガーを引き、同時に船体を回転させて敵の攻撃を回避した。スカベンジャーのレーザーは寸分の狂いなく敵三番機のコックピットを撃ち抜き、機体が爆発する。


 操縦席に緊張した静寂が戻り、ルカは深く息を吐き出した。


「敵機撃墜、宙域に他の脅威はなし」


「状況確認しろ、すぐに離脱するぞ!」


 ルカが命じると、フィズが各種センサーを走らせて宙域の安全を再確認した。


「問題ない、宙域クリアだ。周囲に他船の反応なし」


 その報告を聞き、ルカはようやく操縦桿を握る手の力を緩めた。後方の客室から安堵の息を吐くアイラの声が通信越しに聞こえる。


「ありがとう、助かったわ」


「礼を言うのはまだ早いぜ。積荷の件、ちゃんと説明してもらおうか?」


 ルカの声には鋭い緊張感が戻っていた。アイラは短い沈黙のあと、小さく溜め息をつくと、静かに言った。


「私も詳しくは知らないの。ただ、軍用の何かを運んでいると聞いただけよ。雇い主からはそれ以上聞かされていないわ」


「軍用物資か……そりゃ海賊が目をつけるわけだ」


「これで話は終わり?」


「いや、俺の仕事はまだ終わっちゃいない。この積荷をネオン・ハーバーまで運びきって、初めて報酬がもらえる」


 ルカは苦笑を浮かべながら、スカベンジャーの航路をネオン・ハーバーへと設定した。


「フィズ、ネオン・ハーバーへ最短ルートで帰還するぞ」


「了解」


 ルカが一息ついたその時、フィズが不意に低い声を出した。


「ん?どうした?」


「敵船の破片の中に妙な信号を受信した。解析中だが、これは……」


 フィズの言葉に、ルカの背筋が凍った。


「何だ?」


「おそらく敵船は無人の遠隔操縦だ。つまり、襲撃してきたのはただの兵器で、誰かが遠くから操っている」


「なんてこった……」


 ルカは額に手を当てて目を閉じる。厄介事が再び彼の背後に迫っているのを感じた。

お気に入り登録や感想をいただけると、すごく励みになります

どうぞ、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ