第四話『廃墟の呼び声』
スカベンジャーが宙域を滑るように抜けると、小惑星群の向こうに不気味なシルエットが姿を現した。
廃棄された宇宙コロニー『クロノス-7』――巨大なリング状の構造物は朽ち果て、内部の都市構造は荒廃している。かつては数万人が暮らした場所だが、今はただの宇宙ゴミと化していた。微かな星の光が廃墟を青白く照らし、その姿はまるで幽霊船のようだ。
「何度見ても気味の悪い場所だな」
ルカは嫌悪感を隠さず呟いた。
「生命反応、ゼロ。熱源反応も確認できない。今のところ不審船もなし」
フィズが冷静に報告するが、ルカの神経は研ぎ澄まされていた。こういった廃棄コロニーは、海賊や密輸業者の拠点として使われやすい。
「私の船はリング内部に入ったところで漂流しているはずよ」
アイラが通信回線を通して告げる。ルカは短く頷き、スカベンジャーを慎重に加速させた。
リング状のコロニー内部へ入ると、人工重力を発生させていた装置はすでに機能を停止しており、瓦礫や無数の破片が漂っている。スカベンジャーはそれらを回避しながら、ゆっくりとアイラの船を探し始めた。
「位置特定できたぞ。あれだ」
フィズの案内に従い、ルカが視線を向けると、薄暗い空間に浮かぶ中型貨物船が確認できた。推進器の周辺には外傷がないが、明らかに機能を停止している。
「フィズ、周辺にトラップや罠は?」
「検出できないが、妙に静かすぎるな」
「気を抜くなよ」
ルカは慎重にスカベンジャーを貨物船の横に接近させ、磁力フックを使ってドッキングすると、完全停止した船内に移った。
「船内は真空状態。生命維持もオフライン」
フィズが報告すると、ルカはヘルメットを被り、無重力空間に慣れた動きで貨物船内へと入る。内部は真っ暗で、ヘッドライトの光だけが頼りだ。
「アイラ、積荷のコンテナの場所は?」
「船尾の倉庫スペースよ。番号は『C-117』」
「了解」
ルカは警戒しつつ、狭い通路を倉庫へ向けて進んだ。通路の壁には異常な損傷はなく、アイラの言ったとおり攻撃されたようには見えない。しかし、どこか違和感を覚える。
「妙だな……」
「何か気付いたのか?」
「いや、特に問題がないのが逆に気になる」
ルカは眉を寄せながら、船尾の倉庫スペースへ辿り着いた。扉を開くと、整然とした貨物コンテナが並んでいる。目的の『C-117』もすぐに見つかった。彼は慎重に近づき、スキャナーで内部を検査した。
「コンテナ内部に反応はなし。中身の危険性もなさそうだな」
「じゃあ回収して戻ってきて」
アイラの指示に従い、ルカが磁力クランプを使ってコンテナを動かそうとしたその瞬間だった――。
「ルカ、急げ! 不明船が高速で接近している!」
フィズの警告がインカムを震わせる。同時に、船内を衝撃が揺らした。
「くそ、海賊か!」
ルカは急いでコンテナを引っ張り、無重力状態を利用して勢いよく貨物船を出る。スカベンジャーに戻った彼の目に、リング外から接近する数隻の小型攻撃艇が映った。
「まずい状況ね」
アイラの声も、さすがに硬い。ルカはすぐにスカベンジャーの操縦席に戻り、船を緊急切り離して、エンジンを最大出力にする。
「アイラ、お前の積荷、ずいぶんと人気みたいだな!」
「説明は後よ!」
ルカは悪態をつきながら、スカベンジャーを一気に加速させる。だが敵の攻撃艇も相当な速度で接近してきた。
「回避運動開始!」
フィズが叫び、ルカは巧みな操縦で宇宙船を旋回させ、小惑星や漂流物の隙間をすり抜ける。レーザー砲撃が周囲をかすめ、彼の顔に冷たい汗が流れた。
「なんてこった……楽な仕事だと思ったのに」
「君は最初から楽だなんて思っていなかっただろう?」
「ちげえねえ!」
ルカは操縦桿を握る手に力を込める。彼はスカベンジャーを小惑星の陰に滑り込ませ、敵の視界から一時的に姿を消した。
「次の策は?」
フィズが冷静に問いかける。
「ここから反撃だ!」
ルカは不敵に笑い、小惑星の陰に潜みながら攻撃艇に狙いを定めた――。
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