第三話『スカベンジャー出航』
本日三話更新予定ですのでよろしくお願いします。(3話目)
ネオン・ハーバーの格納庫エリアは、広大な空間に無数の船舶がひしめき、各種整備用ロボットや作業員たちが忙しなく動いていた。その喧騒の一角に、年季の入った銀色の小型宇宙船が鎮座している。
『スカベンジャー』――ルカの相棒とも言える船だ。
元々は軍用の哨戒艇で、速度と機動性に優れているが、過去に何度も戦闘や事故を経験してきた。船体には傷跡や応急修理の痕が多数あり、見る者に『よく動いているな』と思わせるような状態だが、整備には手を抜いていない。性能には絶対の自信があった。
「おいフィズ、積荷スペースは確保できてるか?」
船の脇でコンテナ類を整理しながら、ルカが声をかける。
「問題ない。念のため予備のエネルギーセルも積んでおいた」
「さすがだ。お前がいてくれて助かるぜ」
「普段からもう少し感謝の言葉をくれてもいいんだが?」
ルカは軽く肩をすくめて微笑んだ。その時、背後でヒールの足音が響き、アイラが格納庫の入口から歩いてきた。
「時間ぴったりか。意外と几帳面なんだな」
「女性を待たせる男は信用できないでしょ?」
アイラは余裕のある表情で微笑むと、スカベンジャーをまじまじと眺めた。船体の傷跡に気づいたのか、興味深げな視線を送ってくる。
「ずいぶん歴戦の船のようね。大丈夫かしら?」
「見た目より頑丈だぜ。荒れた宙域ほど、この船の真価が分かる」
「それは楽しみね」
ルカはハッチを操作し、船内へ案内した。内部は外観同様、決して広くはないが、整然と機器や工具が配置されている。コクピットには操縦席が二つあり、主にルカが操縦し、フィズがサポートを担当している。
「後部の部屋を使ってくれ。快適さは期待しないでほしいが」
「ありがとう。十分よ」
アイラは船内を一通り見渡すと、後部の客室へと向かった。
その後ろ姿を見送ったフィズが、小声でルカに問いかけた。
「積荷の件、彼女は本当に全てを伝えていると思うか?」
「まさか。だが、こういう仕事に秘密がつきものだ」
「そうだな。気を付けろよ」
「ああ」
短いやりとりのあと、ルカは操縦席へ向かい、各システムを起動した。スカベンジャーの心臓部にエネルギーが満ち、低い唸りをあげてエンジンが動き出す。
『ネオン・ハーバー管制よりスカベンジャーへ。出航準備完了を確認しました。Dゲートを開放します』
「スカベンジャー了解。出航する」
ゲートがゆっくりと開き、ステーションの外に星々が広がる。その景色は何度見てもルカを興奮させた。
「クロノス-7へのルートを表示する」
フィズがナビゲーションを起動すると、コクピット前方に宇宙空間のホログラム地図が展開される。
クロノス-7はネオン・ハーバーからそれほど遠くない宙域に位置するが、ルート上には小惑星帯や漂流デブリが多い。海賊や違法業者が隠れやすい地形だ。
「面倒な道だな」
「君はむしろ、そういうのが好きだろう?」
「お前、俺のことよく分かってるじゃねえか」
ルカは苦笑しながら操縦桿を握り締めた。スカベンジャーが静かにゲートから滑り出し、宇宙空間へと加速を開始する。
加速のGが船体を包むが、安定した慣性制御のおかげでほとんど振動を感じない。船は宙域の隙間を縫うように滑らかに進んでいく。
「ところでアイラ。君の船がクロノス-7で故障した原因は何だ?」
後方の客室と通信回線を繋いで、ルカは何気なく問いかけた。
「正確には分からないけれど、推進装置が急に動かなくなったの。原因不明のトラブルよ」
「原因不明ね……何かに攻撃された形跡は?」
「外傷は特になかったわ。突然すべてのシステムが停止して、そのまま漂流することになった」
アイラの声には、明らかに戸惑いが滲んでいる。嘘ではなさそうだった。
だがルカには、嫌な予感が背筋を走る。
「フィズ、周囲に警戒を。クロノス-7付近に到着する前に、不審な船影があればすぐ報告しろ」
「了解だ」
「心配性なのね」
アイラが軽く冗談めかして言ったが、ルカの返答は真剣だった。
「宇宙で長生きするには心配性くらいがちょうどいいんだよ」
ルカの表情は冗談のかけらもないものだった。
スカベンジャーは宙域の深部へと滑るように航行を続ける。やがて小惑星群が視界を覆い、廃棄されたコロニー『クロノス-7』が、微かに姿を現し始めた――。
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