第三話『覚醒の予兆』
ステーション内部は重く不気味な振動に包まれていた。壁や床が微かに揺れ、古びた金属が悲鳴を上げるように軋む。照明は明滅を繰り返し、薄暗い影を不安定に揺らしていた。
「何が起こっているんだ?」
カイルが緊張した口調で周囲を見回す。
『ステーション全体でエネルギー反応が急激に上昇しています。何らかのシステムが再起動しているようです』
フィズの冷静な報告が一同をさらに緊張させる。
「『目覚めさせてはならない』ってのはこれのことか……?」
ディランが小さく呟くと、ルカは静かに頷いた。
「ああ、どうやら俺たちは地雷を踏んじまったらしい」
その時、制御室内のメインコンソールが突如として激しく明滅し、部屋全体に機械音声が響き渡った。
『起動シークエンス完了。封印解除プロセス開始』
「封印解除……? 一体何を封じてたんだ?」
アイラが緊迫した声で呟く。
「いい予感はしないな。止める手立ては?」
『中央コンソールからの停止は困難です。より上位の管理端末を探す必要があります』
フィズの報告を聞き、ルカは決断を下した。
「ここを出て、ステーション最深部に向かうぞ。そこなら何かが分かるかもしれない」
一同は頷き、急いで中央制御室を飛び出した。
通路を進むにつれ、囁き声は次第に大きく鮮明になり、不気味さを増していた。言葉にならないその声は、心の奥底に直接響くような奇妙な感覚を呼び起こす。
「気分が悪いな……この囁き声」
ディランが苛立ちを隠さず呟く。
「まるで何かが俺たちに語りかけてるみたいだ」
カイルもまた、居心地の悪さを感じていた。
「気をしっかり持て。何が待ち受けているかわからないぞ」
ルカの言葉に全員が緊張感を高め、慎重に進む。その時、通路の途中で小さな端末を発見したアイラが声を上げた。
「待って、何かデータが残ってる!」
アイラが端末を操作すると、かろうじて生きていた記録映像が再生された。数百年前の施設職員らしき人物が焦った表情で何かを語っている。
『――研究対象が制御を超えた。我々は彼らを封じ込めようとしたが、すべて失敗に終わった。彼らは我々を超えた存在だ……。ここはもう安全ではない。これを聞いた者がいるなら、直ちにこの場所から立ち去れ!』
そこで映像は途切れた。
「彼ら……か」
ルカが眉間に深く皺を寄せた。
「古代文明が発見した何かをここで研究していたみたいだな」
「そして、それを封じ込めることができなかった……」
アイラの声は震えていた。
「ともかく、立ち去るには遅すぎる。とにかく封印を再構築するか、少なくとも事態を止める手がかりを掴まないと」
一同は再び足を進めた。
ステーションの最深部には、厳重に封鎖された隔壁があった。その隔壁には何重もの警告表示が施され、明らかに重要かつ危険な何かが内部に眠っていることを示していた。
「ここか……」
ルカは隔壁の制御パネルに近づき、慎重に起動を試みた。パネルは古代の文字で書かれた表示を明滅させる。
『警告――内部封印中の存在は極めて危険。封印解除は絶対に禁止』
「封印中の『存在』か……」
「どうする?このまま放置するか?」
カイルが慎重に問うが、ルカは首を横に振った。
「もう封印は崩れ始めている。このまま放置しても結果は変わらない。俺たちが止めるしかない」
仲間たちは無言で頷いた。
ルカがパネルを操作すると、重い音とともに隔壁がゆっくりと開き始める。内部から吹き出してきたのは、氷のように冷たい空気と、それに混じった不気味な囁き声だった。
「入るぞ。何があっても油断するな」
ルカは銃を構え、ゆっくりと隔壁の向こうへと足を踏み入れた。仲間たちも慎重にその後に続く。
隔壁の向こうには、巨大な円形のホールが広がっていた。その中央には巨大なガラス状の円柱が立っており、その中には奇妙に歪んだ人型の影が封じ込められているように見えた。
「あれは……何だ?」
ディランが驚愕の声を漏らした。
『古代文明が「彼ら」と呼んだ存在でしょう。封印装置の内部に生命維持システムが稼働しています』
「まだ生きてるってことか……?」
「生命維持システムが稼働しているなら、間違いなくそうでしょうね」
アイラが答え、ゆっくりと円柱に近づいたその瞬間、ガラス内部の影が突如として動き始めた。
「おい、動いたぞ!」
ディランの叫びに、全員が銃を構え直した。
『封印システム、限界に達しました。隔壁が自動的に閉じられます』
フィズの声が響くと同時に背後の隔壁が閉ざされ、一行は円形ホール内に閉じ込められた。
円柱のガラスは急速にひび割れ、内側の影がゆっくりと明瞭な形を取り始める。
「目覚めたか……!」
ルカは冷や汗を浮かべながらも、冷静に銃を構えた。
ガラスが完全に砕け散り、中から現れた影は、明らかに人間とは異なる何かだった。鋭い瞳は深紅に輝き、不気味なエネルギーを纏っている。
「侵入者か……」
低く響くその声は、人の心を直接掴むような響きを持っていた。
「ここからは逃がさない」
一行は、この未知の『存在』と対峙しながら、自らが引き起こした事態に立ち向かう覚悟を決めたのだった――。
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