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宇宙と傭兵と日日是好日 ~ハードボイルドな日常譚~  作者: 相沢 藍
忘却のステーション(ステラ・オブリビオン)
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第一話『闇に浮かぶ遺物』

 辺境宙域の闇は深く、星々の光さえもどこか心細く見えた。


 スカベンジャーの操縦席で、ルカ・ヴァレンタインはじっと前方スクリーンを眺めていた。銀河を揺るがす陰謀を解決した後、彼らは久しぶりに穏やかな旅路を過ごしている。


「珍しく静かだな……」


 操縦席の横でディランがコーヒーをすすりながら呟いた。


「ああ、悪くない。ただ、こう静かすぎると逆に落ち着かないが」


 ルカは軽く苦笑すると、航路モニターに視線を戻した。


『現在の宙域にて、航路マップに記載されていない未確認の人工物を検知しました』


 フィズの静かな声が響いた。


「未確認の人工物?」


『大型宇宙ステーションのようです。稼働している気配はありませんが……』


「位置は?」


『航路上から約5万キロ地点。探査してみますか?』


 ルカは迷わず頷いた。


「面白そうだな。進路をそっちに向けてくれ」


『了解しました』


 スカベンジャーは推進エンジンを静かに唸らせ、未知の人工物がある宙域へと進路を変更した。


 数十分後、スカベンジャーの前方に巨大な影が浮かび上がった。

 長年放置されたのだろう、表面の金属は劣化し、ところどころ剥がれ落ちている。所々に見える窓は暗く閉ざされていた。


「これはかなり古そうだな……」


 カイルが窓越しに見て呟く。


「見たところ、二百年、いや三百年は経っているかもしれない」


 アイラが慎重に推測すると、ディランが腕組みをしながら唸った。


「記録にないステーションか。こんなところに放置されてるとは不気味だな」


「それだけに興味深い」


 ルカは微かに笑い、操縦桿を軽く握り直した。


「フィズ、ステーションの名称や記録は何か出てくるか?」


『少々お待ちください……。解析完了。僅かにデータが残っていました。「ステラ・オブリビオン」という施設名です』


「ステラ・オブリビオン……『忘却の星』か。いかにもな名前だな」


 ルカは小さく呟くと、仲間たちに向かって告げた。


「ここを探索する。安全には十分注意しろ」


「了解」


 一同が頷き、スカベンジャーはステーションのドックエリアへとゆっくり近づいた。


 ステーションのドックエリアは不気味なほど静まり返っていた。


 船を着艦させ、宇宙服を着用したルカたちは慎重に船外へと降り立った。無重力の空間には浮遊する機械の破片や、破損した貨物箱が散らばっている。


「妙だな……。まるで急いで逃げたみたいだ」


 カイルが漂う貨物箱を手で押しながら呟いた。


「確かに。何かがあって、急に放棄されたのかもしれない」


 アイラが慎重に周囲を見回す。


 ルカは通路入口の制御パネルに近づき、ゆっくりと操作を始めた。古びたパネルは埃を被り、数百年分の経年劣化が進んでいたが、幸いにも非常電源が残っており、ドアがわずかに開いた。


「行けるぞ。だが、何があるか分からない。気を抜くな」


 ルカは懐中電灯を掲げ、仲間を促した。


 内部は薄暗く、通路の両脇には古びた機械が乱雑に放置されていた。微かな非常灯だけが通路を照らし、無数の影を生み出している。


「人がいた痕跡はあるな……」


 ディランが壁に刻まれた古いメモを指でなぞった。


「『助けてくれ』……か。嫌な感じだな」


「ここで何が起きたのかしら?」


 アイラが不安げに呟くと、その時、奥の方で微かな音が響いた。


「今のは?」


 全員が銃を構え、通路の奥に目を凝らした。


『生命反応はありません。しかし、微弱なエネルギー反応を検知しました』


 フィズの報告に、ルカは眉をひそめた。


「何かまだ動いているってことか」


「防衛システムの可能性があるな」


「油断するな」


 ルカが慎重に歩を進めようとしたその瞬間、通路の両脇に設置されていた古い防衛タレットが突如として稼働し、銃口を向けてきた。


「伏せろ!」


 ルカの鋭い叫び声に、全員が床に伏せた。その直後、激しいレーザーが通路を駆け抜ける。


「やっぱり動いてるじゃねえか!」


 ディランが悪態をつきながら銃を構え直した。


「止めないと先に進めない。破壊するぞ!」


 ルカが叫び、仲間たちは即座に反撃を開始した。銃撃音と閃光が通路内を埋め尽くす。


 防衛システムとの激しい応酬が数分続いた後、ようやくタレットが完全に沈黙した。


「最初から歓迎されてないみたいだな」


 ディランが疲れた表情で呟く。


「だが、ここに何かがあることは確かだ。行くぞ」


 ルカは再び懐中電灯を掲げ、さらに通路の奥へと進んだ。


 彼らの足音が闇に響く中、壁には古代の文字で何かが書き込まれている。かすれたその文字は、まるで警告のようだった。


『目覚めさせてはならない』


 ルカはそれを見て足を止め、眉をひそめた。


「目覚めさせるな、か……。何が眠ってるんだ?」


 その問いに答える者は誰もいない。

 ただ闇の奥から、微かな囁き声だけが響いていた。

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