第一話『動き出す運命』
ブラック・ネブラの静寂が、スカベンジャーの船内に広がっていた。
ルカは操縦席で目を閉じ、来たるべき戦いに向けて心を静めている。長い逃亡生活の中で、初めて自らの手で戦いを終わらせる機会が訪れようとしていた。
「調停官から緊急通信だ」
フィズの静かな声に、ルカはゆっくりと目を開け、コンソールの通信スイッチを押した。
「クレイン調停官、こちらルカだ。状況は?」
『緊急事態です。連邦軍が特務艦隊を動員して、エリュシオンへの攻撃を開始しました。彼らは何としても証拠公開を阻止するつもりです』
クレインの声はいつになく焦りを帯びていた。
「エリュシオンは持ち堪えられますか?」
『防衛部隊が交戦中ですが、連邦軍の攻勢が激しく、長くは耐えられません。至急援護が必要です』
「了解しました。俺たちもすぐに向かいます」
『感謝します。急いでください』
通信を終えると、ルカは仲間たちに素早く指示を出した。
「エリュシオンが襲撃されている。連邦軍が最後の手段に出たようだ」
「奴らも追い詰められているってことだな」
ディランが皮肉げに笑いながら言うと、カイルは静かに頷いた。
「だがその分、奴らは手段を選ばない。厳しい戦いになるだろう」
「私たちがここで止めるしかないわ」
アイラが決意に満ちた目で言うと、ルカも力強く頷いた。
「フィズ、進路をエリュシオンにセットしろ。全速で急行するぞ」
『了解、進路設定完了』
スカベンジャーはエンジンを最大出力まで高め、濃密なブラック・ネブラを一気に離脱した。漆黒の雲を抜けた瞬間、鮮やかな星々の光が船体を包み込むように広がった。
一方、銀河の中心近くに位置する巨大宇宙ステーション『エリュシオン』では、防衛艦隊が懸命な防衛戦を繰り広げていた。
連邦軍特務艦隊は容赦なく攻撃を続け、エリュシオンの防衛シールドが悲鳴を上げるように点滅を繰り返している。
「シールド出力低下!第3、第7防衛エリアが突破されています!」
司令室内に響く報告に、クレイン調停官は険しい顔を崩さずに指示を出し続ける。
「第5艦隊を前線に展開、可能な限り敵を牽制するように!」
「しかし、敵の攻撃が激しく、各所で損害が出ています。このままでは持ちません!」
「安全保障局の援軍は?」
「あと20分で到着します」
「20分……長いな」
クレインは小さく呟き、固く握った拳を震わせた。
「調停官、ヴァレンタイン船長のスカベンジャーがこちらへ向かっているとのことです!」
オペレーターの報告に、クレインはわずかに表情を緩める。
「彼らが間に合うまで、何としても耐え抜くのだ」
同時刻、連邦軍特務艦隊の旗艦『アルテミス』のブリッジでは、レイラ中佐が冷徹な視線で戦況を見つめていた。
「エリュシオンの防衛線はあとどれだけだ?」
「あとわずかです。安全保障局の艦隊が到着する前に突破できるでしょう」
「急げ。証拠が公開されれば我々に未来はない」
レイラは鋭く言い放つと、オペレーターが新たな情報を伝えた。
「報告します。スカベンジャーが急速にエリュシオンへ接近中です」
「ヴァレンタインか……やはり来たな」
「どうしますか?」
「迎撃する。奴を生かしておけば必ず禍根になる」
レイラは冷たい口調で命令を下した。
一方、マクスウェル・コーポレーションの旗艦では、マクスウェルが不敵な笑みを浮かべていた。
「状況は?」
「連邦軍がエリュシオンへの攻撃を開始しました。我々も動きますか?」
「いや、軍が我々の手を汚してくれるのなら、それを見守るのが得策だ」
マクスウェルは静かに続ける。
「だがヴァレンタインは必ずエリュシオンへ現れるはずだ。彼が到着したタイミングで、我々も動く。兵器の準備を急げ」
「超光速無人攻撃機の発進準備、整っています」
「よろしい。彼には最も相応しい死を与えよう」
その頃、スカベンジャーは急速航行を続け、エリュシオン宙域に近づきつつあった。
ルカはモニターに映る激しい戦闘の様子を見つめ、表情を引き締めていた。
「状況は最悪だな」
「でも安全保障局の援軍も向かっている。あと少し耐えれば反撃できるはずだ」
アイラがルカを励ますように言うと、彼も頷いた。
「それまでは俺たちが耐えるしかない。敵は必ず俺たちを狙ってくる。覚悟しておけよ」
ルカの言葉に全員が静かに頷いた。
「接近する敵艦を検知!」
フィズが鋭く警告を発した。モニターにはアルテミスを筆頭に連邦軍艦隊が迫りつつあるのが映し出されている。
「来たな、連邦軍」
「正面突破するのか?」
ディランが緊張した声で尋ねる。
「それしか道はない。全力で突破するぞ!」
ルカは操縦桿を強く握り、スカベンジャーの推力をさらに高めた。
宇宙空間には無数のレーザー砲撃が乱舞し、スカベンジャーの船体を掠めていく。
「突破できるのか!?」
「やるしかない!」
ルカは鋭く叫び、巧みな操縦で砲撃の間をすり抜けていく。だが敵の猛攻はさらに激しさを増し、スカベンジャーは次第に追い詰められていく。
その時、エリュシオンの防衛艦隊から通信が入った。
『こちら防衛艦隊。援護射撃を開始する。ヴァレンタイン船長、そのまま直進してください!』
「助かる!」
防衛艦隊の援護射撃が連邦軍を牽制し、スカベンジャーはその隙を突いて防衛ラインを突破し、エリュシオンへと向かう。
「もうすぐだ!」
ルカは叫びながら、エリュシオンへと操縦桿を押し込んだ。彼らの運命を決する戦いの舞台は目前だった――。
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