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宇宙と傭兵と日日是好日 ~ハードボイルドな日常譚~  作者: 相沢 藍
錆びついた記憶の鎖(チェイン)
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第七話『迫りくる脅威』

 ステーションの宿泊施設内に警告音が響き渡った。窓の外にはオルフェウス・ステーションの防衛シールドが起動し、透明な障壁が青白く発光しているのが見えた。


『警告。ステーション宙域に敵性艦艇が接近しています。住民の皆様は直ちに避難してください』


 施設内に冷静な女性の合成音声が響き渡り、人々が慌ただしく動き始めた。


「連邦軍とマクスウェルの艦隊がこんな場所まで押しかけてくるとはな」


 ディランが唇を引き締めて呟いた。


「彼らは我々が持つ証拠を確実に消し去ろうとしている。それだけ追い詰められている証拠だ」


 カイルは冷静に分析したが、その表情には焦りが滲んでいた。


「クレイン調停官が機構の安全保障局に連絡を取っているはずよ。それまで耐えるしかないわ」


 アイラの言葉にルカは頷き、急いで通信端末でフィズと連絡を取った。


「フィズ、スカベンジャーの状況は?」


『いつでも出られるよう準備完了だ。ただし、この状況で強行突破は難しい。艦艇がステーションを完全に包囲しつつある』


「分かった、待機してくれ。俺たちもすぐに合流する」


 通信を切ると、ルカたちは廊下へ出て、急いでステーション中央部へ向かった。施設内では避難を促す放送が流れ続けている。


* * *


 ステーションの司令センターでは、主任調停官クレインが冷静だが緊迫した表情でモニターを見つめていた。


「敵性艦艇の数は?」


「連邦軍艦艇が三隻、マクスウェルの武装艦が四隻です。ステーションへの攻撃意思を示しています」


 オペレーターの報告を聞き、クレインは苦々しい表情を浮かべる。


「交渉の余地は?」


「こちらの通信には一切応答しません。彼らは我々にルカ・ヴァレンタインとその仲間の引き渡しを要求しています」


「要求は拒否だ。我々は中立機関だ。軍や企業の圧力に屈するわけにはいかない」


 クレインが厳しく言い切ると、司令室の扉が開き、ルカたちが駆け込んできた。


「調停官、状況は?」


 ルカが問いかけると、クレインは振り返り冷静に説明した。


「ご覧の通り最悪の事態です。彼らはあなた方の引き渡しを求めているが、我々としては受け入れるわけにはいかない」


「分かっている。だが、このままじゃステーション全体が危険になる」


「我々も手を打っています。安全保障局の艦隊が援護のため向かっていますが、到着までしばらくかかります」


「時間稼ぎが必要ということか」


 ディランが険しい表情で呟くと、クレインが頷いた。


「ええ。今はとにかく防衛シールドを最大出力にして、彼らを牽制するしかないでしょう」


* * *


 一方、ステーションの外では連邦軍とマクスウェルの艦隊がステーションを挟むように対峙していた。


 アルテミス艦内の指揮官席で、レイラ中佐が冷徹な眼差しでオルフェウス・ステーションを見つめている。


「状況は?」


「マクスウェルの艦隊はステーションを包囲しています。彼らも我々と同様にヴァレンタインの引き渡しを要求しています」


「愚かな連中だ。我々と対立してまであの男を手に入れたいとはな」


 レイラは苛立ちを隠さず言った。


「ステーションから通信です」


「繋げ」


 モニターにクレイン調停官の冷静な顔が映し出される。


『連邦軍アルテミス、こちらは星間調停機構主任調停官オリバー・クレインだ。この行動は中立条約に対する明確な違反だ。即刻退去せよ』


「主任調停官、我々は機密漏洩容疑者の引き渡しを要求しているだけです。協力いただければ速やかに退去します」


『要求は拒否する。我々は中立を守る。強行手段に出るならば、それ相応の対処を取ることになる』


「ならば仕方ありません。こちらにも事情がありますので」


 レイラは通信を切ると、副官に命令した。


「ステーションへの攻撃準備。目標は防衛シールド。まずは圧力をかける」


* * *


 一方、マクスウェルの旗艦ブリッジでも、マクスウェル自身が冷たい表情でオルフェウス・ステーションを見据えていた。


「連邦軍も随分と強引だな。我々の利益を妨げるなら、彼らにも容赦する必要はない」


「しかし、軍と正面からやり合うのは危険では?」


 副官が懸念を口にするが、マクスウェルは冷笑する。


「問題ない。ヴァレンタインが持つデータを奪い返すことが最優先だ。軍は二の次だ」


* * *


 ステーション内では防衛シールドが徐々に圧力を受け始め、微かな振動が施設全体を揺らした。


「シールドが攻撃を受けている。このままじゃ長くはもたない!」


 オペレーターが焦った声を上げる。


「クレイン調停官、我々が脱出すれば彼らも引くかもしれない」


 ルカが言うと、クレインは首を横に振った。


「彼らが欲しいのはデータそのものだ。あなた方が出ても解決しないでしょう」


「ならどうする?」


 ディランが声を荒げると、クレインは静かに答えた。


「時間を稼ぐしかありません。安全保障局の艦隊が到着するまで、耐え抜く必要があります」


 その時、通信が入った。


『こちら安全保障局艦隊。到着まであと10分だ。何とか持ち堪えてくれ』


 その通信を聞き、ルカは深く息を吐いた。


「あと10分か……」


「耐えるしかないな」


 ディランが呟くと、カイルも頷いた。


「こうなったら、徹底抗戦しかない」


 だがその瞬間、強力な砲撃が防衛シールドを直撃し、ステーション全体が激しく揺れた。


「くそっ、早すぎる!」


「彼らは本気だな」


 ルカは操縦席に向かい、フィズに急いで通信を送った。


「フィズ、スカベンジャーを準備しろ!最悪の時は俺たちだけでも離脱する!」


『了解した!』


 施設内に再び警告音が鳴り響き、防衛シールドのエネルギーが急速に低下していることを告げていた。

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