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宇宙と傭兵と日日是好日 ~ハードボイルドな日常譚~  作者: 相沢 藍
錆びついた記憶の鎖(チェイン)
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第六話『オルフェウス・ステーション』

 星間調停機構の管轄する『オルフェウス・ステーション』は、銀河の中央から少し離れた中立宙域に位置する、直径数キロにも及ぶ巨大な施設だった。


 このステーションは、星間紛争の調停や政治的な交渉を中立的に行う場として設置されており、連邦軍でさえ無闇に介入できない特別な場所だ。


「まさか、俺たちがこんな場所に足を踏み入れることになるとはな」


 ルカはスカベンジャーの操縦席に座り、眼前に広がる巨大なステーションを眺めながら呟いた。


「ここなら安全なの?」


 アイラが慎重な口調で問いかける。


「少なくとも、他の場所よりは安全だろう。ここでは連邦軍や企業の影響力は限定的だ。星間調停機構が俺たちの話を聞いてくれるかどうかは別問題だがな」


 ルカが答えると、フィズが通信を取りながら報告を入れた。


『着艦許可が出た。Dドックへ誘導される』


「よし、着艦するぞ」


 ルカはスロットルを軽く操作し、スカベンジャーをゆっくりとドック内部へと滑り込ませた。


* * *


 ドックエリアは驚くほど整然としており、これまで訪れたどのステーションよりも清潔だった。案内係のロボットが丁寧に出迎え、施設の利用方法やルールについて説明を始める。


 だが、ルカの視線はすぐにドックの奥に立つ一人の男に向けられた。短く刈り込んだ髪、引き締まった身体――かつて死んだと思っていた仲間、カイル・ローウェルがそこに立っていた。


「本当に生きていたんだな、カイル」


 ルカが歩み寄ると、カイルは微笑んで手を差し出した。


「ああ、何とか生き延びた。お前も無事で何よりだ」


 二人は固く握手を交わした。横でその様子を見ていたディランが、軽く肩をすくめて言った。


「感動の再会もいいが、時間が惜しいぞ」


「分かってる。すぐに星間調停機構の担当官に会おう」


 カイルが頷き、三人を施設内の会議室へ案内した。


* * *


 会議室には、穏やかな印象の中年男性が一人待っていた。星間調停機構の主任調停官、オリバー・クレインだった。


「よく来てくださいました。私がクレインです」


 穏やかな口調だが、鋭い視線を持った男だった。


 ルカたちはそれぞれ席に座り、ルカが真剣な面持ちで話し始めた。


「俺たちは、連邦軍とマクスウェル・コーポレーションが関与した陰謀の証拠を持っている。数年前の作戦で俺たち傭兵が巻き込まれ、命を奪われた事件の真相だ」


「興味深い話です。その証拠を拝見しましょう」


 クレインは冷静な口調でそう言うと、ディランが慎重にデータドライブを机の上に置いた。


「この中に全てが記録されています」


 クレインはそのデータをタブレットに接続し、ファイルを開いた。画面を注意深く確認していたクレインの表情が徐々に険しくなっていく。


「これは……確かに重大な情報ですね。新型兵器の開発、傭兵の犠牲、連邦軍と企業の裏取引……」


「この陰謀が表に出れば、銀河中が揺れます。それでもこの真実は明らかにされるべきです」


 ルカが力強く言うと、クレインは深く息を吐き出した。


「しかし、これを公開するのは非常に難しいことです。連邦軍と巨大企業が絡んでいるとなると、機構としても慎重にならざるを得ません」


「だからこそ、あんたたちの力が必要なんだ。俺たちだけじゃ手に負えない」


「分かりました。ただ、この問題を正式に取り扱うためには、さらに確かな証拠と内部告発が必要です」


「内部告発?」


 ルカが問い返すと、カイルが静かに口を開いた。


「それなら私が協力できる。私はマクスウェルの組織内部に長期間潜入していた。そこで集めた証拠も提供できる」


 クレインは頷き、慎重に考えをまとめるように言った。


「なるほど。それならば状況は少し変わりますね。ただ、あなた方自身も危険な立場になるでしょう」


「覚悟の上だ」


 ルカの強い口調にクレインは頷いた。


「分かりました。機構は正式な調査を開始します。それまでの間、あなた方には安全な場所を提供しましょう」


* * *


 会議が終わり、ルカたちは割り当てられた宿泊施設へと案内された。落ち着いた環境に身を置くと、彼らはようやく息をつくことができた。


「なんとか最初の一歩は踏み出せたな」


 ディランが安堵の表情を浮かべた。


「ああ、だがまだ安心はできない。連邦軍もマクスウェルも、俺たちを黙って見逃すとは思えない」


「そうね。気を緩めることはできないわ」


 アイラが険しい顔で呟く。


「しかし、星間調停機構を味方につけられれば、少なくとも逃げ続ける日々は終わるかもしれない」


 カイルが冷静な口調で言うと、ルカは頷きながら静かに言った。


「それは助かる。だが、この問題が片付くまでは、俺は落ち着けない。特にマクスウェルにはまだ借りがある」


「それは同感だ」


 カイルが目を細めて言った。


「俺たちが巻き込まれた陰謀、その代償は必ず払わせる」


 静かだが確かな決意を込めて、ルカはそう言った。


 その時、部屋の通信端末が警告音を鳴らし始めた。フィズの声が慌ただしく響く。


『ルカ、大変だ!ステーション外に複数の艦艇が接近中だ!連邦軍とマクスウェルの組織、両方がここに集結している!』


 ルカは唇を噛み締め、拳を握りしめた。


「予想より早く動いてきやがったか……」

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