第五話『亡霊との遭遇』
ルカたちは急いで中央制御室を離れ、無重力状態の縦坑を滑り降りた。壁を蹴りつけながらスピードを上げ、要塞内部の暗い通路を一気に駆け抜けていく。
「連邦軍はあと何分だ?」
ルカが走りながらフィズに尋ねる。
『約3分で要塞宙域に到達する!急げ!』
「くそ、ギリギリだな!」
再びドックエリアに戻った三人は、迅速にスカベンジャーの船内へ駆け込んだ。ルカは操縦席に飛びつき、エンジンの出力を最大まで引き上げる。
「フィズ、ゲート開放! 急げ!」
『了解!ゲートを開放する!』
スカベンジャーの船首前方にドックゲートが開き始めたその瞬間、強烈な衝撃が要塞全体を揺さぶった。
「もう攻撃してきたのか!?」
『いや、まだだ。これは……別の攻撃だ!』
「どういう意味だ?」
『要塞内に別の船が侵入した!連邦軍ではないぞ!』
「何だと?」
ルカがモニターを確認すると、要塞の別のドックエリアから中型の武装船が突入しているのが見えた。その船体には見覚えのある紋章が描かれていた。
「あの紋章……まさか!」
アイラが驚いたように叫ぶ。
「あれはマクスウェルの組織の船だ。こんな場所まで追ってきやがった!」
ルカが苦々しく吐き捨てると、ディランが険しい表情で言った。
「軍とマクスウェルの組織、両方が俺たちを追ってるってわけか!」
その時、スピーカーから緊急通信が入った。聞き覚えのある落ち着いた声が響く。
『ルカ・ヴァレンタイン。まさか、また君とここで会うとはな』
「マクスウェルか!」
『君たちが持っているデータを渡してもらおうか。それを渡せば見逃してやる』
「断る!」
『それは残念だ。では、そこで散ってもらおう』
通信が切れると同時に、武装船はスカベンジャーに向かって一斉に攻撃を開始した。レーザーが壁や床を焦がし、要塞内部は激しく揺れる。
「くそっ、強行突破するぞ!」
ルカは操縦桿を押し込み、ドックゲートから一気に船を加速させた。ゲートを出ると、すぐに激しい砲火がスカベンジャーを襲う。
『連邦軍艦艇も到達した!マクスウェルの船と睨み合っている!』
フィズの報告にルカは舌打ちをした。
「軍と企業が睨み合うとは好都合だ。この隙に離脱する!」
その瞬間、スカベンジャーの進路前方に小型船が一隻現れた。ルカは慌てて回避機動を取るが、通信が即座に繋がった。
『ルカ、聞こえるか?』
「その声……嘘だろ?」
ルカは自分の耳を疑った。その声は、かつて作戦で死んだはずの仲間、カイル・ローウェルのものだった。
『俺だ、カイルだ。久しぶりだな』
「カイル、生きていたのか!?」
『ああ、俺もお前と同じように仕組まれた計画の犠牲者だ。だが今は味方だ。一緒にここから逃げるぞ』
ルカは混乱したが、すぐに状況を判断した。
「分かった、共闘する!」
スカベンジャーとカイルの船は連携し、交戦中の連邦軍艦隊とマクスウェルの組織の戦闘宙域を抜け、素早く離脱した。
宙域を抜け、安全な距離まで離れたところで、ルカは通信を再び開いた。
「カイル、一体何があったんだ?」
『話せば長くなるが、俺はあの作戦後、マクスウェルの組織に囚われていたんだ。奴らは俺たち傭兵を実験材料にして新兵器を開発していた』
「なんてことを……」
『だが俺は脱出に成功した。そして今、その真実を暴こうとしている』
カイルの声は静かで力強かった。
『お前たちがアルカディアで見つけたデータには、その証拠が全て入っているはずだ』
「ああ、データは無事だ。だが、これをどう使う?」
『連邦軍も企業も、どちらも信用できない。唯一信頼できる第三者に渡す必要がある』
「第三者だと?」
『星間調停機構だ。彼らにデータを提供すれば、この陰謀を暴ける可能性がある』
ルカはディランとアイラに視線を向けた。二人は静かに頷いた。
「分かった。どこで合流する?」
『オルフェウス・ステーションだ。そこで待っている』
「了解だ」
通信が終わると、アイラが小さく呟いた。
「複雑になってきたわね」
「だが、進むしかないだろう」
ルカは落ち着いた口調で言った。
「それにしても、死んだと思った仲間が生きていたとはな……」
ディランが苦笑する。
「まったくだ。世の中、何が起きるか分からない」
「だが、真実に近づいているのは確かだ」
アイラの言葉に、ルカは頷いた。
「フィズ、進路をオルフェウス・ステーションにセットしろ」
『了解、進路を設定した』
スカベンジャーは再び加速を始め、闇の宙域を一直線に駆け抜けていく。彼らの目的地『オルフェウス・ステーション』へ向けて――。
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