第四話『廃墟の要塞』
廃墟となったアルカディアの要塞は、静かに宇宙空間に漂っていた。朽ち果てた外壁は至る所で裂け、そこから内部の鉄骨や機械が無残に覗いている。戦闘の痕跡が色濃く残り、宇宙空間には無数のデブリがゆっくりと浮遊していた。
「なんてひどい状況なの……」
アイラはモニターを通して映し出される光景を、言葉を失ったように見つめた。
「まるで墓場だな」
ルカは忌々しげに呟く。視界に広がる破壊の跡は、彼の心を容赦なく締め付けていた。
スカベンジャーは慎重にデブリを避けながら、要塞のドックエリアへと接近を始めた。
「ドックゲートは半壊しているが、かろうじて通れるな」
フィズが報告すると、ルカは操縦桿を細かく調整し、スカベンジャーをゆっくりとドック内部に滑り込ませた。
船が要塞の内部に入ると、内部は闇に包まれ、わずかな照明だけが通路を薄暗く照らしていた。
「生命反応はないが、エネルギー反応が微弱にある。非常用電源がまだ生きているらしい」
フィズの報告にディランが頷いた。
「まだコンピューターが稼働しているかもしれない。指揮所か、中央制御室を目指そう」
「了解だ。フィズは船で待機しろ。警戒を怠るな」
「分かった」
ルカはアイラとディランと共に船を降りた。船外は真空状態のため、三人とも宇宙服を装着している。
かつては傭兵や技術者で賑わったドック内部は、見る影もなく荒れ果てていた。漂う荷物や機材の破片を避けながら、彼らはゆっくりと内部へ進んでいく。
「ルカ、大丈夫か?」
ディランが気遣うように声をかける。
「ああ、問題ない。だが……正直なところ、ここに戻ってくる日が来るとは思わなかった」
「わかるぜ。俺だって、あの日の悪夢を忘れられずにいる」
通路を進む三人の間に、微かな緊張が走った。
数分歩いた後、三人は中央制御室へと続くエレベーターの前に辿り着いた。エレベーターは動かないため、非常用ハッチを開け、無重力状態の縦坑を昇ることになる。
「ここから上だ。気を付けろよ」
ルカは慣れた手つきで壁を蹴り、無重力状態を利用して素早く上昇した。アイラとディランもそれに続く。
やがて中央制御室の階に到着し、非常用ハッチを開いて内部に入ると、そこは激しい戦闘の跡が色濃く残る場所だった。コンピューター端末の多くが破壊され、壁には無数の銃弾痕が刻まれている。
「すごい戦闘があったみたいね」
アイラが呟くと、ルカは深く息を吐いた。
「あの日、ここで俺のチームが全滅したんだ」
その言葉にディランは顔を引き締め、真剣な表情で言った。
「ルカ、まずは生き残ったデータを探そう。あの日の真相が隠されているはずだ」
三人は手分けしてコンソールやコンピューター端末を確認し始めた。大半の機器は機能停止していたが、やがてディランがわずかに起動可能な端末を見つけた。
「ルカ、これを見ろ!」
ディランが叫ぶと、ルカはすぐにその端末に駆け寄った。ディランが慎重にシステムを操作すると、かすかに破損した画面が明滅し、古いファイルが開かれた。
「これは……作戦記録だな」
画面には『機密作戦/オペレーション・シャドウファング』という文字が薄く表示されていた。
「シャドウファング……聞いたことがない作戦だ」
「これが例の作戦の真実の記録か?」
ディランが画面を操作してさらに情報を引き出そうとした瞬間、室内に赤い警告灯が点滅し始め、警告音が響いた。
『機密データへの不正アクセスを検知しました。防衛措置を起動します』
「くそっ、罠か!」
ディランが叫ぶと同時に、中央制御室の壁の一部が開き、数台の無人防衛ドロイドが出現した。ドロイドは即座に銃口を三人に向けてきた。
「遮蔽物に隠れろ!」
ルカは素早く叫び、近くのコンソールの影に身を隠した。アイラとディランも即座にそれぞれ物陰に飛び込んだ。
「どうする!?このままじゃ蜂の巣だぞ!」
「落ち着け!奴らを破壊するしかない!」
ルカは腰のホルスターから小型レーザーガンを取り出し、防衛ドロイドに向けて発砲した。ディランも即座に応戦するが、ドロイドは正確な射撃で三人の動きを封じ込める。
「アイラ、そっちは大丈夫か!?」
「ええ、でも動けない!」
「くそ、こんなところで死ねるか!」
ルカは歯噛みしながら、状況を必死に考えた。防衛ドロイドは徐々に距離を詰めてくる。
「ルカ、援護する!何とか奴らを一ヶ所に集めろ!」
ディランが叫ぶと、ルカはすぐに理解した。
「了解だ!」
ルカは銃撃を止めると、ドロイドの注意を引くため敢えて姿を現した。
「こっちだ、鉄屑ども!」
防衛ドロイドが一斉にルカに向けて銃口を向ける。その瞬間、ディランが投げ込んだ手榴弾がドロイドの真下に転がった。
「伏せろ!」
ルカはアイラを引き寄せて床に伏せる。直後、手榴弾が爆発し、防衛ドロイドは破片と化して四散した。
静寂が戻った中央制御室で、ルカはゆっくりと立ち上がった。
「ディラン、助かった」
「まだ終わりじゃないぞ。データを急いで回収しよう。これで連邦軍が動く可能性が高まった」
「ああ、分かってる」
ルカは端末の前に戻り、ディランと共に慎重にデータを回収した。
だがその瞬間、フィズから緊急通信が入った。
『大変だ!連邦軍艦艇が要塞宙域に接近中!数分以内にここへ到達する!』
「くそっ、逃げるぞ!」
三人はデータを手に急いで中央制御室を飛び出し、スカベンジャーへと走った――。
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