表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙と傭兵と日日是好日 ~ハードボイルドな日常譚~  作者: 相沢 藍
錆びついた記憶の鎖(チェイン)
13/30

第三話『アルカディアへの道』

 宇宙船スカベンジャーはバーストポートを離れ、辺境宙域の星々が疎らに輝く暗闇へと加速した。ディランが口にした『アルカディア』という名前は、ルカにとって重い意味を持っていた。


「アルカディアか……」


 ルカは低く呟きながら、操縦席の前方スクリーンを睨みつけた。


「その場所を知ってるの?」


 アイラが静かに尋ねる。


「ああ。知りたくもないくらいにな」


「どういう意味?」


「数年前まで、あそこは傭兵たちの前線基地だった。だが今はもう廃墟だ。俺が傭兵を辞めたのも、あの場所での作戦が原因だ」


 ルカの言葉には怒りと悔恨が滲んでいた。横でそれを聞いていたディランが小さく頷いた。


「あの場所で何が起きたのか、お前は本当に覚えていないのか?」


「覚えているさ。いや、忘れたくても忘れられない。ただ、それが作戦の失敗だったのか、それとも誰かの陰謀だったのかまでは分からなかった」


「だろうな。俺も最近まで知らなかったんだ。お前のチームは最初から消される予定だったんだってことを」


 ルカは拳を強く握りしめた。


「なぜお前がそれを知った?」


「俺も連邦軍や企業の裏取引を探っていて偶然掴んだ情報だ。お前のチームがあの場所で目撃した『軍事機密』を封じるため、作戦そのものが仕組まれた」


「軍事機密か……あれが兵器だったということか?」


「その通りだ。マクスウェルが運ばせていたあの積荷、それこそがお前の仲間たちが命を落とした兵器の完成形だ」


 ルカの目が鋭く細められた。かつての記憶が鮮明に蘇る。爆炎、悲鳴、通信途絶――そして自分だけが奇跡的に生き残った絶望の記憶。


「なるほどな、これで点と点が繋がった。だが、それを証明する証拠はあるのか?」


「アルカディアに行けばそれが手に入るかもしれない。あそこにはまだ情報が残っているはずだ」


「わかった。今さら逃げても始まらないしな」


 ルカはスカベンジャーの進路を決めると、船をアルカディアへと向かわせた。


 フィズが静かな声で補足する。


「アルカディアまでは約2時間だ。ただし、周辺宙域には未だに武装した無法者が頻繁に現れる。油断は禁物だぞ」


「それは分かっている」


 ルカが頷くと、船内に静かな緊張感が広がった。


 航行中、ルカは客室に戻っていた。考えを整理するために一人になりたかったが、すぐに扉がノックされ、アイラが顔を覗かせた。


「邪魔だったかしら?」


「いや、構わない」


 ルカが頷くと、アイラはためらいながら室内に入ってきた。


「あなたの過去に触れることになって、ごめんなさい」


「謝る必要はない。むしろ、俺自身も答えが欲しいと思っていたことだ」


 アイラは少し安心したように頷くと、慎重に言葉を選んで続けた。


「その……あなたが傭兵だった頃のこと、少しだけ教えてもらえる?」


 ルカは短く溜息をつくと、軽く目を閉じた。


「あの頃は、金のためなら何でもやると思っていた。だが、仲間が目の前で殺され、理由もなく自分だけが生き残った時、全てがどうでもよくなった」


「あなたが生き残ったのは偶然ではなく、誰かが仕組んだ可能性があるのよね?」


「ああ。俺だけが生き残ったのは、きっと『目撃者』として利用価値があったからだろう」


 ルカは苦笑いしながらアイラを見た。


「アイラ、お前こそ兄との問題に巻き込まれているんだろう? こんなところにいる場合じゃないと思うが」


「もう手遅れよ。それに、私は兄がどんな組織に手を染めているのか知りたいの」


「お互い、厄介な運命だな」


「ええ、でもあなたとなら、それも悪くないかも」


 アイラが微かに笑うと、ルカは苦笑した。


「こんな生活を気に入ったのなら、お前も相当な変わり者だ」


「あなたに言われたくないわね」


 アイラの言葉にルカが微かに笑った時、インカムからフィズの声が響いた。


『アルカディアに接近した。コクピットに戻ってくれ』


「すぐ行く」


 ルカは立ち上がり、アイラと共に操縦席へと戻った。


 コクピットから見る宇宙の光景は不気味なほど静かで、遥か彼方に朽ち果てた巨大な要塞の姿が浮かび上がっていた。


「アルカディアだ」


 ルカは低い声で呟いた。


 巨大な宇宙要塞は、その名の通り楽園を意味する『アルカディア』とは程遠く、無残に破壊された廃墟となっていた。破れた装甲板、漂うデブリ、そして壊滅したドックゲートが、あの日の惨劇を生々しく物語っている。


「この要塞にまだ何か残っているのか?」


 アイラが疑わしげに問いかけると、ディランが確信に満ちた表情で頷いた。


「連邦軍やマクスウェルの組織が必死に隠そうとした機密データが、どこかに眠っているはずだ。俺たちはそれを探す」


「危険な探索になりそうだな」


 ルカが呟くと、フィズが警告を口にした。


「だが、我々以外にも要塞を狙っている連中がいるかもしれないぞ」


「分かってる。全員、警戒を怠るな」


 スカベンジャーは慎重にアルカディアの廃墟へと接近していった――。

お気に入り登録や感想をいただけると、すごく励みになります

どうぞ、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ