第二話『交錯する銃火』
突然の襲撃に店内は騒然となり、客たちが慌てて身を隠した。銃を構えた男たちは入り口を固め、逃げ場を塞ぐように展開している。
「ルカ・ヴァレンタイン! 大人しく投降しろ!」
リーダー格の男が低く怒鳴った。灰色の制服を着たその男の胸元には、小さく連邦軍のマークが光っている。
「くそ、連邦軍か!」
ルカが低く呟くと、ディランは即座に背中のホルスターから小型のハンドガンを抜き取り、落ち着いた声で返した。
「さっき言った通りだろ? お前たちは狙われている」
「最悪ね、こんな場所まで追ってくるなんて」
アイラが嫌悪感を露わにしつつも、冷静に身をかがめてテーブルの陰に入る。
「どうする?」
ルカは即座に状況を判断する。このまま抵抗すれば派手な銃撃戦になるのは避けられない。だが、投降はあり得なかった。
「奥のドアから逃げるぞ。店の裏に整備通路がある」
ディランは短く囁くと、目配せで合図を送った。ルカはアイラを自分の背後に庇いながら、相手の注意を引きつけるように軽く手を挙げた。
「待て、落ち着け。ここはバーストポートだぞ?連邦軍が好き勝手やれる場所じゃない」
「関係ない!お前らは機密情報を漏らした容疑で指名手配されている。投降しなければ撃つ!」
男は一歩前に出て銃を構えるが、店の奥で物音がした瞬間、視線が一瞬だけ逸れた。
「今だ!」
ディランが叫ぶと同時に、ルカはテーブルを蹴り倒し、それを盾にして店の奥へ向かって駆け出した。
「撃て!」
兵士たちが一斉に発砲し、レーザー光線が店内を激しく照らす。ルカはアイラを守りつつ、店の奥にあった非常扉を蹴り開け、狭い整備通路へ転がり込んだ。ディランもそれに続く。
「急げ、このままステーション内を逃げ回っても時間稼ぎにしかならない!」
「フィズに連絡を入れて、スカベンジャーを起動させる!」
ルカは急いでインカムに手を当てて叫んだ。
「フィズ!緊急事態だ!すぐに出航準備!」
『状況は把握した。すでにエンジン起動中だ、急げ!』
フィズの頼もしい声を聞きながら、三人は狭い通路を全力で走った。背後からは兵士たちが迫る足音が響く。
通路は複雑に入り組んでおり、老朽化したパイプや金属片が通路を遮る。時折それらを飛び越えたり、すり抜けたりしながら必死に走り続ける。ルカの心臓が激しく鼓動を打つが、彼は息を乱すことなく先頭を走った。
「ここを左だ!」
ディランの指示で通路を曲がると、目の前にドックエリアへと通じる古びた貨物用エレベーターが見えた。
「早く乗れ!」
ルカが叫びながらエレベーターのパネルを叩く。扉がゆっくりと開き、その隙間から滑り込むように三人は中に入った。
「下のドックエリアへ!」
ディランがパネルを押すとエレベーターはゆっくり下降を始めたが、背後から兵士たちの足音と怒号が近づいてくる。
「くそ、間に合うか……?」
扉が完全に閉まる直前、一人の兵士が飛び込んできた。兵士は銃を構えるが、それよりも早くルカが動いた。
「遅い!」
ルカは素早く兵士の腕を掴み、そのまま壁に叩きつけた。兵士は呻き声をあげて意識を失う。
エレベーターは再び動き出し、数秒後にドックエリアへ到着した。扉が開くと、目の前にスカベンジャーが待機している。
「乗り込め!」
ルカが叫ぶと、三人は全力で船内へ駆け込んだ。
「フィズ、すぐにゲートを開けて離脱だ!」
『了解、離脱ルートを確保した』
操縦席に飛び込んだルカが操縦桿を握ると、スカベンジャーは強引な加速でドックを離れ、バーストポートを急速に離脱した。
背後ではステーション内に警報音が響き渡り、追っ手が慌てて別の船に乗り込むのが見えたが、すでに遅かった。
宇宙空間に飛び出したスカベンジャーは素早く宙域を離れ、安全な距離まで離脱した後、ようやくルカは息をついた。
「ふぅ……」
「すまないな、再会がこんな形になってしまって」
ディランが軽く皮肉めいた口調で言った。
「気にするな。いつものことだ」
ルカは皮肉げに笑うが、表情は険しいままだった。
「これで分かっただろ? お前たちは完全に狙われてる。連邦軍の秘密を暴いた罪でな」
「そうだな。どうやらのんびり休暇とはいかないらしい」
ルカは小さく溜息をついたが、その目は鋭く輝きを増していた。
「ディラン、お前が掴んだ情報とやらを教えてくれ。全部吐いてもらうぞ」
「もちろんだ。ただし、話をするにはもっと安全な場所が必要だ」
「どこへ?」
ディランは小さく息を吐き出し、表情を引き締めて答えた。
「廃棄宇宙要塞『アルカディア』だ」
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