第一話『バーストポート』
辺境宙域の深淵に、そのステーションはひっそりと浮かんでいた。
通称『バーストポート』。星間戦争時代に造られた宇宙ステーションを改造した施設で、外観は古びて傷だらけ。明滅するネオン管の看板や崩れかけたドックゲートが、施設の退廃的な雰囲気をさらに強調していた。
ここは連邦政府の支配が及ばない中立宙域で、犯罪者、賞金稼ぎ、密輸業者、裏社会の情報屋たちが身を隠すために集まっている。言わば銀河の吹きだまりだ。
「相変わらず陰気な場所ね」
スカベンジャーの操縦席の後ろでモニターを眺めていたアイラが、露骨に顔をしかめた。
「陰気なのは確かだが、ここほど安全な場所もない」
ルカは操縦席で肩をすくめながら答えた。
アルテミスから辛くも逃れた彼らにとって、バーストポートは絶好の隠れ家だ。少なくとも、連邦軍が正面切って追いかけてくるような場所ではない。
「着艦許可が出たぞ。Eゲートだ」
フィズがルカに伝えると、スカベンジャーはゆっくりと施設のEゲートに滑り込んだ。荒れ果てたゲート内部には他にも大小さまざまな宇宙船が停泊しており、慌ただしく働く整備員や貨物業者たちの姿がちらついている。
船を着艦させると、ルカは大きく伸びをして、操縦席から立ち上がった。
「フィズ、船を頼むぞ。俺たちは情報収集に行ってくる」
「了解だ。だが気を付けろよ、この場所は相変わらず危険だ」
「分かってるさ」
ルカはジャケットを羽織り、アイラと共に船外へ降り立った。
バーストポートの内部は薄暗く雑然としており、独特の油と錆びの匂いが漂っている。廊下には照明が不規則にちらつき、ところどころで配線がむき出しになっている。壁には賞金首や失踪者の顔写真が雑に貼りつけられ、過去の戦争の残骸をそのまま放置しているかのような有様だ。
「こんな場所に知り合いがいるの?」
アイラが怪訝そうな表情でルカに尋ねる。
「まあな。昔、俺が傭兵だった頃の知り合いだ。腕は確かだが信用はできない男だが」
「あまり良い相手ではなさそうね」
「それでも、今は少しでも情報が欲しいだろ?」
ルカが視線を送ると、アイラは静かに頷いた。
二人は人混みを避け、狭い廊下を抜けて、やがて一軒の酒場の前に辿り着いた。入り口の扉は錆びつき、半開きになっていて、薄暗い店内からは酒と煙草の匂いが漏れ出している。
「ここだ」
ルカは扉を無造作に押し開け、中に入った。
店内は雑多で、傷だらけのテーブルや椅子が無造作に配置されている。酒場の奥にあるカウンターに、見覚えのある男が座っていた。短く刈り込んだ金髪に、左頬には深い傷跡がある。鋭い瞳は昔とまったく変わっていない。
「久しぶりだな、ディラン」
ルカが声をかけると、ディランと呼ばれた男はゆっくりと振り返った。
「ルカ・ヴァレンタイン。まさかお前がここに来るとはな」
ディラン・アッシュフォード。かつてルカと共に数多の修羅場を潜り抜けた傭兵仲間だ。二人はライバルであり、親友でもあった。しかし、ある作戦をきっかけに袂を分かってからは疎遠になっていた。
「お互い様だろ。こんな吹きだまりで何をやってる?」
「お前と同じだよ。隠れてるのさ、過去の亡霊からな」
ディランは皮肉げに口角を上げた。
「俺がここに来た理由も分かってるな?」
「ああ。マクスウェル絡みの件だろ。お前があの積荷の輸送に関わったと聞いて驚いたぜ」
「その話をする前に……彼女は信用できるのか?」
ディランがアイラに冷たい視線を向けると、アイラは怯まずに言った。
「信用できるかは自分で判断してもらうしかないわ」
「なるほどな」
ディランは鼻で笑い、ルカに再び視線を戻した。
「あの積荷は新型兵器の一部だった。その開発には、昔お前が関わったあの作戦で死んだ仲間たちが絡んでるらしい」
「……何だと?」
ルカの声は低く鋭くなった。
「あれは事故じゃなかった。お前のチームは初めから消される予定だったんだよ。連邦軍とマクスウェルの組織はずっと前から裏で繋がっていたんだ」
ルカの表情が凍りつく。あの時の作戦は、ルカが傭兵稼業から離れるきっかけになったほど大きな傷を彼に残していた。
「お前、どこまで知っている?」
「かなり掴んでる。だが、詳細はここじゃ話せない。盗聴器があるかもしれん」
ディランは慎重に店内を見回した。
「お前たちも狙われてるぞ。気を抜くなよ」
その言葉が終わると同時に、店の入口が勢いよく開き、銃を手にした数人の男たちが乱入してきた。
「動くな! ルカ・ヴァレンタインはどこだ!」
「くそ、さっそく来やがった!」
ルカは即座にディランと視線を交わし、瞬時に戦闘態勢に入った。
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