第8章「ふたりきりの帰り道」
騒動から数日後。
俺とこよりは、いつもの放課後の帰り道を歩いていた。
夕日が沈みかけた帰り道。
空は茜色に染まって、吹く風が少しだけ涼しい。
「……先輩」
「ん?」
こよりはちょっと顔を伏せながら、小さく言った。
「最近ね、すっごく嬉しいんだ」
「なんで?」
「だって、前みたいに普通に話せるし……
放課後、一緒に帰るのも、私だけだし」
顔を真っ赤にして、言葉を続ける。
「リモコンのことは、もういいの。
私は先輩と、素のままでちゃんと恋したいって思ったから」
その言葉に、俺も胸がドクンと鳴る。
「……こより」
自然と立ち止まって、ふたりきりの夕焼けの下で向き合う。
「じゃあさ。もし今ここで、俺が『好きだ』って言ったら」
「っ……!」
「……どうする?」
こよりは、耳まで真っ赤になりながらも、ぐっと目を見て言った。
「そしたら、私も言うよ」
「うん?」
「私も、先輩のことが好き」
すごく小さな声だったけど、ちゃんと届いた。
ずっと、この瞬間を待ってたんだ。
俺も微笑んで、手を差し出した。
「じゃあ、これからはリモコンなんかじゃなく、俺の手で」
「……うん。先輩の手がいい」
手を繋いだ瞬間、こよりがにこっと笑った。
もう、何の力もいらない。
お互いの気持ちだけで、こんなにも暖かい。
夕焼けの中、ふたりの影が寄り添って、
ゆっくりと並んで帰っていった。