第7章「リモコンバトル、開幕!」
日曜の昼下がり。
学校の裏手にある古びた空き地。
そこに現れたのは、俺とこより、そして先に待っていたつばさ。
「よく来たね、先輩」
つばさはニヤリと笑う。
その手には例の高性能版リモコンが握られていた。
「本当にやるつもりか、つばさ」
「当たり前でしょ。これはケリつけるための勝負だし」
こよりも俺の隣に立ち、真剣な顔で言う。
「私も、絶対負けない」
空気がピリつく中、つばさが取り出したのは**『ルールカード』**。
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リモコンバトル ルール
•お互いのリモコンを使い、相手を操作する勝負
•3回相手を行動不能(デレ、ツン、甘、ドキドキなどの状態)にした方が勝ち
•戦いの途中で、“本当の気持ち”が操作を打ち破った場合は即勝利
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「……最後のルール、なにこれ」
「フフ、だってさ、“心の強さ”が一番大事なんでしょ?」
つばさの目が、まっすぐ俺を見据える。
「さあ、始めようぜ!」
バトルスタートの合図とともに、つばさがいきなりボタンを押した。
ピピッ『ドキドキ』
「わっ、きゃっ……!」
こよりが頬を染め、胸を押さえる。
けど、すぐにぐっと耐えた。
「そんなの、効かない!」
「チッ、さすが天音」
今度はこよりのターン。
リモコンの**『照れ照れ』**ボタンを押すと、つばさが顔を赤くして口ごもる。
「くっ、な、なんだよこれ……」
しかし、完全には崩れず。
「はー、効くには効くけど……これじゃ決着つかないな」
何度かボタンを押し合ううち、
効果が薄いことに3人とも気づいた。
そして、つばさがポツリと言った。
「やっぱそうだよな。これってさ、結局“誰が本当に先輩のこと想ってるか”が一番強いってことだ」
「……」
「だからさ」
つばさはリモコンをそっと置いた。
「私、先輩のこと……最初は面白そうだなって思っただけだった。
でも、こより見てたら、こんなにまっすぐ誰かを想える子がいるんだなって。
それで、悔しくなって、意地になって……でも違った」
静かに目を伏せるつばさ。
「……ごめん。もうこんなくだらないこと、やめよ」
つばさの声に、こよりも俺も黙り込んだ。
そして、俺もリモコンを地面に置いた。
「俺も、もうこれに頼るのやめる。
もし想いを伝えたいなら、ちゃんと言葉で伝えるべきだ」
こよりが、ふわっと微笑んで頷いた。
「……ありがとう、先輩」
夕暮れの空き地に、リモコンが転がる。
誰もそれに触れず、ただ3人の気持ちが、ようやく正面から向き合った瞬間だった。